表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まだ恋とは呼べない距離で  作者: rio
中学生編
1/11

第1話 副委員長と神崎理緒

毎日20時20分更新予定

中学生編完結まで執筆済み

全50話前後を予定しています

〜プロローグ〜


――あいつと出会ったのは、俺が中学三年、あいつが中学二年の春だった。


図書室の空気が好きだった。

ページをめくる音と、控えめな話し声、そして、窓から入る穏やかな風。

あの場所にいると、時間の進み方が少しだけ鈍くなる気がしていた。


委員会の初日、簡単な自己紹介と、役割決めがあった。 二年の副委員長を決めるとき、何人かの名前が挙がって、その中にあいつもいた。


推薦されて、少しだけ嬉しそうな顔をした

——気がした。


でも、次の瞬間にはもう、 「彼女のほうが適任です」って、あっさり譲ってた。


隣にいたやつが、そのまま副委員長に決まった。


それだけの話だ。


よくある光景だし、特別なことなんて何もない。


……なのに、なぜか引っかかった。 やりたそうだったのに、やらなかった。

ああいうの、普通はもっと迷うだろ。


……なのに、あいつは迷っていないように見えた。


そのあとも、何度か目に入った。


同級生からは頼られていて、 先生とも自然に話していて、 無理してる感じもないのに、ちゃんと優等生で。


——あいつは、目立つのに、前には出ない。

うまく言えないけど、いつも何かを抑えてる。


それが、最初のアイツの印象。

あのときは、ただ気になっただけだ。


---


〜第1話 副委員長〜


——あの日、私はただ、図書委員の仕事をしていただけだった――


中学二年の春。


新しいクラス、新しい教室、新しい人間関係。


何もかもが一度リセットされるこの時期は、少しだけ気が楽だ。


「普通にしていればいい」 そう思えるから。


図書室は静かで好きだった。


騒がしい教室と違って、ここでは自分を抑えていても違和感がないから。


委員会の初日、簡単な自己紹介のあと、役割決めが始まった。


委員長は三年生から一人。

副委員長は二年生から一人。


誰かが名前を挙げる。


「神崎さんとか、いいと思う」


一瞬だけ、空気が理緒の方へ向く。


——ああ、そういう評価なんだ。

嫌じゃない。

むしろ、少しだけ嬉しい。

ちゃんと見てもらえている、という感覚は、悪くない。


でも。

その感覚を、そのまま受け取ってはいけない気がした。

――そのまま受け取れば、また何かを壊してしまう気がして。


「……私よりも、彼女のほうが適任だと思います」

口に出した瞬間、少しだけ空気が緩んだ。


隣にいた子が、そのまま副委員長に決まった。


拍手が終わる頃には、もう誰も理緒を見ていなかった。


——それでいい。


「普通」


それが一番、楽だから。


役割が決まったあと、貸し出しの説明や当番の確認が続く。


理緒は本の整理を任されて、棚に並ぶ背表紙を順番に揃えていく。


決まった場所に、決まったものを戻す。


それだけの作業なのに、少しだけ安心する。


——間違えなければいい。

——はみ出さなければいい。

――そうすれば、誰も不幸にならないから。



「神崎さんって、やっぱりしっかりしてるよね」 近くでそんな声がした。


振り向くと、隣のクラスの女子が笑っている。


「作業早いね。もうこんなに進んだんだ」 「……別に、大したことじゃないよ」


そう答えると、相手は「またまた」と軽く笑った。


それ以上は何も言わない。

言う必要もない。


そのとき、ふと視線を感じた気がして振り返る。


カウンターの向こう側に、三年生の男子がいた。


目が合った気がしたけど、すぐに逸らされる。


——気のせいかもしれない。


それ以上は考えない。

考えなくていいことは、考えない方がいい。


理緒はまた、本棚に視線を戻す。


きちんと並んだ背表紙を、もう一度だけ整える。

自分の心を整えるように。


――この日の出会いが、

こんなにも純粋で、こんなにも尊くて、

消えてくれない恋になるなんて、

この時の私は知りもしなかった。――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ