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EP6 決着

EP6 決着


『……出来るのかね』

「〝私たち〟ならきっと、いえ絶対に成功させられます」

 司令の言葉に対して、作戦を説明し終えた久藤さんが答えた。

『その言葉、信用するぞ』

「任せてください」

「絶対に成功させますよ」

 久藤さんと俺はそう答えた。

CCD‐30はそれ自体が無尽蔵な魔力を作り出すことが出来るわけでもなければ、無尽蔵な魔力を持っているわけでもない。

あくまでも無尽蔵に〝吸収している〟だけだ。

つまり魔力を吸収できなくすればいい。

そうすれば自爆を止めることも、その圧倒的な防御能力と攻撃能力を無力化することも出来る。

少し考えればわかることなので、CCD‐30の弱点に〝根〟となっている触手が挙げられていた。

確かにこれを切断なり破壊なりすれば、魔力の供給を止めることが出来る。

しかし現実問題として、防御壁と再生能力に阻まれ実行に移すのはとても難しい。

だが、魔力の供給を止める方法はそれ以外にも存在した。

CCDはあくまでも人類の持つ〝物理的常識〟だけによって存在するわけじゃない。

彼等は俺達人間が今まで盲信してきた〝物理的常識〟を無視した一種の〝魔術的存在〟でもあるのだ。

なら、その一点に突破口を見出すことも可能だ。

魔術には、魔術で対抗できる。

要するに、魔術的に魔力の流れを切断してしまえばいいのだ。

やり方は単純だ。

まず、CCD‐30の周囲にCCDに対抗する〝旧神〟の力を持った巨大な球形の結界を構築する。

それによってCCD‐30が求める魔力の流れをせき止め、無力化するのだ。

具体的な方法としては、まず輸送機を使って上空から聖水と旧神の石をまく。

そして久藤さんがその結界を起動させる。

もっとも、この方法では急ごしらえの不完全な結界しか作れないため、魔力の流れを完全に止めることは出来ず、しかも発動継続可能時間は良くても数分が限度だ。

つまり、結界を作り出してから数分のうちに勝負を決めなければ、もう二度と勝機は訪れなくなってしまう。

それに加えて、そろそろ機体の活動限界時間が訪れようとしている。

「つまり、どのみちこれが最後のチャンスってわけか」

「そういうこと。失敗は許されないわ」

「理解してるよ。お前の方こそ、重要な役割があるんだ。たのんだぜ」

「……わかってる」

すでに基地からは、大量の聖水と旧神の石のレプリカを積んだ輸送機が飛び立っている。

あと十分以内には結界の構築に入れる。

「それまでの間、何とか持ちこたえることが出来れば……」

しかし、相手がその間何もしないで待っていてくれるわけじゃない。

CCD‐30の攻撃は絶え間なく続く。

機体に徐々にダメージが蓄積していく。

もちろん直撃は避けるように俺たちは回避や防御はきちんと行っているから、機体のダメージはさほど問題じゃない。少しのダメージであればSGT細胞による再生が可能なのだから。

問題は長時間戦闘の疲労と、ダメージフィードバックによるダメージだ。これに関しては簡単に回復できない。

おまけに、さらには銃火器の弾薬はすでにほぼ尽きている。

ならば一度下がって体勢を立て直せばいいのではないか。そう考える人もいるかもしれない。

実際そういった案も出た。

確かにCCD‐30は攻防ともに強力な能力を持っているが移動することが出来ない。そのためいったん距離を取ってしまえばそれほど厄介な相手というわけではない。

しかしそれは出来ない。

理由はいくつかあるが、最も大きな理由は、戦闘を継続することによって少しでもCCD‐30の魔力を消耗させなければならないということだ。

そうすることによってCCD‐30の自爆までの時間を少しでも引き延ばすのだ。

結界を構築する前に自爆されてしまっては意味がない。

だから、少しでも多く魔力を消耗させる必要がある。

指令室から通信が入った。

『今、結界の準備が整いました。あとは発動させるだけです』

聖水と旧神の石の配置が終わったのだ。

「了解しました! 久藤さん、後は!」

「……わかってる」

 久藤さんはCCD‐30の触手を振り払うと、機体を一気に後退させた。

同時に俺は、久藤さんからシールドを受け取ると、CCD‐30の攻撃から久藤さんを守ることが出来る位置に機体を移動させた。

 久藤さんが結界を起動させるために無防備になる間、攻撃が一切通らないように守りに徹する。

それが、俺の役目だ。

久藤さんは機体をしゃがませると機体の両腕を地面につけ結界を起動させるための呪文を唱え始めた。

対CCD用人型装甲機の特徴の一つとしてそれ自身がパイロットの魔力を高めるための装置として機能するという点がある。

これにより、本来ならば多人数で長時間かけないと出来ないような大掛かりな儀式を、一人で行うことが出来るのだ。

その性能が今、十二分に発揮される。

『我は旧き神の加護を受けし者なり 東の青、南の朱、西の白、北の玄、四方の守護神へ告ぐ その力を以って四門を閉じ邪なる力を拒絶せよ――』

しかしCCD‐30がこの状況に対して、何もしないでいるということはなかった。

巨大な口を開き獰猛な雄叫びを上げると、その開いた口へと一気に魔力を収束させた。

〝核〟が血のような赤へと染まり、半透明の触手から禍々しい光が放たれる。

何本もの触手がCCD‐30の顔の少し前の方へと延び、触手の先端と先端の空間が歪んだかと思うと、そこにこの世ならざる文字と冒涜的な角度によって形作られた魔方陣が浮かんだ。

 次の瞬間、CCD‐30の咆哮と共に口へと集められた魔力が爆発的に解放された。

 眩い閃光となって前方へと解き放たれた魔力は魔方陣へと当たる。

そして一気に収束すると、俺たち、すなわち〝眼前の二体の敵〟をまとめて焼き払おうとする禍々しい光線へと変化した。

「っ!!」

 俺は即座に反応してシールドを構えさせると光線を受け止めた。

圧倒的な威力によって、機体が後方へと弾き飛ばされそうになる。

「くっ! この程度で!!」

全力で抗う。

 バーニアを限界まで吹かし、両足で懸命に踏ん張る。

シールドを保持するために操縦桿を全力で握り、機体との同調率とSGT細胞の活性率を限界まで高めようとする。

 シールドが高熱によって融解を始め、機体が軋む音が聞こえる。

そして地面を削りながら徐々に後方へと押し流されていく。

『――四方天地の力を以って五行を為し 五行を以って旧神を称えよ 旧き神は遥かなるベテルギウスより我に力を授けたまえ 聖なる檻を以って邪なる神の力を奪いたまえ――』

久藤さんの詠唱はあと少しで終わる。

「うおおおおおぉぉぉぉぉ――――――――!!!」

 吠える。

 全身全霊の力で守りに徹する。

機体は耐久能力の限界が近づき声なき悲鳴を上げる。

あと少し。

あと少しだけでいいんだ。

 CCD‐30は光線の照射を止めない。

 全身の骨が軋み、全身の神経に裂けるような痛みが伝わる。

左腕からは最早痛覚すら感じず、脳細胞が焼けつくような感覚に襲われる。

警報が鳴り響き、モニターが明滅する。

コックピット内が異常な高温にさらされる。

――――シールドが融解した。

――ちくしょう。

こんなところで!!

まだだ、まだ、こんなところで俺は――――。

 次の瞬間、俺の思考は眩い閃光の中へと落ちていった。


×××


 白一色の世界を俺は漂っていた。

そこに居るのは俺ただ一人だけ。それ以外には誰一人、何一つ存在しなかった。

さっきまで俺は《ギガンティス》のコックピットにいたはずだ。

まさか――。

 死んでしまったのか? という言葉が出かけたのを直前で飲み込む。

「――いや、違うな。そんなはずはない」

かわりに否定の言葉を口に出した。

確かに今自分が生きているという証拠なんてどこにもない。

……でも、理屈じゃないんだ。ある種の本能のようなもので、俺はそのことを感じ取った。

ここは恐らく誰かの精神世界。俺のか、あるいは……――――!?。

 どこからともなく笛の音のような奇妙な音が聞こえてきた。……いや、これは声だ。

『テケリ・リ! テケリ・リ! テケリ・リ! テケリ・リ! テケリ・リ! テケリ・リ! テケリ・リ!!』 

 それは次第に大きさを増していく。

どこから聞こえる、というわけではない。

耳を通さずに脳内へと直接入り込んでくるような、そんな感覚だ。

そしてそれは、明確な〝声〟へと変化した。

『チカラヲ、ノゾムカ?』

 その〝声〟はどこか奇妙な違和感を持っていた。

人間の言葉を発生するために適した器官を持たない生物が、無理やり人間の言葉を発しているような、機械的な合成音を生物が発しているような、そんな違和感があった。

「――誰だ、お前は?」

 俺の問いかけに対して、その〝声〟はもう一度最初と同じ質問を繰り返した。

『チカラヲ、ノゾムカ?」

「まあ、この際テメーが誰であっても構わねー。――――いや、誰なのかは大体わかった。だとすれば、力を望んでるのはテメーの方なんじゃねーのか?」

『ナマイキナコゾウダ。キサマゴトキ、ワガチカラノマエニハ、ムリョクナソンザイダトイウコトヲ、リカイシテイナイヨウダナ。イマコノバデ、トリコンデヤッテモ、イイノダゾ』

「――やってみるか?」

 ――――沈黙の後〝声〟が答えた。

『〝イマハ〟ヤメテオコウ。マダソノトキデハナイ』

「そいつはどうも。一応感謝しておこうか」

『――――デハ、アラタメテキコウ。――チカラヲ、ノゾムカ?』

「――ああ。俺は力を望む。目の前の敵を打ち倒すための力を、大切なものを守れる力を! さあ、俺に力を貸せ!!」

 俺はそう言うと何もない白い空間に向かって手を伸ばした。

 次の瞬間、白い空間全体が眩い光を放ち始めた。

その光の中へと俺は飲み込まれてゆく。

そして、再び意識が消えようとしたまさにその瞬間、先ほどよりも一層大きな〝声〟を聴いた。

『デハトキハナツトシヨウ。ワガチカラヲ。サア、タタカエ!! フルキカミノアカシト、イニシエノモノノチカラヲツグモノヨ!!』


×××


俺は我に返った。

今いる場所は《ギガンティス》のコックピットの中だ。

最初に意識が飛んだ時から、少しも時間は経過してない。

CCD‐30からの光線の照射を受けて機体は限界を迎えようとしていた。

光線の照射によって融解し続けていたシールドが完全に消滅している。

「無駄だ! この程度で俺は――――!!」

そう叫んだ次の瞬間、《ギガンティス》は光線が直撃を受け、爆炎に飲まれた。

『――旧き神の石と清き水 大いなる力を導きて 今ここに誕生せよ〝旧神の檻〟!!』

直後、詠唱がついに終わった。

地面に撒かれた聖水の上を淡い水色の光が駆け巡り、巨大な円を描く。

配置されたいくつもの旧神の石からは光の筋が放たれ、それぞれが複雑に絡み合いながら意味のある角度を持った図形を地上に生み出す。光の筋は複雑に変化しながら、最後に巨大な五角形を作り出した。

それと同時に青白い円から淡い光が空へと延びやがて巨大なドーム状に変化した。

――ついに、結界が完成した。


×××


「古堅君!」

 私は叫んだ。

 古堅君は呼びかけに応じない。

通信機から久藤の耳に伝えられるのは、ただのノイズだけだった。

 結界が完成する直前に、光線の直撃を受けるのをこの目で見たのだ。

……まさか、いや、そんなはずはない!

生きている、生きているはずだ! 

「……そうよね、そうなんでしょ、古堅君、答えて!!」

 繋がらない無線へと呼びかけながら、目の前の煙幕を凝視する。

 そんなことは、そんなことは絶対に私許さない。

 私のことを嗜めておいて、自分だけ自己犠牲で誰かを守るなんて、そんなやり方で私を生かすことを、私を残して死ぬなんてことを、そんな生き方は、私が絶対に認めない。

 だから……。

 煙幕の中を凝視する。

 その中には、古堅君の乗った《ギガンティス》が居て、絶対に健在の筈なんだから!

 ――永遠のような一瞬の静寂の後、煙が晴れた。

「……古堅君、……よかった……――っ!?」

そこから現れたのは、見間違えるはずもない、青、白、灰色を基調とした鋼鉄の巨人、《ギガンティス》の姿だった。

 《ギガンティス》は左手を前へと突き出しそれをCCD‐30へと向けている。

その左手からは金色の光を放つ魔法陣が現れており、それを盾のように構えていた。

魔方陣の中央には、五芒星とその内側に炎の目が描かれている。

「…………あれは、旧神の印!? どうやってそんなこと、まさか、旧神の力を解放させたというの!?」


×××


「結界の発動を確認。CCD‐30への魔力の流れ八四%をカット」

「《ギガンティス》も無事なようです」

 指令室に町中の様子がリアルタイムで伝えられていた。

ここまではおおよそ計画通りに進んでいる。

後は二人がCCD‐30へと、とどめを刺せば終わりだ。

そんな中、古堅が乗る《ギガンティス》から奇妙な反応が現れた。

「っ!! 《ギガンティス》から高エネルギー反応を確認! SGT細胞活性率……七二%!?」

「まさか、侵食暴走か!?」

「いえ、パイロットの意識レベルは通常通り、制御できています!」

「一体、何が起こっているんだ!?」

騒然となる指令室の中で、総司令、古堅総一は小さく笑みを浮かべながら呟いた。

「――やはりな」

 しかし、喧騒の中その声を聞くことが出来た者はいなかった。

 ――今から二十年前、南極で発見された、人類誕生以前の超古代文明の遺跡。

 確かにその事実は世界中を駆け巡り歴史は大きく姿を変えた。

 だが、公表されていない事実は多くある。

 あまりにも多くの事実が、世界を混乱から守るために秘匿されている。

 例えば、調査隊がそこで見つけた、超古代文明遺跡の〝製作者〟のこと。

 文字通り〝眠って〟いた〝彼等〟の生き残りのこと。

 その遺跡と、〝彼等〟の証言によって明らかになった、人類の起源のこと。

 その調査隊こそがWFの創設メンバーだということ。

 〝古のもの〟、あるいは〝CCD‐00〟と呼ばれる〝彼等〟が作り出したCCD、〝Shoggothショゴス〟と呼ばれる奉仕種族のこと。

 〝ショゴス〟は不定形であり、脳波によってコントロールされているということ。

 〝古のもの〟が多くの旧支配者と敵対関係にあったということ。

――WFにも不明な点が多くある。

CCDに対抗するための術は一体どのようにして調べたのか。

文献を当たった? 伝承を調べた? ……ナンセンスだ。

冷静に考えればわかることだというのに。未知の存在、常識の裏側の存在たるCCDに対して、有効な対策を講じることがいかに困難なのかを。

一番簡単な対策方法は、CCDをよく知る者に教えを乞うことだ。

敵の敵は味方。

あまりにも単純な利害関係。

ならば、WF製の人型装甲機が使用している〝SGT細胞〟とは一体何なのか。いや、そもそも〝SGT〟とは一体何を意味しているのか――。


 古堅総一はモニターを見つめた。

(やはり予想通りだ。あれこそが私の見つけた世界の真実。暗黒の神話が蘇ったこの世界の、ただ唯一の希望なのだ)


×××


「――――いくぞっ!!!」

 俺は左手の旧神の印を前へと構えながら、CCD‐30へと向かっていった。

「うおおおおおぉぉぉぉぉ――――っ!!!」

バーニアを限界まで吹かし地上を滑るようにして高速で移動する。

CCD‐30はそんな俺に対して獰猛な咆哮を上げながら触手で応戦する。

だが、触手の先端から放たれた無数の光線は、その総てが旧神の印に触れた瞬間に霧散し、《ギガンティス》を捕えるために伸ばされた無数の触手は、《ギガンティス》へと触れる直前に、目に見えない力によって砕け散った。

次にCCD‐30は右手を前に突出し、そこから強力なバリアを発生させ、そのバリアを《ギガンティス》へとぶつけた。

すべての攻撃を拒絶する絶対の防御壁、その力を一点へと集中させ前方へと打ち出した。

バリアの〝硬さ〟がそのまま攻撃力へと変換される。

その圧倒的威力を誇る攻撃が、CCD‐30へと一直線にも向かう《ギガンティス》へと襲う。

大地をえぐり、木々をなぎ倒し、周辺に存在する総てのものが一瞬にして砕け散る。

命中すれば町一つを一瞬にして消し去れるだけの威力を持った攻撃。

しかし《ギガンティス》は、俺は、その攻撃を正面から受け止め、それでもまったく怯むことなく、そして一つも傷つくことなく直進した。

《ギガンティス》の旧神の印に当たったCCD‐30の攻撃はそのままY字に裂けた。

「いっけぇぇぇぇ――――っ!!!」

 そのまま一気に間合いを詰めると、CCD‐30に対して《ギガンティス》の右の拳を突き立てた。

 CCD‐30のバリアはその一撃で破壊された。

そして、そのままCCD‐30は後方へと弾き飛ばされる。

否、〝根〟によって固定されているため弾き飛ばされはしない。

そのまま三十メートル越えの巨体が後方へと仰向けに倒れた。

その反動を利用して俺は、一気に機体を後方へと後退させる。

そして回線を開き、久藤さんへと向けて話しかけた。

「久藤さん! 大丈夫か?」

「え、ええ。私は大丈夫よ。それよりも古堅君の方こそ……」

「俺は全く問題ない!」

 再びCCD‐30の方を睨みつける。

 CCD‐30はゆっくりと起き上がり、威嚇するような咆哮を上げる。

しかし、触手が再生されず、ダメージが回復している様子もない。

咆哮もどこか弱々しく、先ほどまで感じていたような威圧感もない。

「結界の魔力遮断が効いている。斃すなら……」

「今しかねーな!!」

久藤さんの声に対して俺はそう応じる。

 次の瞬間、CCD‐30の口から再び光線が放たれた。

 俺はその攻撃に反応し左手を前に構え、旧神の印を発生させるとその光線を受け流した。

「効かねーよ! 今のお前は!!」

 叫び、機体の両腰にマウントされていた超音波刃を素早く引き抜く。《ギガンティス》の左右の手に装備し、俺は操縦桿を握る手に今までよりも一層力を込め、精神を集中する。

(――形状は槍。射抜くもの、貫くもの、黄金の聖槍!!)

 その瞬間ギガンティスの両手に握られていた超音波刃が、一瞬にして数十倍の長さの、黄金に輝く光の槍へと変化した。

「嘘でしょ!?」

驚く久藤さんに構わず、その二本の光の槍をCCD‐30へと向かって投擲する。

高速で飛ぶ二本の光の槍は、弱体化したCCD‐30のバリアを簡単に突き破り、その屈強な二本の腕へとそれぞれ突き刺さった。

CCD‐30が悲鳴にも似た叫び声を上げる。

「久藤さん!!」

 俺はCCD‐30の声に負けないだけの大声で久藤へと叫ぶ。

その瞬間、久藤さんは理解してくれた。

俺が何をしようとしているのかを。

「受け取って、古堅君!!」

 久藤さんはそう言って、《ギガンティス・カスタム》の右手に握りしめていた超音波刃を前方の《ギガンティス》の方へと放り投げた。

 俺は放物線を描いて飛ぶ超音波刃をキャッチすると、再び眼前の〝敵〟、CCD‐30へと向かって《ギガンティス》を直進させた。

青い機影がまるで一筋の矢のように向かっていく。

CCD‐30には抵抗する力はもう残されていなかった。

両腕をだらりと垂らしたまま、しかしその最後の力を振り絞って《ギガンティス》の姿を睨みつけ、雄叫びを上げる。

俺はCCD‐30の〝核〟へと向けて超音波刃を突き立てた。

超振動の刃が深々と突き刺さり、〝核〟にヒビが入る。

それを凝視しながら再び操縦桿を力強く握りしめる。

(――形状は刀。全てを貫く、閃光の刃。旧神のエルダー・ブレード!!)

 精神を集中し刀のイメージを作り出すとともに呪文を唱える。

『我、旧き神の代行者なり! その尊き名のもとに、汝に命ず! 闇は闇へ、塵は塵へ、邪悪なるものは虚無へと還れ! 旧き神の印を刻まれし鋼の剣よ! 闇を切り裂く剣となれ!!』

次の瞬間には超音波刃が黄金の光を放ち始める。

「まだだっ!! 貫けぇぇぇぇ――――――っ!!!」

 咆哮と共に黄金の光を放つ超音波刃は巨大な黄金の刀へと変化した。

そして、CCD‐30の〝核〟を突き破り、そのまま背中へと貫通した。

「――これで、――終わりだっ!!!」

 突き破られた〝核〟と背中から緑色の血がとめどなく吹き出し、それと同時に体内に蓄えていた膨大な魔力が名状し難き光を伴って放出される。

 それと共にCCD‐30の形状が崩壊を始めた。

 巨大な鱗が剥がれ落ち、牙が抜け落ちる。

 二本の腕が崩れ、触手の結合が崩壊し始める。

 俺はその崩壊に巻き込まれないように《ギガンティス》を一気に後方へと後退させた。

そして久藤さんへと向かって叫ぶ。

「今だっ!」

 久藤さんはそれに応じるように頷くと、《ギガンティス・カスタム》をもう一度跪かせ呪文を唱え始めた。

『旧き神の慈悲と加護の下 我汝に命ず 大いなるもの 父なるもの その怒りを鎮めたまえ 我、汝に帰還を望むものなり 契約を破棄し 制約を解き放て 汝、彼の地へと帰還せよ 我、その橋を架ける者なり 我、その扉を開くものなり 我、汝の帰還を望むものなり!!』

 久藤さんが唱えたのは帰還の呪文。

膨大な魔力を吸収しており、不完全とは言え〝邪神〟の一柱でもあるCCD‐30をこのまま放置しておくのは危険すぎる。

下手をすればこのまま自爆をしたり復活したりする危険性もある。

 そのために用意した善後策がこれだ。

結界用として使用した聖水と旧神の石を再利用し、異なる呪文によって再起動させ今度は帰還のための術を使用したのだ。

旧神の石から再び光が放たれ、地上に先ほどとは異なる意味を持った角度と図形がいくつも描かれる。

絶えず変化するそれは最後にある巨大な図形を描いた。

それは五芒星。

旧き神の力を借りるための大いなる紋章。

その中央にCCD‐30の姿を捉えると、その五芒星が眩い閃光を放ち始めた。

五芒星の中央が光の渦に包まれる。

CCD‐30から一度だけ、最後の雄叫びのようなのもが聞こえたが、それも徐々に聞こえなくなっていく。

そして空間が歪んだかのような衝撃を一度だけ放つと、崩れゆくCCD‐30の姿が眩い閃光と共に、この次元から完全に消滅した。

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