ビュー・オブ・デンティスト22
「で?これは一体何なのよ?」
アヤは院長に鋭い目線を向けた。
「……死者を弔う聖なる炎……月夜紅の炎だ。」
「死神が放った炎……私達を殺す気?」
「わからない……。俺は月夜を探す。君達は早く逃げてくれ。先に走り去った藤林君をできれば守ってほしい。」
院長の瞳が赤色に変わった。
「あんたはどうすんだ?今この場で月夜先生を探すってのか!」
小烏丸の言葉に院長は深く頷いた。
「死ぬ気?」
干将の言葉には院長は頷かなかった。
「馬鹿な。こんなんじゃ俺は死なないよ。」
「いこ……。着物になれば大丈夫じゃん☆」
院長の言葉を聞いたレーヴァンテインが小烏丸と干将の手をひいた。
小烏丸と干将は心配そうな顔を残しながらレーヴァンテインに従い走り去って行った。
「そろそろ息が苦しくなってきたわね……。
私も逃げさせてもらうわ。これはあなたの問題。私はあなたが解決する事を祈っているわ。」
ゴウゴウと炎が燃え盛っており、黒い煙が視界を遮っている。
アヤはその中ためらいもなく走った。
気がつくと廊下に出ていた。
横を見ると近くにあった窓が割れている。
おそらく武神達がここから飛び降りて逃げたのだ。
煙もここからだいぶん逃げている。
武神達は人間とは比べ物にならないくらい身体能力が優れている。
ここから飛び降りても傷一つ負っていないだろう。
だがアヤは違う。アヤはこないだまで普通の学生だったのだ。
人間と共に生きる「時の神」は人から生まれる。
時の力を強く受け継いだ人間が徐々に神になっていく。
時神は時間を管理するだけで動かす事はできない。自分の中にある時間も動かせない。
故に歳をとらない。
身体能力は人間そのものだ。いくら二階だと言っても無傷で済むという事はまずないだろう。
アヤは先に逃げた藤林かりんを探した。
藤林かりんが逃げたと思われるルートで腰を低くしながらゆっくりと進む。
煙をだいぶ吸ってしまったのか気持ちが悪い上に頭も痛い。
……いない……
アヤは一階に続く階段を降りはじめた。一階は不思議と火の手がまわっていなかった。
騒ぎは思ったよりも大きかった。
一階の人は走って外へ逃げていく。
防災センターのアナウンスは対応に追われていてまだ出火した階を特定できていないらしい。
もうとっくに逃げたと思われた藤林かりんは一階にはいなかった。
……まさかまだ二階に……
その時悪い考えがよぎった。考えた瞬間にアヤの体中から冷や汗が吹き出した。
……まさか……まさか……
アヤはもう一度炎に覆われている二階へと駆けて行った。
……彼女は厄神と始終共にいた……彼女は人間だ……
つまり藤林かりんには厄がかぶっている……。
そう考えると彼女が運よく逃げ出せるという事象が消える。これは非常にまずい事だ。
場所を間違えたか迷ったかでずっと二階を彷徨い続け、死ぬ。そう運悪く死ぬのだ。
ミスだった。火の手がこれ以上あがったらまずいと思って先に逃がしたのがまずかった。
アヤは燃え盛る二階を必死で探した。
アヤも身体は人間だ。だんだん酸欠でふらふらとしてきた。白衣の先は燃えて黒く焦げている。
どこか火傷をしたのかピリピリと痛んだ。
……ダメ……私……これ以上は……
アヤは意識を失いかけたが頭を振って意識を戻した。気がつくと自分がどこにいるかわからなくなってしまっていた。
「遅いな……。アヤと藤林さんが出てこない……。」
ビルの外から眺めていた小烏丸は不安な表情を干将とレーヴァンテインに向けた。
炎は二階からしか上がっていないが黒い煙で二階から上はまったくと言っていいほど見えない。
外は野次馬と消防車と中から逃げてきた人でごった返していた。
「ねぇ……。」
レーヴァンテインが人々を眺めながらひかえめに言葉を発した。
「何?」
「あたしやばい事考えちゃった……。」
「だからなんだよ!」
「あのね。院長の厄にやられた藤林さんが外に出られずに二階を彷徨っててそれに気がついたアヤが二階で必死に藤林さんを探しているの……。」
レーヴァンテインの言葉を聞いた二人はお互いを見合い、青くなった。
「やばい!戻るぞ!」
「そうね!」
「あー!まってよぉ……。まだ仮説っていうかあ……!」
小烏丸と干将はまっさきに走り出した。その後を追って慌ててレーヴァンテインが走り出した。