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可視化されたモブ令嬢

 王暦167年春の二月13日 曇り時々晴れ


 今日はとても刺激的で、素敵な体験をいたしました。

 半年程前に行われた、王室主催行事のお茶会を描いた絵画鑑賞会でした。

 僭越ながら私も参加しておりましたので、絵画鑑賞会にもご招待いただきました。

 実は夢のような王庭でのお茶会に、宮廷画家様がいらしていたのです

 他の参加者様は、画家様のことを気にされていないようでしたが、私はしっかり気づいておりました。

 そう……本日のお茶会は絵画に残る!!と…

 そして、今日はその時の絵画のお披露目鑑賞会なのです。

 嗚呼、思い出しただけで胸の高鳴りが抑えられませんわ!!


 目がくらむような美しい庭園、キラキラと眩しい方々…

 お茶会の記憶が、昨日のように蘇りました。

 まずはお披露目後すぐに、王族の方々がご案内されました。

 続いて高位の方々がご案内され、絵画のお近くでご覧になっておりました。

 その後しばらくは、とても混雑していましたので、

 私は人混みから離れ、全体構図を瞳に焼き付けるように鑑賞いたしておりました。

 王族の方を中心に描かれた、なんて華やかな絵画なのでしょう!

 その時、ほんの僅かだけ気になる箇所がございましたが、まだまだ混雑は続いていましたの

 で、後部でお待ちしておりました。

 そして……ついに間近で鑑賞できるお時間を頂けましたの!!!

 絵画のテーマである優雅なお茶会の様子を…

 煌びやかな方達の楽し気な語らいをと…順に目線を移して行きました。

 宮廷画家様の腕前はとても素晴らしく、光の反射や皆様の表情、すべて最上級の物でした。

 ついに、先ほど気になった箇所と対決…いえ、対面するように目線を移すと……



 な、なな、なんということでしょう!!!!



 モブを自認し、モブであることに誇りを持っているこの私が!!

 宮廷画家様の手によって、絵画に描かれていたのですわ!!!



 これはもう、驚きと喜びで一生分の運を使い果たしてしまったような気がいたします。

 今後二度と起こりそうにない幸運な出来事でしたので、全て記録に残しておきますわ!!

 まず、私が描かれていた場所は、キャンバスの向かって右側

 私以外でなければ、誰しも見落としてしまうようなサイズでした。



 そして、私の顔はというと……



 目鼻が在りませんでした!!!

 目鼻が在りませんでした!!!

 大切なことなので二度申しましたわ!!!



 その上、深緑色のドレスがとてもいい感じに草木に溶けこみ、背景と一体化しておりました!!!

 ブルネットの髪は半分透けたように描かれていましたのよ!!



 こ れ ぞ!モブの醍醐味!!



 モブ令嬢のモブたる所以ですわ!!!



 ああ…絵に描いたモブ…モブの描かれた絵…モブのモブらしさをここまで見事に表現なさるなんて……

 さすが王室お抱え宮廷画家様!!

 今日ほどモブとしての矜持を、強く心に刻み込んだ日はありません。

 思わず握った左手を胸に押し当て、モブ道ここに極めん事を誓います!!

 と、声高らかに宣言するところでした。

 大変貴重な記念日になったことを、ここに記します。


 明日もよき日でありますように…


 私は静かに日記帳を閉じました。



 コンコンコン

「はい、どうぞ」

「お嬢様、ハーブティーをお持ちしました」

「あら、ありがとうリュシアン」

「絵画鑑賞会、お疲れ様でした。リラックス効果のあるカモミールです」

「ええ、いただくわ……ねえ?リュシアン」

「私の髪って透けて見えて?」

「……?お嬢様の御髪は豊かなブルネットでございます」

「そうね、そうよね!ありがとう……宮廷画家様の表現力は素晴らしいですものね!とても名誉なことですわよね!」

「絵画鑑賞会でどうかされましたか?」

「私の姿も描かれておりましたの。目鼻は無く、髪は透け、ドレスは背景と一体化してましたのよ」

「左様でございましたか…宮廷画家の手で描かれることは大変名誉なことでございます」

「ええ!その通りですわ!とても斬新な手法で、感動しましたの。自分以外の目を通すとあのように見えているのですね!何だかこれからも、どこでも特等席で鑑賞できる気がいたしますわ!透けて背景と一体化できるなんて、魔法みたいですわ!私の体質に心から感謝いたします!」

「…お嬢様、ハーブティーを召し上がって、ゆっくりお休みください。では、また明日……失礼いたします」


 私は寝具に体を滑り込ませ、今日一日のことを思い返していました。

 宮廷画家によって描かれた絵画は実に見事なものでした…

 そして、自分があのように描かれているなんて……

 もしかしたら、自分の存在が新しい手法を生み出すきっかけになったのでは?

 画家様にインスピレーションを差し上げたのかも??

 きっとそうですわ!!

 私の生粋のモブ体質が、芸術の世界に新たな進化をもたらしたのですわ!

 なんて誇らしいことでしょう!!

 それにリュシアンったら、豊かなブルネットですって…

 この国で一番多い髪色ですのに…

 私は少し笑いながら夢の世界へと旅立ちました。



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