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血の珠

「くそっ、あいつら派手に追ってくるニャ!」


「こっちだ、ミーシャ!」


 その頃三人はブルコラクの領土の森へ入っていた。ブルコラクの領土はバフォメット界の中にあり、それもブルコラクたちが気に入らないことの一つだ。

 三人は追われていることは分かっていたため、領土内に入ってから二手に別れて行動していた。

 ミーシャ、ハインリヒの二人が陽動作戦で追っ手を引き付け、その間に本命のナーガを王城に潜入させる作戦だ。

 ブルコラクの領土内には魔術耐性の結界が張ってあるため、魔術が使えなくなってしまう。そのため、ミーシャやハインリヒ、ナーガのように小さくて俊敏に動ける冒険者が重宝される仕事だ。しかも三人ともいざとなれば動物の振りをすれば良いので今回の仕事には打ってつけだった。


 そう思っていた矢先に二人はすっかり敵に囲まれてしまった。


「くそっ……じじぃは?」


「……無事に王城に向ったニャ。しばらくここで足止めするニャ」


 以前ならチームワークなど考えられない二人だが、任務を全うしてミリーに立派な男だと認められるため自然に協力態勢が出来上がっていた。


「見つけたぞ、スパイどもめ! 観念するんだな!」


 一人の敵が剣を振り上げながら迫ってくると、更に4、5人の敵がわらわらと出てきた。


「ここまでか……」


 『みんなのために、もっと大きいことやれるんだよ!』


「ミリー……くそっ! 諦めるな、ミーシャ! 最後まで抵抗するんだ!」


「そ、そうニャ!」


「やる気か……動物風情が!」


 二人は身を翻して敵に立ち向かっていった。




***


 次の日の朝食後、ミリーがギルドへ向かうと師匠二人は既にギルドの前でミリーを待っていた。


「おはようございます! ししょー」


「おはよ、ミリーちゃん。元気だね」


「疲れは残っていないでござるな?」


 二人は元気にニコニコしながら挨拶をするミリーを見て、眩しそうに目を細めた。二人は夜に仕事を頑張ると、次の日に疲れが残る日もたまにある微妙なお年頃だ。


「今日のお仕事はなんですか?」


「昨日の依頼主が直接会いたいと言ってるでござる」


 ミリーの活躍のおかげで依頼主の想定より早く仕事が終わり、その腕を見込まれて直接仕事を頼みたい、とギルドで言伝ことづてを貰った。


「ミリーちゃんのおかげで大きい仕事が貰えそうだよ」


「そうでござる。弟子にした甲斐があるでござるよ」


 二人で請け負っても直ぐに終わった仕事だが、二人はミリーをに自信を付けさせようと褒めちぎった。

 それから雑談をしながら指定された広場へと行くと、家紋の付いていない二頭立て馬車が停まっている。

 

「あれに乗るでござるな」


「さ、ミリーちゃん、さり気なく乗るんだよ」


「はい!」


 三人がさり気なさを装いながら馬車に乗り込むと馬車は走り出した。馬車の窓は目張りされており、外が見えないようになっている。薄暗い車内でミリーが少し不安そうにキョロキョロしていると馬車が停まり、山羊の面を付けた男が乗ってきた。


「君たちが……ミリー・ケイン!?」


「あれ? ミリーちゃんの知り合いですか?」


「いや、知らん」


 フルネームで呼ぶくらいだから知っているのだろうが、クライアントが知らないと言ったら知らないのだ。信用第一のニンジャ二人は大人社会のルールに則り即座に頷いた。ミリーもシャロンのお父さんみたいな声だな、と思いつつ頷いた。


「僕達に直接仕事を頼みたいと伺ったのですが」


「……う、うむ」


 山羊の面の男はコリンが言うと、面を被っているのにも関わらずミリーをチラチラ見ていることが明らかに分かる動作をしている。


「この子なら大丈夫です。夕べも一人で潜入捜査を熟しましたから」


「そうか……いや、だが、しかし……ニンジャか?」


 ニンジャの黒装束に頭巾を被ったミリーを見詰めながら山羊の面の男は困り果てた。山羊の男はミリーの推測通り、シャロンの父親のアンリだ。まさか、ミリーがこの場に来るなどと思いもよらなかった。

 

『……実は、その子の仲間がブルコラクの王城に潜入しているんだ』


『あ! 昨日の会合で言っていたスパイ三人組ってミリーちゃんの仲間だったのか』


『確かに危険な仕事でござるな』


 ミリーは突然聞き慣れない言葉で話し始めた三人を不思議そうな顔で見つめた。ミリーに話を聞かせないために、苦肉の策として公用語ではなくへブル語で話を始めたのだ。公用語で大体は事足りるのだが、界を股にかけて仕事をする人族はへブル語も話せる。


『そうだ。彼らには、ブルコラクの王城に「紅珠」を地下に設置して貰うという仕事を頼んでいるのだ』


『「紅珠」?』


『「紅珠」?』


「「ちんたま」?」


「「「ぶっ……!」」」


 へブル語の「紅珠」という言葉がミリーにはそう聞こえた。二人が立て続けに繰り返したので、そう聞こえたミリーも続けて言ってみた。


『……「紅珠」とは血で出来た珠で、バフォメットの王に代々受け継がれている宝珠だ。それのおかげで我々バフォメット族は平和な暮らしを保っている』


『ふーん。それで、僕たちの仕事は?』


『私は二重スパイになってブルコラクの情報を仕入れているのだが、その通信役として動いて欲しいのだ。これは何としても成功させたい作戦なのだ、何かあれば即座に動けるようにリアルタイムでの情報が欠かせない。だが、……まさか、ミリー・ケインがいるとは』


 山羊の男は少し項垂れている。

 幸い二人は昨夜姿を見られていないので仕事を引き受けることに問題はない。だが、ミリーは姿を見られている。師匠二人は目線を交わし合いながら、頷いたり首を横に振ったりを繰り返してから二人で大きく頷いた。


『この子に危ないことさせたくないのは分かるが、この子だって冒険者の端くれでござる』


『そうだよ。それに、仲間たちの心配をしているんだよ。できるだけ仲間の情報が手に入る状態にしてあげたい』


『師匠として弟子のフォローはきっちりするでござる』


『……そうか』 


 山羊の男は暫く考え込んでから山羊の面を外した。


「あ! シャロンのお父さん!」


「ああ。では、君たちに仕事を頼むとしよう……」


 アンリは負けたよ、と悪そうな顔で苦笑しながら依頼内容について説明した。ブルコラクの情報係りとの接触場所や日時など細かい説明を一通り終えて、アンリへ情報を流す際の注意事項などを取り決めて解散になった。

 ミリーもミーシャ、ハインリヒ、ナーガの情報が入ると分かると、顔をキュッと引き締めて一生懸命聞いている。


「では、頼む」


 アンリが杖で御者席をコツコツと叩くと馬車は停まり、山羊の面を手に持ったアンリはさり気なく降りて行った。

 三人も広場で降りると、ギルドへ向かって行った。




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