船旅というにはしょぼい移動なのにトラブルはしょぼくない
未開の地を探し、船旅をする。
そう文字を書けば、大航海時代を旅する大きな船。
そんなイメージがあるだろうが、現状は違う。
けして小さな船ではないが、そこまで大きくない。
「まあ。歩いて一緒に行くことも考えていたからな」
あくまでも海を見つけることが目的だ。
その海への道を考えると水路を開拓したいというのも本音だ。
陸で歩いて行けても、水路ではいけない。
その可能性は極めて高い。
そういったこともあるので、注意が必要だと思ったのだ。
まあ。場所によっては泊まったりして生活ができそうな土地の目安をつけている。
正直、トラブルはさほど考えていなかった。
それが甘かったんだと理解した。
目の前にいる相手が厄介なことこの上なかった。
「ま、こう言う状況を想定しておくべきだったな」
現れたのは端的に言えば一人の女性だ。
……ただし、
「まあ。今まであってきた中で……こう言うのは初めてだな」
上半身は人間だ。
上半身は……そして下半身は蛇だった。
巨大な蛇をしており、端的に言えば不気味という印象を与える。
そして、
[ついにミツケタワ! まいだーりん!
コンドコソ、アイシアイましょーう]
「人違いですが……」
そうつぶやくが全く聞き入れていない。
会話ができないわけではない。
少なくとも声は意味を理解することができる。
これは言葉が通じていないと言うよりも……。
「こっちの話を聞いていないなぁ」
自分の能力の限界。
それを改めて実感していた。
俺の能力はあくまでも会話ができるだけであり、話し合いが出来ると言うわけではない。 知性が低い生き物は会話が出来ず……こうして人の話を聞かないやつは論外らしい。
そう思っている中でどうしたものかと考えていたのだが……。
どうやっても実力行使なのだが……。
「相手が強すぎる」
ドラゴンであるフレアルドさんがいるから大丈夫。
そう思って居たのだが、どうやら過信だったらしい。
フレアルドさんは火竜。
水と相性が悪かったらしく……この蛇女は水を操る力を持っていた。
そのためか水を自在に操るフレアルドさんに敗北してしまったらしい。
そのまま水没している状態だったらしい。
そして、そのまま敗北してしまったのだ。
ライラやユキノも同じように敗北してしまった状況だそうだ。
そして、こうして捕まってしまったというわけである。
「アイシテル~アイシテル~。
ズットサガシテイタノヨ~~」
「だから人違いだって……」
俺はそう溜め息をつくが……。
全く聞き入れてくれる様子はない。
「おそらく元の世界で愛していた相手と離ればなれになったんだろうが……」
溜め息をつくが解決もしない。
しかし……どういう関係性だったのかは謎である。
両思いだったのか……それとも片思いだったのか……。
それを確かめる術は今のところない……。無いのだが……。
「アイシテイルワー。
ナンデすがたヲカクシタノォオ」
根拠はないが……。
なんとなく一方的な片思いの気がする。
とにかく厄介である。
というか、
「あ、あの~。
とりあえず……少しで良いから話してくれないか。
そろそろ背骨とか体中の骨が変な音を立て始めているんだが……」
蛇の締め付けは獲物を殺すためであり力が強い。
そんなことを聞いたことがあるが……。
人間並みのサイズの蛇だ。
その力は人間の骨を砕くこともできる……。
要するにだ。
俺の全身の骨は粉砕骨折しそうな状況だったりする。
(このままだと粉砕骨折だな……)
温厚というか落ち着いて話しているが……。
正直、怒って暴れても難しそうというのが本音だ。
とはいえ、このままだと本気で死ぬ。
ちょっとやそっとのことでは錯乱しないと言われている俺だが……。
さすがに錯乱するかも知れない。
そう思いつつ状況を考える。
相手が一体何者かは分からない。
だが、おそらくだが限りなく蛇に近い生体だろうというのは察した。
理由はその体温だ。
体温を考えるにおそらくこいつは変温動物。
上半身は人間だがどちらかというと下半身が生き物としての性質に近いのだろう。
だとしたら徹底的に冷やせば……少なくとも動きが鈍るはずだ。
問題は……。
「周囲が暑い」
森のような場所で水気も多いここはどちらかというと熱気にあふれた場所だ。
ちょっとやそっとで周囲を冷やすのは無理だろう。
(ネージュさんでもいたら……)
雪女でもある彼女。
長時間、こういった場所で生活は難しいが……。
短時間なら可能だし周囲を冷やすことができる。
逆に相性という意味でははやはりフレアルドさんは最悪だった。
蛇は暑さに強いのだ。
「サァ、ダーリン。
ご飯ヨ」
そう言って差し出されたのは……カエルの活け作り……だろうそれだ。
……正直、昔はあったというカエルの解剖を思い出す。
実際にそんな授業など存在しなくなったのでみたことはないが……。
なるほど、その授業が消えるわけだとそのグロさにうんざりする。
正直、見るだけでも背筋にぞっとした者が走るのに……。
「ご飯ヨ」
そう言って差し出してくるのだ。
「い、今は食欲がなくて……」
「ソレハヨクナイワ。
コノあと、子作りよ」
「……マジかよ。おい」
さすがにヤバい。
そろそろ本気でなんとかしないと……。
命だけではなく貞操の危機も感じてきた。
そう思っている中、突如として岩が飛んできた。
「うっぎょ」
とっさによけるために動いたのだろう。
締め付けが楽になり呼吸ができるようになった。
それと同時に俺は場所を離れられる。
「あ、危ない助け方だ……」
そうつぶやく中で現れたのはライラだ。
どうやら岩を投げたらしい。
……ライラの身体能力はやはり異常だが……。
「お前、敵」
そう言うと一気に飛びかかる。
実のところ、ライラが一番、このラミア(仮)と互角の勝負が挑めていた。
一気に飛びかかる氷を身体能力でよける。
「……やっぱりあいつの身体能力。
なんか、こう転移特典?」
異世界転移、異世界転生。
そこでよく分からないが何かしらのチート能力を会得する。
そういう話は聞いたことがある。
おそらくライラの身体能力はそれではないか?
俺はそんな仮説を立てている。
高い身体能力を発揮したライラは一気に移動する。
ラミアが苦戦しているなか、
「トーヤさん」
ユキノが声をかけてきた。
「大丈夫ですか?」
「なんとか無事だが……。
お前ら、どうやって作戦を?」
そう。俺の懸念点。
それはライラ達は俺がいなければ会話が難しいと言うことだ。
村の方は会話が可能となっているが……。
装置の有効範囲から外れたら会話ができなくなる。
そう思って聞けば、
「トーヤさんが不在でも会話ができるように……。
ある程度、学んでいたんです。
あとは、まあ、身振り手振りで?」
「なるほど」
元の世界でも……それこそ外国通しでもある程度の単語、それと身振り手振りで会話ができていた。作戦……それこそ複雑な作戦はできなくても単純な作戦で可能。
そう判断したのだろう。
最初の襲撃時は、作戦も立てられず会話もできない。
連携が全くとれずにいたので後手に回ったが……。
作戦をとれたら話は別……いや。俺が司令塔として未熟なのもあるかもしれない。
とにかく、なんとか距離を取ることに成功したのだが……。
「ダーリィン、なんでぇぇぇ?」
「ところで、あいつ。
なんでトーヤさんに執着を?」
「何でも恋人に似ているらしい」
「……恋人に……ですか?」
「上半身だけが似ているのか……。
下半身も似ているのか……。
わりと謎だな」
あとは、あの蛇女とどういう関係なのかが真剣に問題だ。
「別れ方によっては問題になりかねませんが……。
大丈夫でしょうか?」
「少なくとも愛情が恨みに変わってはいないが……」
「ダーリィィン。
私を騙したのぉぉ?」
「今、変わろうとしているな」
不吉なことにそんな様子が見えてきているのだ。
それを考えると面倒なことになる。
「何度も行ったが……。
人違いだ。
俺はお前のダーリンじゃねえ!」
俺は基本的に平和主義なのだが……。
「いい加減にしろ!」
そう言って手をばす蛇女の手を振り払う。
「そう……ダーリン。
私を……私を捨てるのねぇ。
私を利用していただけだったのねぇぇぇ」
「だから違うと言っているのに……」
こいつの言うダーリンがどういう人間かは知らないが……。
この言動を聴く限り……誠実かつ誠意ある人間だったようには思えない。
あるいは、こいつがメンヘラ気質の思い込みの激しい人間かもわからない。
だが、
「人の話を……聞け!」
そう言うと同時に一気にその襲いかかってくるのをよける。
田舎暮らしで山中を走り回っていただけあって森の中を歩きやすい。
一気に飛び上がると木の上に移動して飛び上がる。
とはいえ、
「まってぇぇぇぇ」
執念深く木の幹をくねるように移動する。
さすがに移動する距離とスピードが速い。
そういえば、蛇は気にも登れると今更なことを思い出した。




