ネコとイヌとヘビ
「良かったわ! ミリーちゃん、どこも怪我はないわね!」
ギルドに入るなり半泣きのお姉さんがミリーに飛びついてきた。昨日ミーシャとハインリヒとナーガの三人でルキ町の件を報告していたのだ。
その際疲れ切ったミリーは宿に置いてきたため、お姉さんは心配で少しやつれてしまった。
だが、こうやって心配して泣いてくれる人がいることにミリーは驚いて、それ以上に嬉しくなった。
「みんながいるから大丈夫です! お姉さんもいるし!」
「ミ、ミリーちゃ……ぶっ!」
ミリーの破壊的な可愛らしい笑顔に、なぜかお姉さんは鼻血を噴き出した。ネコとイヌとヘビはものすごく白い目で、そんなお姉さんを見ている。
ミリーはそんな薄汚れた大人たちには気付かず、透明の石にプレートを置いた。
「あ……レベルが上がってる! レベル15だよ! すごいよ!?」
今までの伸び率を考えれば飛躍的、革新的にレベルアップしたと言える。ミーシャとハインリヒは顔を見合わせた。
「何でだろう!?」
「実戦してないニョに、変だニャァ?」
ミーシャとハインリヒもプレートを置いて情報を更新した。
「あ、俺も上がってる。31になってるニャ?」
「俺もだ。31だ……」
三人は「不思議だ、不思議だ」と首を傾げている。実はレベルアップの仕組みは解明されていない。一般的に実戦があるとレベルアップするためそう言われているのだ。一人ナーガが訳知り顔で涼しい顔をしていた。
「そうだ! お姉さん、ナーガさんも登録できますか?」
「え、ええ。良いわよ?」
「ミ、ミリー!? 何言ってるんニャ!?」
「だって、ナーガさん逃げて来て、行くところないんでしょう? ね、良いでしょ? お願い。それにお爺さん放り出すなんてできないよ……」
ミリーが心配そうな顔でナーガを見つめると、ミーシャとハインリヒは肩を竦めて諦めたように溜息を吐いた。
「まぁ……ナーガくらい強いのがいれば……完璧だな……」
「一緒にいて良いのかのぅ? 優しい子じゃなぁ、ミリーは……」
ナーガは嬉しそうにシューシュー言いながらカウンターに這い上がった。
「じゃあ、チクッてするわね」
「おお、お手柔らかに頼むよ……ほっほっほ」
『ナーガ 種族・原初の大罪 レベル・測定不能』が仲間になった。
*
食事の途中でミリーは半分寝ている状態になってしまった。一口食べてはカックンして、カックンしては目を覚まして一口食べる。と言った状況だ。
「大丈夫かの、ミリーや?」
「ん……」
「よっぽど疲れたんニャろうな。さ、ベッドに行くニャ」
「ん……」
ミリーはベッドに横になるなり寝息を立て始めた。ベッドの上ではいつものようにミーシャが上に乗って、ハインリヒが足元、おまけにナーガがミリーの横でとぐろを巻いている。
「おい、エロじじい。起きてるんニャろ?」
「なんじゃ? 年寄りは寝るのが早いんじゃ」
「何、年寄りの振りしてミリーに取り入ってるんだ?」
「ホッホッホ……大人の魅力ってヤツじゃよ……それにしても可愛らしいのぅ」
「ウチはもう定員一杯なんだからニャ。ありがたく思えよじじい」
ナーガは二股の舌をチロチロ出しながら体を伸ばしてユラユラと動いた。しばらくすると、そこには黒髪の美しい男が全裸で寝そべっていた。
「貴様! どういうつもりニャ!?」
「こら! 人化するなら服を着ろ!」
「いやぁ、可愛らしいのぅ……」
ナーガは年寄りの振りをして聞こえないフリをして、寝ているミリーのホッペを指で押している。
しかも二股の舌を出してときどきチロチロとホッペを舐めている。絵的にアウトだ。
「触るな! 舐めるな!」
「ふぉっふぉっふぉ……」
「ん……みんな、どうしたの?」
「にーにー、にーにー」
「くぅーん、くぅーん」
「しゅーしゅー」
「なぁに? もぅ、みんなも眠いんだから、寝なさい……」
何やら一悶着あったが、皆に囲まれてミリーは幸せそうな顔で眠りに就いた。