ビュー・オブ・デンティスト20
新年が始まった。医院は相変わらず忙しく進む。
特に新年は年末が休みだった分、患者様が多い。
その他、急患でモチを食べて仮歯が外れたとか急に歯が痛くなったとかそういう患者様もやってくる。
かりんはまだ歯科医のアシスタント業務しかやっていないが小烏丸さん達は予防ルームでクリーニングの業務もやっている。
アヤさんは受付業務を一人でこなしている。
あまりの忙しさにかりんはしばらく神々といる事を忘れていた。
月夜先生も院長もあれから何の事故もなくスムーズに患者様をまわしている。
なんだか怪しい行動をとっていた月夜先生が今は普通の歯科医として働いている事が少し不気味だった。
がむしゃらに毎日をこなしていたのだが気がつくともう一月も後半に差し掛かっていた。
「はあ。まだ昼かよ。」
小烏丸さんが医局でお弁当をひろげながらぼやいている。
「今年はなんかやけに忙しいわね。予防も患者さんでいっぱいよ。」
「いそい☆いそい!☆」
干将さんとレーヴァンテインさんもお弁当を広げながら小烏丸さんと会話をしている。
医局のテレビでは干将さんが「昼ドラ観たい!」という事で昼ドラになっている。
「そういえば……。」
アヤさんがサンドウィッチを食べながら隣にいたかりんに目を向ける。
「はい?」
「藤林さん、二月から予防にも入っている事になっているけど……。」
「え?もうですか?あれって研修の三か月終わってからじゃ……。」
かりんが驚きの表情を見せたのでアヤさんはうーんと唸った。
「院長がもう大丈夫だからって言うのよ。もうアポ枠作ってるし患者さんも入っているから頑張ってね。」
「はい!頑張りますけどちょっと不安です。」
「大丈夫!あたしらが練習台になってやるから。スケーリングでもなんでも練習しな。」
不安そうなかりんに小烏丸さんがドンと胸を叩いた。
「そうだよ☆協力する―☆」
レーヴァンテインさんはカエルのぬいぐるみを持ち上げカエルのぬいぐるみで敬礼をしてみせた。
「ありがとうございます!」
「それはいいけどあんた、院長とどこまでいってるの?」
干将さんが昼ドラを観賞しながらかりんに質問した。
「え?」
「なんか恋人満々だったじゃない。あんな感じ?」
干将さんが昼ドラを指差す。昼ドラでは女の人と男の人が嬌声を上げながら交じり合っていた。
「ええええ?ち、違います!」
かりんの反応を見て干将さんは笑った。
「あそこまではいってないと。」
「何言っているんですか!」
かりんは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「院長って意外と紳士なのか……。すぐ手を出しそうに見えたが。」
小烏丸さんはうんうんと頷いている。
「あれ☆キスは☆キス☆」
レーヴァンテインさんの言葉にかりんは困った顔をアヤさんに向けた。
「別にいいんじゃない?しても。」
アヤさんはニッコリと笑ったまま答えた。
「実は……ないんです。」
かりんは下を向きながら恥ずかしそうに言った。
「ええええ?くちづけもしてないのか!接吻くらいしろよー!」
「カラス、接吻とかなんか嫌。キスって言って。キスって。」
小烏丸さんの叫びに干将さんは嫌そうな顔を向けた。
「そういえばキスの天ぷら食べたくなってきた☆」
「ああ、いいわね。今度お蕎麦屋さんにでもいく?」
「やっぱ蕎麦湯だな!」
レーヴァンテインさんの発言により、会話の論点は蕎麦屋さんになった。
女の会話というのは論点がこうやってコロコロ変わる。
「ま、彼女達の言ってる事はあんまり気にしなくていいわよ。思いついた事を言ってるだけだから。」
アヤさんはそう言ってタッパーに入ったイチゴをもぐもぐと食べ始めた。
「は……はあ……。」
かりんは拍子抜けした。そして少し安堵もしていた。
それと同時に院長は今のところ彼氏になっているがまだ手を握るくらいしかしてもらっていない事に気がついた。
……手を握って一緒に歩く事ぐらいしかやってない……
「うーん……。」
かりんは知らずに唸っていた。
「どうしたの?」
「え?あ……いえ。」
アヤさんに突っこまれたかりんはヤケクソな気持ちでお弁当にがっついた。




