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プロローグ:巡る因果
地獄。その二文字以外に、この光景を形容する言葉を彼は持たなかった。かつて美しかったはずの街並みは、猛火に舐め取られ、崩れた石壁の間には無数の屍が折り重なっている。風が吹けば、鼻を突くのは死臭と、全てを焼き尽くさんとする業火の熱気だけだ。
「……酷い有り様だ」
その光景を眺める白き竜──王竜ブラストは、黄金の瞳に滅びの景色を映して独りごちた。生存者は皆無。そう断じ、彼がその場を去ろうとした、その時だった。
(……ぅ……ぁ……)
爆ぜる火の粉の音に混じり、天に響くほどではないが、地を這うほどに力強い「生」の震えが届いた。 瓦礫の山を退けた先にいたのは、一人の赤子だった。煤に汚れ、死の淵にありながらも、その赤子はブラストを見上げると、あろうことか静かに微笑んでみせたのだ。
「人の子よ。絶望の淵でなお、笑うか」
それは、世界の理を司る王と、後に世界の覇者となる赤子──ソテルの、運命の交差点であった。




