第10話 訂正と誤魔化し
毎日20時20分更新予定
中学生編完結まで執筆済み
全50話前後を予定しています
晃は、少しだけ歩く速度を落とした。
神崎の歩く速度も落ちる。
「……思いつき」
さっき自分が言った言葉を、もう一度心の中でなぞる。
違う。
それだけじゃない。
なのに、そう言い切る勇気が出なかった。
——何を怖がってんだよ、俺。
胸の奥で、何かが小さく引っかかる。
見せちゃいけないものみたいに隠してた。
――でも、もうそれも限界だ。
晃は息をひとつ吐く。
そして、歩きながら言う。
「なぁ」
神崎が少しだけ顔を向ける。
「はい」
短い返事。
その声に、また少しだけ迷う。
でも、もう迷うのはやめる。
「俺さ」
一拍。
「たぶん、思いつきじゃない」
神崎の足が、ほんのわずかに止まりかける。
でも、すぐに元の歩調に戻る。
晃は続ける。
「委員会とか、暗いとか……そういう理由もあったけどさ」
言葉を選ぶのをやめる。
「でも、それだけじゃなくって……」
沈黙。
風の音だけが間を埋める。
神崎は前を向いたまま、何も言わない。
晃は視線を逸らさずに続けた。
「……気づいたら、やってた。お前といると、そうしたくなる」
言ってから、自分でも少しだけ笑いそうになる。
何言ってんだ、って。
でも、引き返さない。
「それってさ」
少しだけ間を置く。
「俺、変か?」
神崎の指先が、ほんの少し動いた。
言葉が出るまでに、時間がかかる。
「……変じゃ、ないと思います」
小さな声。
晃は少しだけ息を吐く。
「そっか」
それだけ言って、また歩き出そうとする。
でも。
神崎が、ぽつりと続けた。
「でも……」
晃の足が止まる。
「それって……」
言葉が途中で途切れる。
神崎は視線を落とす。
少しだけ、間。
そして。
「どういう意味、なんですか」
その声は、いつもより少しだけ弱かった。
晃は、そこで初めて気づく。
ああ、ここまで来たんだ、と。
もう誤魔化せない距離にいる。
晃は、ゆっくり息を吸った。
「……特別なんだよ」
神崎の肩が、ほんの少しだけ揺れる。
「理由とか分かんねぇけど……ただ、一緒にいたくて」
言い切ってから、少しだけ沈黙が落ちる。
神崎は何も言わない。
逃げもしないし、視線も外さない。
それが逆に、晃の胸を締めつけた。
「……で」
声が少しだけ掠れる。
「お前は?」
神崎の呼吸が、一瞬だけ止まる。
「私は……」
言葉が途中で落ちる。
しばらくしてから、小さく。
「一緒にいるのが、嫌じゃないって思ってました」
視線を落とす。
「でも、それ以上説明できないです。……自分でも分からなくて……」
晃は一度だけ目を閉じて、短く笑った。
「だよな」
そして、少しだけ間を置いて続ける。
「でも……分かんないってことは、止める理由にならないよな」
神崎が顔を上げる。
晃は逃げないまま言った。
「俺はもう、誤魔化すのやめる」
一拍。
「お前は?」
夜の入り口みたいな空気に、その問いだけが落ちる。
神崎の喉が、小さく動く。
答えはまだ、形にならない。
ただひとつだけ確かなのは——
もう“何でもない帰り道”には戻れない、ということだった。




