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ドラクレア ──覇王の血脈──  作者: しゃちほこ
第一部 王国奪還編
3/3

第二章:始まりの出会い

父の結界を出てから二日。ソテルの胃袋は、とっくに限界を迎えていた。

「空腹で死ぬ……これが世界最強への第一歩なんて、笑えないよ……」

ふらつく足取りで森を彷徨っていると、前方から静寂を切り裂くような騒がしい足音と、金属が擦れる不穏な音が響いてきた。

「ひゃっ!?」

茂みを割って飛び出してきたのは、ライトブルーの髪を振り乱した少女――フローラだった。彼女はソテルの姿に目を見開くと、縋り付くような声を上げる。

「あ、あの! 助けて……っ!」

直後、彼女を追ってきた集団が姿を現した。冷酷な眼差しを宿し、統一された重装鎧に身を包んだギリドニアの騎兵たちだ。指揮官らしき男、ラウルが馬を止め、億劫そうにフローラを睨みつける。

「……ようやく追い詰めましたよ、フローラ様。まさか、『禁足地』へ逃げ込むとは。少々面食らいましたが、鬼ごっこはもう終わりです。」

ラウルは剣を抜き、傍らに立つソテルを路傍の石でも見るかのように一瞥した。

「邪魔だ、部外者。死にたくなければ、さっさと消え失せろ。」

なぜこんな僻地に小娘が、という疑問はあったが今はフローラの確保が最優先だった。

結論から言うと、その脅しは今のソテルには逆効果だった。

空腹による苛立ちと不遜な態度が、彼女の逆鱗を撫でる。

ソテルはフラつきながらも、真っ直ぐにラウルを見据える。

「……ねぇ、この人たちって仲間?」

「……!」

猛烈に首を横に振るフローラをみて「だよね」とつぶやく。

「……邪魔なのは、あんたたちの方だよ」

ソテルの赤眼に、鋭い光が宿る。

「……馬鹿が。殺せ!」

ラウルの号令と共に、数人の騎兵が馬を走らせ、鋭い剣尖をソテルの喉元へ突き出した。だが、ソテルはその一撃を、まるで止まっているかのように紙一重でかわす。

「速――ッ!?」

驚愕に目を見開く騎兵の視界から、ソテルの姿が消えた。次の瞬間、彼女の拳がその無防備な腹部に深々と突き刺さる。鎧の鋼鉄を紙細工のように凹ませる、凄まじい衝撃。

「遅い。……次はあんたか、指揮官」

「なるほど……どうやらただの人間ではないらしい。」

ラウルが馬から飛び降り、魔力を行使した。彼の周囲に、真紅の炎が渦を巻いて収束していく。

「ならば我が魔法で焼き尽くしてくれる!『ブレイズアロー』!!」

放たれたのは、大気を焼き焦がしながら飛来する、火矢だ。着弾すれば爆発し、周囲を焦土と化す。それを見てなお、ソテルはただ右拳を固く握りしめた。

「万象拳一ノ型――『星砕き』!」

轟音。魔力で構成された炎の矢が、ソテルの素手によってガラス細工のように粉々に粉砕された。砕け散った火の粉が、ソテルの銀髪を幻想的に照らし出す。

「なっ……魔法を、素手で!? バカな、あり得ん!!」

ラウルは己の目を疑った。王国の精鋭たる魔導騎士の魔法が、少女の拳一つで無効化されたのだ。その圧倒的な実力差を本能で理解した彼は、恐怖に顔を引き攣らせた。

「撤退だ! 全員引け!」

騎兵たちは、這う這うの体で森の奥へと逃げ去っていった。静寂が戻った森で、フローラが呆然と呟く。

「……あの、すごいです……。あなた、一体……?」

「ソテル=ブラスト。……どうか水と食料を……」

ぐぅ~、と盛大な腹の音が、英雄的な勝利の余韻を完膚なきまでに台無しにした。



「……ありがとう。もう2日も飲まず食わずでさ。正直、限界だったんだ」

ソテルは、目の前の少女が分けてくれたパンに夢中でかぶりつき、用意された水を一気に飲み干した。飢えと渇きが癒えていくその瞬間、彼女は生まれて初めて「食」のありがたみを心の底から感じていた。

「いえいえ! お礼を言うのは私の方です! 本当にありがとうございました。……それで、ですね。食事を続けながらでいいので、私の話を聞いていただけないでしょうか?」

「もちろん。こっちも色々聞きたいことがあるからね」

ソテルがコクコクと頷くと、助けられた少女は居住まいを正し、少し緊張した面持ちで名乗った。

「ありがとうございます。改めまして……私はギリドニア王国の魔導士、フローラ・フロイライトと申します」

フローラはそこから、自らの故郷が抱える重い真実を語り始めた。

「その、私の祖国であるギリドニアの内政が今、大変な事態に陥っているのです」

「大変な事態……って?」

「はい。いわゆる『国家転覆』です。表向きは平和そのものですが、裏では大臣の男、モルデール・マリオンが実権を握っています。王族の皆様も、彼の策略によって城の地下深くに幽閉されてしまいました……。マリオンやり方に反対した、私の両親も……」

その事実を知ったフローラは、真のギリドニアを取り戻すため、協力者を探す旅に出たのだという。

「まさか、こんな辺境まで来ることになるとは思いませんでしたけどね」

フローラは務めて明るく振る舞っていたが、ソテルの目には、彼女の顔がいや増すやつれと、服のあちこちにある傷が映っていた。その過酷な旅路こそが、彼女の話が嘘偽りのない「真実」であることを物語っていた。

「加えて、『星守り(スターゲイザー)』というギリドニア最強の騎士団の存在……。彼らに対抗できないことには、話になりません。ですから、ソテルさん。貴女のその強さを見込んで、お願いがあります」

フローラはソテルの眼を真っ直ぐに見つめ、声を震わせながら、深く頭を下げた。

「私と一緒に、ギリドニアを救っていただけないでしょうか! 星守りを近くで見たことがある私には分かります。ソテルさんは彼らに匹敵する……いえ、それ以上の力を秘めています! どうか、その力を貸してください……っ!」

必死の懇願の後、静寂が流れる。返事がないことを不安に思ったのか、フローラは小さくやっぱり、ダメかな……と心の内で呟いた。

「いいよ」

「……えっ!? な、なぜです? さっき会ったばかりなのに! 相手は大陸一の大国『ギリドニア』ですよ!? それなのに、どうして……!」

あまりにサッパリとした即答に、フローラは驚愕に目を見開いた。そんな彼女に、ソテルは屈託のない笑顔を向ける。

「どうしてって、フローラは困ってるんでしょ?」

「それはもう、非常に……」

「私はさ、助けを求める人にはできるだけ応えてあげたいんだよね。父さんとの誓いもそうだけど、個人的にもさ。……それに、命の恩人の頼みだし。あと、その『星守り』ってのとも戦ってみたいしね!」

ソテルの言葉は、フローラの心の奥底にある不安を一瞬で吹き飛ばすほど、温かく、そして力強かった。  フローラの金の瞳から、大粒の涙が溢れ出す。

「うぅ……ソテルさん……ありがとうございます……! 本当に、本当にありがとうございますっ……!」

「どういたしまして。じゃあ改めて、これからよろしくね、フローラ!」

「はいっ! よろしくお願いします!!」

フローラ:ライトブルーの髪色に、金の瞳。ボブカットで、優等生って感じ。身長158。


ギリドニア:オルドミニア一の大国。強国というわけではなく、領土が広いイメージ。西の方にある。


万象拳:ソテルの使うブラストから教わった拳法。全部で10個の型がある。

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