「普通の垣根を越えて」その5
私達はユイさんもお家で経緯を話した、真実と嘘偽半分半分だけど何とか説明し終えると若干の違和感があるのかサナエちゃんは顎に手を当てて考える。
「筋は通ってるわ、本当かどうかは怪しいけれどユカリちゃんは本当にそれでいいの?」
サナエちゃんの言葉に私は後ろめたい気持ちが前に出る。冒険者になるということは全て一蹴して心機一転するということだ。
これまでやって来た苦楽も勉強もそしてアスカちゃんの期待を裏切ることとなる。それだけじゃないアスカちゃんの夢を壊し信頼を失うことになりかねない。
それを承知の上で全てを捨て去るなら一応了承するとのこと。
「ユカリちゃん、本当に良いの?」
最後通牒にサナエちゃんは重みのある発言に私は肩の力を抜き、決心した。
「うん、私はユイさんと一緒に冒険者になる、私は元々“普通”を変えたくて何年も落ちたり試験全不合格にもなって追試で漸く生き残れていたけど正直辛かった、才能が無いなんて知ってた、途方に暮れる毎日が嫌で迷っていた時にユイさんに看破されて気付いたんだ、“普通”から抜け出すのは今しかないって」
少し偽りはあるけど大体は間違っていない、本当は“ユイさん”が気になって仕方ない、彼女と話していると何処かで会ったかのような安心感と親しみがある。
心の中でザワつく、“ユイさん”から離れてはいけない、この人と一緒に生きたいと何故か心が揺らいだ。
本当に私は“はじめまして”すら分からない気持ちだがそれを知るためにも一緒に生きたいんだ。
私の決心した目を見つめたサナエちゃんは呆れたのか期待しているのか分からないがしょうがないと溜息を吐いた。
「・・・分かったわ、ユカリちゃんがこんなに熱意があるなんて初めて見たわ、それでもアスカにはちゃんと話しなさいよ、冒険者になるからごめんってね」
また苦言されると思いきや意外と頷いてくれた、そう言い残すとサナエちゃんは仕事が山積みだから帰ると言って私達を後にした。
「ユカリちゃん・・・」
ユイさんの不安な表情に私は苦笑する。
アスカちゃんに謝らないと、ユイさんは初めて外に出る権利をくれた、もう仲間だからと拘束しないと約束し久し振りに外に出ることなった。
私は重々しくも学園に戻りアスカちゃんの元へと一気に駆け出す。許してくれるだろうか、その一抹な不安だけが心残りだった。




