「普通の垣根を越えて」その6
ユイさんのお家から少し離れて私の知る魔導学院へと続く道を見つけた。通行人には私の事をまるで何もなかったように素通りする。
「私って本当に何者でもないんだね」
先程通ったのは同じクラスの女の子、それなのに無関心だなんて私も影が薄くなってしまったのだろうか。
「アスカちゃん探さなきゃ」
だが寂しい余韻に浸かってる場合じゃない、どうせもうこの人達とは関わりが絶たれるんだ今更後悔なんかしていない。私は歩く人に声を掛けてアスカちゃんの居場所を聞き出す。だが最近のアスカちゃんは私がいなくなり外出しているとのこと。
もしかしたらばったり出会うかもと学園内を彷徨いていると何処からか声が聴こえるがそれは聞く耳を持たない方が良かった。
「ねぇねぇ、あの子失踪したって子?」
「あ〜あの子か、ルックスは良いけど底辺だしな〜」
「私の方がよっぽど頭良いもんね!」
「それな!」
カップルかな、私を見る度皆クスクス嗤ってる、気の所為だと信じたいが誰も私の事なんか気にしてない、私は必死で探していると不愉快な視線だけが私に向けられてついに心の中で何かが折れたような音がした。
私は愚かだ、本当の私の心にはもうシスターズになりたい気持ちなんか欠片も残っていないじゃないか。
ここにいたくない、私は目を赤くして立ち去るとその背後に私の親友が息を切らしながら走って来る。
「はぁ、はぁ、はぁ、ユカリちゃん!!」
彼女は私の親友であり幼馴染だ、きっと心配してくれるんだろうな。
だけど私は振り返らなかった。
「ゆ、ユカリちゃん?」
優しいアスカちゃんに私は苦笑した。近づかせることはしなかった。
「ごめんね、アスカちゃん……明日から私冒険者になることに決めたんだ、だからもう・・・」
ごめんと何度も情けなく謝り、最後まで言おうとした瞬間、こんな私をアスカちゃんは背中から抱気寄せた。
「また……虐め?」
アスカちゃんの発言に私は答えなかった。こんな光景何度も経験してるからかな、でも一つだけ違う・・・泣きそうな気持ちを抑えて振り返り私なにの笑顔を見せる。
「ううん、私ね“やりたいこと”を見つけたの」
いつもは虐めや自殺願望の話をするけど今回は違う、普通の垣根を越えて皆を驚かせる冒険者になる。
虐めてた人に思い知らせてやるんだ、私は暴力になんか屈しない、虫を食わされようが服を抜がされようが骨を折られようがその虐められた人間は貴女達よりも何倍も強くて格好くなって生きてやるって。
「な、なら私も・・・」
アスカちゃんは本当に優しい女の子だ、だから私は甘えてしまう。
「ごめん、アスカちゃんは連れていけない」
「ど、どうして!?」
四六時中一緒の幼馴染は私の事を分け隔てる事なく傍にいてくれた、きっと冒険者になったら最強コンビになるかもしれない。
だから私はごめんと小さい言葉と共に振った。
「私はもうアスカちゃんを頼らない、アスカちゃんはアスカちゃんの道を行って、私は私の道を行きたいから」
自分勝手に親友は巻き込めない、この子は才能もあって沢山迷惑も掛けた、今更全部投げ出させるなんて所業は出来ない。
冷酷とか人でなしと思われても構わない、それがどんなに辛いことでも私の決心は揺らぐことはないんだ。
「待って・・・行かないでユカリちゃん!!私はユカリちゃんの為に―――― 」
「ごめんなさい、惨めで勝手な私のことなんかもう忘れて、アスカちゃんはもっと凄い人になってね・・・今まで私なんかと遊んでくれて本当にありがとうございました」
アスカちゃんは嫌だ嫌だとらしくない子供のように泣きつくのを振り払ってその勢いで押し倒してしまった。
蹲る親友に私は踵を返し去ることにした。でも怪我したら嫌だからと最後に私達が愛用した傷薬が入った瓶を起いて振り返ることも無くその場から離れることにした。
心に決めたのにごめんなさい、ごめんなさいと何度も言って楽しかったあの日が抜けること無く脳内に焼き付いている。
冒険者と騎士団は半ば敵対同士の関係らしいがもしかしたらいつの日にか私達が殺し合う事もあるのだろうか?そんなことは起きて欲しくないと心を痛めながら悍ましい事を考えてしまった。
私と出会って嫌だったよね、もう大丈夫だから安心して、こんな出来損ないなんてさっさと忘れて・・・やめよう。
膝から崩れ落ちて顔を蒼白に塗りつぶされたアスカちゃんの嘆きに私の心臓を裂くように覚悟が足りなかったら私みたいな人間に貴重な時間を作るなんてきっと迷惑だ。
距離を置こうかな。




