ストーカーは世界が離れても行動は変わらない
木に登って追いかけてくる蛇女。
その姿はホラー映画のようである。
タイトルをつけるとしたら怪奇狂気のヘビ女だろうか?
一気にB級……いや、C級ぐらいのホラー映画っぽくなってしまった。
映画だとしても見る気が無いが……その襲われる被害者としての自分としてはそれどころではないのが本音だ。
しかも映画ならばたとえ、そのヘビ女を燃やそうが切り裂こうが、海に叩き落とそうが……それこそ命を奪おうと良心の呵責はない。
エンディングのスタッフロールと音楽を聴きながら適当な感想を口にする程度だ。
とはいえ、実際になるとしたらさすがに良心の呵責を覚えてしまう。
……言葉が理解できているのが一因かも知れない。
「トーヤ。
どうする?」
「どうするって言ってもなぁ?」
「トーヤ。あいつの言葉、分かる?」
「わかるんだよ。
……会話はできねえけれど……。
どうも俺はあいつのダーリンとやら似ているらしい」
「? ダーリン違う。
トーヤ、トーヤ」
「そうだなー」
ライラにダーリンの意味など分かるわけはなかった。
そもそもとしてダーリンではなく恋人と言っても分かっていたかどうか怪しいぐらいだ。念のために言っておくが、ライラを見下しているわけではない。
たんに今まで同族の人間をみてこなかったライラ。
精神年齢から考えてもまだ色恋は早い気がする。
「……じゃあ、人違いと教えない?」
「教えても聞かないんだよ」
完全なストーカーである。
この場合、ダーリンは恋人ではなく被害者の可能性すら出ている。
とりあえずは、
「なんとか動きを封じて……頭を冷やして貰いたいんだけれどなぁ」
ちなみに、そんな会話をしている中で俺はライラに背負われて木から木へと移動していた。俺も身体能力は低くないつもりだが……。
幸いにもヘビ女は木から木へとジャンプすることは出来ないらしい。
凄まじいまでのアイの言葉を叫んでいるが……。
軽く命の危険を感じる発言でもあった。
「だから人違いだと行っているだろうに……」
俺はそう言って対応を考えるとユキノが近づいてきた。
「……トーヤ。
一つ、アイデアです。
やつを……殺しましょう」
殺す。
その言葉に俺は息を呑む。
だが、そんな俺の様子に気付いているらしいユキノは顔色を変えない。
「あなたが生きていた世界がどんな世界か走りません。
ただ殺しをしなくても生きていく事が出来る。
そう言った世界だったのでしょう」
「……」
その言葉に俺は黙る。
実際に俺も地元では狩りをする人はいた。
なので、生きていくために命を奪う行為に関しては受け入れることが出来る。
だが、それは生き物……。
言葉が通じない相手に限られている。
会話が通じる相手を殺す。
そのことに俺は躊躇を覚えている。
当たり前と言えば当たり前だ。
昔に戦争を兵士として経験したじいさんがいた。
厳密に言えばそのじいさんの息子の話なのだが……
「相手が意味不明な言葉を話しているだろ。
だからこそ、あんなふうに引き金を引けたんだ。
相手の言葉を知っちまえばもう無理だっただろな。
相手にだって守りたいと思う家族がいる。
感情がある。
頭で理解していても意味不明な言語だとそれを理解だけで終わる。
いや。理解なんてしないんだ。
そういう生き物なんだと思って引き金を引ける」
そう言ってその男性は最後まで英語を覚えることを拒否した。
今際の際に叫んだ自身が殺した敵兵の絶叫。
その言葉を理解することを恐れたのだろう。
今になってその言葉の意味を俺は理解した。
なるほど、確かに精神的にキツイ。
もしもと言う可能性を考えればそこに生まれるのは躊躇だ。
たとえ、会話が出来ていなくても……。
話している言葉の意味は理解できてしまう。
けれど、
「殺さないと生きていけないことがあります」
ユキノはそんな迷いを一言で断ち切った。
「私達には声が聞こえません。
だからこそ出来る判断でしょう。
けれど、たとえ会話が出来たとしても……。
理解できるかは別です。
会話で全てが解決できるのは……少なくともそうできる種族を私は知らない」
「……ああ、俺もだよ」
ユキノの言葉に俺は同意する。
俺だって分かっている。
会話で解決できるならば戦争なんて起きない。
確かに戦争の中には言語が違う事も多数会った。
けれども、それだけではないのだ。
会話が成立していても……価値観が違う。
思想が違う。
宗教が違う。
そういったことで会話が成立することはなく争いになる。
それだけではない。
そもそも、それで解決するなら苦労はしない。
些細な口げんかで起きる殴り合いの大げんか。
話し合いで全てが解決するなんて……今日日、幼稚園児でも無理だと本能的に理解をしているのだ。
納得出来ないことは多数有り、大人だって見得やプライドで醜く言い争って……。
不毛な争いを引き起こしている。
種族が違い、育った世界が違うならば……。
それはもう当たり前の出来事だ。
「……怖いなら私達がやるわ。
言葉が通じないなら……遠慮はしないわ」
「いや。それは逃げだと思う」
そう俺は言う。
確かに俺は指示だけをして……。
その場にいなければ罪悪感は薄いだろう。
食べて寝て行けば……すぐにではないがそのうち忘れることが出来る。
けれども解決することではない。
それはたんなる逃避だ。
俺は交渉をすると自分で決めたんだ。
それで失敗して戦うしかない。
殺すしかない。
そうなったなら……それは俺も責任だ。
「俺の責任だけじゃない。だが、俺の責任でもあるんだ」
そう俺は静かに見据えて……目の前のヘビ女を見据えた。
「私をウラギるのぉぉぉ」
「裏切ったのは……違うと思いたいなぁ」
そうつぶやく。
出来る事なら……この世界に迷い込んだ人間。
よほどの悪人じゃなければ話し合いをして……共に助け合って暮らしたい。
お互いに元の世界に帰ることもできない。
故郷を失い。
全てを失った。
大半のやつが……おそらくそれなりの過去を持っている。
それでもきっと生きていける。
そう思いたかったが……無理なんだ。
そう理解した。
そのきっかけを与えてくれたことには感謝をするべきだろう。
けれど……。
「ごめんな」
現代日本のような秩序を作るには……この世界は混沌としている。
意味不明で何が起きるのがわからない。
だからこそ現代日本のような秩序は無理だ。
おそらく……これからどれだけ頑張っても……現代日本のような……安定した殺し合いなんて不要ですというような生活は無理だ。
少なくとも俺が生きている間は……。
けれど、
「せめて……ある程度の秩序は作る。
けれど……あんたはその秩序を守ってくれなさそうだ」
それだけ言うと同時に俺は合図をした。
それが同時だった。
一気に放たれた一撃。
それがヘビ女の命を奪った。
放ったのは……ライラだ。
俺よりも高くに移動して一気に落下しての一撃だ。
それが心臓に命中し一命を奪ったのだ。
「ありがとな。ライラ」
「苦しめなかった」
俺の言葉にライラはそれだけ言う。
苦しめなかった。
それがライラなりの慈悲なのだろう。
「……この世界で死んでどうなるかは知らないが……。
あんたが会いたいと思っていた人に……会えるかな?」
会えるといいなとは言えない程度にあの気迫は怖かったので俺はそうつぶやいた。




