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王道ストーリーって、配役まで王道じゃないと,とんでもないことになるよね!!で、おしまい。




 皆に説得され、この感情は恋ではなく、恐怖だと結論付けられた。

 そうかー…この胃の痛みは恐怖かー。


「はあー…」


 放課後、校門が見える廊下の窓に寄りかかり憂鬱な気持ちでため息を吐いているとー…雨がふってるなー。

 傘を差し帰宅する生徒がカップルが並んで帰ってるのもーー。ちらり、と見えたピンクの髪と紫の髪の二人に俺は目が釘付けになった。


「なっ」


 ヒロインさんが攻略キャラ以外の男と相合い傘で帰ってるだと!?


「あー、あれ、他校に転校する隠しキャラだわ」

「比奈川!」


 いつの間にか隣で一緒にヒロインさんを見ていたらしい比奈川に驚く。


「攻撃的だな。豊。メイン達の夏休みの結果が芳しくなかったから逆ハーは来年にかけて、メインはパラ萌え目指しつつ、キープに違う隠しキャラかー。うふふ、その努力をぶち壊した時の顔が超楽しみだ」


 にまにま本当に楽しそうな比奈川。


「ん?」

「なんだ?」

「何年ゲーム?」

「三年」

「来年もあるのかよ!」


 そんな今年だけだと思ってたのに思いの外長丁場だと!?


「アンタ攻略するには夏休み中に逆ハー条件果たしてとあるイベを起こさないといけないらしいけど。夏はヒロインのデート時によく遭遇したから、薄い本を返したり、痔の薬の話したり、メイン達の傷に塩を埋め込んでたらあんまり、デートが盛り上がらなかったみたいでな」


 それはそうだろう。感性が通常とは別枠でもない限り、そのような状況でデートは楽しめない。そして、その別枠は変人・奇人って派閥に入る。例として比奈川だな。


「でも、あいつも楽しそうに好きなカプを目を輝かせながら語ってたから自業自得だよな」



 ーーヒロイン、お前もか。



 その様子を思い浮かべてみる。BL談義に花を咲かせる比奈川とヒロインの近くで寂しく放置される五人の誰かー…、


「かわいそう!」


 わっ!と顔を覆う。

 全米は涙しないだろうけど、俺だけは泣いておこう。



◇◆◇◆◇


 比奈川が傘を持って居なかったので家まで送る事にした。


「あんた、トロそうだから車道側歩くのやめたら?」


 無言で車道側を歩くことにする。


「肩が濡れてるなら言えよ」

「え?かっこつけてる?」

「気遣いだよ!」


 なんで、ドン引きしてるんだ。

 小さいからどの角度が良いのかさっぱりわからない。

 隣を歩く比奈川が雨に濡れないようにちらちらと視線をオレンジの頭にそそぐ。気になる。しばらく無言で歩くと、公園が見えた。


「あ、」

「ん?」

「そういえば、ここであんたが子猫拾ってるの見たことあるんだよ」

「えーと……ああ、花か」


 うちに居る猫は全部、捨て猫だからな。そういえば、ハニーもダーリンも叔父さんになにも言わずに連れ帰って、そのまま飼ってる。叔父さんも俺よりは劣るが猫好きだ。携帯の待ち受け画像をお猫様がたの集合写真にして、彼女にフラれていた。お猫様を飼うまで彼女の写真だったのにねー。


「そろそろ、バイトしなきゃなー。夏休み遊びすぎて子猫の去勢代が」

「あ、それ、あたしが払う」

「は?なんで、うちの子だし」

「だって、クロにあの子押し付けたのあたしだから」

「…………………はあ!?」


 突然のカミングアウトに目を丸くする。いや、待てよ。


「いや、待て。花を拾ったの去年なんだけど!?お前、引っ越してきたのは今年の水無月だよな?なんで、花の事知ってんだ」

「ああ、去年は、本当にたまたまだったんだけどな。雨の日に手慣れた様子で猫を持っていく姿に常習性を感じて。春にこっちに引っ越すって聞いたから、うちで飼えない猫をとりあえず双葉の制服を覚えてたから近くにダメ元で置いたら、案の定、あんたが拾っていくから。常習犯だと確信してな」

「確かにレディーは学校近くで拾ったけど!」

「引っ越してすぐに保護した子猫をクロの常習性のおかげで躊躇いもなく双葉の前に置いていけたな」


 何故だろう。比奈川のせいで犯罪者になった気分だ。


「どうやって、猫の様子を確認しようかと思ってみてたけど、ーークロと赤城が一緒に居るところを見て前世を思い出したんだけど…」


 何か後悔しているように影があるような顔をする比奈川。


「爆笑した後にもしかしたら、クロが痔の薬にお世話になる事を厭わない性癖だったらとかわいそうに思えて」

「待って。何が」

「え?性癖笑われたらかわいそうだろ?」

「灰村は!?」


 グラビアアイドルの話題を出されたあいつはかわいそうじゃなかったのか。


「ん?なんだっけ」

「覚えてすらねえのかよ!」


 かわいそうだ。灰村がかわいそうだ。


「だからなー、痔のお薬の世話になりたくないなんて、クロが騒いだときは、この方向の笑いは起きないのかと心底がっかりしたよ」


 ひどい。憂い顔でなにいってんの?!


「まあ、おかげでクロを盗られたと勘違いした五人を楽しく絶望の淵に叩き込めたけどな」


 やっぱり、俺は悪魔と契約したようだ。

 我が身かわいさになんてことをしてしまったのだろう。

 呆然と、隣を歩く悪魔を住んでいるというマンションの入り口まで送るとー…、


「なんだ。帰るのか?」

「うん」

「茶くらい出すからあがってけよ」

「いや、良いよ」


 これ以上一緒に居たら、胃から胃酸が……っ。


「そうか」


 残念そうに頭を垂れる比奈川。


「クロになら、あたしの大事なものをあげれると思ったのに……」

「え……っ、あ、え?」

「な、あがってけよ」


 潤んだ瞳のまま、そっと腕を掴んで部屋に誘導し始める比奈川。

 え、この展開って……いや、待て。俺達、付き合ってるふりで……ちゃんとしたお付き合いじゃなくて……こ、こういうのは、ちゃんと順番をーー。そ、そろに比奈川の事まだよく知らないし……っ。


「あ、あの、比奈川」

「ここがあたしの部屋だから」


 マンションの一室のドアが開いた。ーーやばい。え、どうしよう。

 そのまま、背中を押されてそっと……、




ー…

ーー…

ーーー…

ーーーー…

ーーーーー…




 お腹の温もりを感じながらふらふらしながら自宅に帰る。


「あれー、今日は遅かったね。遥くん」

「………うん」

「ご飯食べる?」

「……………………うん」


 ふらふらと靴を脱ごうとしたら、お腹からニィーッという鳴き声がした。


「………遥くん、出してあげたら?」

「………うん」


 そっと、服の中に保護していた子猫を出すとぷるぷると不安そうにー…っ。


「ーーされた、」

「あー、子猫ちゃんの名前も決まらないままに……って、どうしたの。遥くん、震えて」




「男の純情もてあそばれた!!」



「遥くん!?」



 

問題:比奈川の大事なものを述べよ。


A.保護した子猫。



◇◆◇◆◇


 しくしく事の経緯を叔父さんに話すと叔父さんが呆れた顔をした。


「遥くんは、頭がちょっとアレだね」

「ちゃんとお家にはご家族様が居ました」

「そんな報告要らないから」

「期待したよー。かなり期待したよー。だって、男の子だもん☆」

「元気そうで良かったけど大変ウザいよ。遥くん」

「猫飼っていい?」

「今さらだよ!?」


 比奈川から譲られたもさもさしたちょっと毛が長いタイプの子猫を撫でようとしたら、フーッ!と威嚇された。


「……比奈川から譲り受けた君の名前は、はっさくにするよ」


 あいつ、比奈川みかんだし。


「でも、比奈川って子と遥くんって、とても王道的な出会いだったんだね」

「え?」


 叔父さんの言葉に目をぱちくりと瞬かせる。


「雨の日に美少女が始めてきた町で捨て猫を拾う少年に出会って一目惚れするってーーセオリーだよね」

「………うん?」


 眉間に皺を寄せて叔父さんの話を聞くが、なにかしっくり来ない。


 どこだ。何がしっくりこないんだ。


 新しく家族になったはっさくと子猫ちゃんを自分の名前だと思い込んでしまったちょっと大きくなった子猫の尻尾の先を確認しながら、何がしっくりこないんだろうと、頭を傾げる。あ、はっさく、かぎしっぽだ。


◇◆◇◆◇



「よう、クロ。猫の様子どうだ」


 朝一番に挨拶よりも先に猫の様子を聞いてくる比奈川に苦笑しつつ、返す。


「あー、はっさくは」

「名前、ださっ」


 なんで、身を引いた。


「……ダーリンがどっかに連れ込もうとするから、大きめのゲージに入れてきた」

「あー、慣れてないからな」

「慣れるまではねー」


 わかったように互いに頷く。


「なんか、顔色が冴えないけど、どうした」


 なんだと!?


「比奈川、気遣いが出来たのか!?」

「クロ、あたしをなんだと思ってんだ」


 人の心を踏みにじる悪魔。とは、言わずにグッと感動しつつ、


「まあ、相手の弱味を握っておくの好きだからな。ほら」


 やっぱり、悪魔だった。


「……えーとな、『雨の日に猫好きな少女がたまたま偶然、捨て猫を拾う少年を見かけた場合、それが手慣れていて前科ありだった場合どんな気持ちになるものかな?』」


 俺の問いに比奈川は、あーっとしたり顔で頷き、


「そんなの決まってんじゃん☆」


 パチンッとウィンクしつつ、比奈川の答えはー…、



◇◆◇◆◇


「「くろたん、」」

「黒田」

「遥」


 生徒会室であまりの胃痛のためにぐったりしている俺に灰村が胃痛薬と水を持ってきてくれた。

 心配そうな五人の視線にさらされながら、胃痛と戦う。


「何か有ったのか?」


 赤城の優しい気遣いに悪魔をけしかけた後悔はあるものの、俺様が治ってる!とも感動した。


「あのな。比奈川に」

「「「「「う゛っ」」」」」


 顔色を一気に青くさせる五人。腹も押さえている。しかし、黄瀬田が表情をひきつらせながらも、


「彼女が、なんですか」


 黄瀬田にメリットがないのに聞いてくれてる!


「うん、『雨の日に猫好きな少女がたまたま偶然、捨て猫を拾う少年を見かけた場合、それが手慣れていて前科ありだった場合どんな気持ちになるものかな?』って聞いてみたら」

「色々変だよ。なんで犯罪者っぽいの。くろたん」

「えーと、女の子としたら優しい少年に一目惚れ的な?それはないとしても好意は持つかな」


 竜と龍がそれぞれの意見を言ってる!


「普通に考えたら、龍の意見だな。好意的には思うんじゃないか」


 灰村が人の意見にきちんと声に出して賛同した!


「で、比奈川なんだけど。あいつー…」


 悪人面だったなー。


「『やべ、アイツんちなら猫大量に飼えんじゃね?何処の奴か調べねえと』って思うって……これ、一目惚れの種類?」


 五人が一気に表情を苦々しいものにした。


「絶対違う」

「むしろ、なんで好意的には解釈したんですか」

「くろたん、頭が心配だよ」

「くろたん、世の中善意だけじゃないよ」


 四人のツッコミが速い。灰村だけが、何も言わずに何か考えてから、頷き、


「黒田。それは、『目を付けられた』ーーって事なんじゃないか?」


 灰村のそんな言葉に………、


 あ、しっくり。




 黒田遥。美少女と王道的出会いをしたが、ーー配役ミスにより、




一目惚れされる→×

目を付けられる→◎



 脚本家出てこーいっ!!

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