46話:警鐘を鳴らす者
各々の思惑を胸に、革命家連合の発足から約一ヶ月が経った。
森林の中、革命家殺しのアイとリラが向かい合って立つ。それを見守るフィルとトーカ。
修行を経て、彼ら四人のオーラの総量は一ヶ月前よりも遥かに多くなっていた。
「アイさん。最後のレッスンといこうか」
「ええ。お願いします」
戦闘が開始され、アイはリラを圧倒した。二人は楽しげに会話を弾ませる。
「この一ヶ月で俺に手足を出させないまでに成長するとはな」
「リラさんのおかげですよ」
「いやいや、アイさんの才能があってこそだ」
二人が互いに謙遜し合っていたそんな時、トーカの感知の範囲に何者かが侵入した。
「アイ様。感知に────」
トーカが言葉を言い終わる前に、アイは既に功力発動の準備をしていた。
「わかってる。ちょっと行ってくるよ」
瞬間、アイは功力による斥力の応用により、亜音速で感知した方向へと向かった。
数秒後、アイは敵の姿を視認する。
そしてすぐさま、拳にオーラを込め、彼へと殴り掛かった。しかし彼は体を反らすことにより、その攻撃を意図も容易く避けてみせた。
アイの拳により、周囲には強烈に風が靡く。両者は向かい合い、互いの面を確認そた。
「お前が革命家殺しアイか」
「誰? ……いや、誰でもいいかな」
アイが知らずとも、その正体は世界が周知していた。
『革命家アルトアラ・マキヘン』
名を知らずとも、アイを狙うのは政府軍か革命家のどちらか。一ヶ月前のユウスの言葉を考慮すると、後者である可能性の方が高い。オーラ的にも、彼を革命家であると判断したアイは、すぐさま戦闘態勢をとる。
アルトアラがオーラを立ち上らせると同時、アイは彼に功力を施す。彼は既に、アイが放出していたオーラの原子に触れていた。
四肢に外側への引力を施し、アルトアラを動けなくする。そしてそのまま、具現化という形だけが残った剣によって彼の心臓を貫いた。
「呆気ないね。もしかして革命家じゃなかった?」
血を吹き出し、倒れた頃、アイの後を追ってきていたリラがその様子を確認する。
「アイさん。そいつは革命家のアルトアラだ」
「……やっぱり革命家ですか。その言葉を聞いて安心しましたよ」
「そういえばこいつ、革命家連合の一人じゃなかったか?」
「え?」
「にしては弱いな」とアイが感じた瞬間、アルトアラの死体が発光しだした。そしてその体の内側、アイはそこにオーラの流れを見た。功力の流れだ。
危険を察知し二人は構えるが、アルトアラの死体が爆発したことにより、発生した爆風を受け後方へと飛ばされてしまった。強烈な風で身動きの取れなくなったアイをトーカがキャッチし、リラの方をフィルが掴んだ。
さなか、彼女らは見た。アルトアラの死体から、発光する体を持つ人形の“何か”を。その何かは膨大なオーラを内包しており、ゆっくりとアイらの方へ足を進めていた。
アイは体勢を直し、トーカの方へ顔だけ向けた。
「トーカ。処理できる?」
「問題なしです」
トーカは功力により、持ち手のついた巨大な筒を具現化する。
アイとリラのアドバイスにより、彼女の功力は変化していた。以前までのように、自身の寿命を消費して得られる高度な具現化ではなく、筒と持ち手のみという簡略的な銃の具現化によって寿命の消費をゼロにする。
したがって、寿命商売を経ずとも功力による攻撃が可能となった。加えて発射までに二秒の時間を要するという制約を設け、筒から放出されるオーラの威力は底上げされた。
その結果、光る何かはトーカの功力によって粉々に散っていった。
散りゆくアルトアラの功力を見届けた後で、リラは言った。
「恐らく、死んだあとに発動する功力だったのだろう。あれがもう何体かいたら対処できなくなっていたかもだな」
「そうですね」
アイは息一つを吐いた後、リラに向けて言った。
「遂に仕掛けてたようですね」
「ああ。始まるぞ。戦争が」
**
アイらがアルトアラと邂逅した二日後、革命家連合が声明を世間に公開した。その声明の内容は以下の通りである。
我々革命家連合は、既に二人を失った。
そのうちの一人アルトアラは革命家殺しによって殺害された。これは決して許されるべき行為ではない。
我々革命家連合は革命家殺しアイ及びリラへの宣戦布告を行う。
この声明を受け、動きを見せたのは異世界政府軍だ。
政府軍の指針は、革命家がアイ・リラを含む一般人に対して能力を使用した際、その現行犯として殺し合いを防ぐというもの。
現在、革命家連合は奇襲を考慮し二人一組の形で四つの国に分離している。そこで政府軍は悟られぬよう、少数精鋭の形で国に潜伏することとした。
但し、政府軍5位スメラギ・アキサに関しては先のコロシアムの件にて爆発の被害を被り、全身に重度の火傷を負ったために今回の作戦には不参加の意を示している。
**
「こんにちはキキョウさん」
「えっと……アキサさんで合ってますよね?」
彼女の問いに、アキサは微笑んだ。
「ええ。合ってますよ」
彼女の顔面右半分の火傷の痕。その傷が痛々しく感じられ、思わずキキョウはアキサに優しく抱きついていた。
「アキサさん……一体誰が……何があなたをこんな目に……」
「自業自得ですよ。安心してください」
自業自得。少なくとも、アキサの頭にはそんな言葉は無かった。
ヘビ。そしてコロシアム。
家族の手がかりがそこにあると信じ、彼女は躍進を続けた。だがしかし、得られた手がかりは全て偽りのものであった。
フウガ、そしてネウルスから得た「両親がどこかの国に解放された」という情報。
フウガから得た「コロシアムに弟が捕らわれている」という情報。
療養期間中、アキサはインデックスとユウスに頼み、それらの情報が正しいかどうかを確認してもらっていた。その結果、見つかったのは三つの死体にまつわる情報。
二つの死体は東側大陸アルガヨ付近で見つかり、アルガヨ国民によって埋葬されていた。
もう一つの死体は西側大陸ジョーガル付近で見つかり、ジョーガル国民による火葬が行われた。
小太りの髭の生えた男、茶髪で右手に火傷のある女、ガタイの良い秀麗な顔立ちの男。
アキサの家族はみな、この世界で殺されていた。
死体に僅かに残されたオーラ。それがフウガのものと一致していた。そして何より、ヘビやコロシアムにアキサを向かわせたのはフウガの助言によるもの。
その事実がアキサを震わせた。恐怖や焦燥の類では無い。赤く染まった憎悪と激昂によるものだ。
「キキョウさん。直にここは戦場になります。大切な人がいるのなら、その人と直ぐにここを立ち去ってください」
キキョウを諭すようにその言葉を口にしたアキサの瞳には、狂気の黒が宿っていた。
**
革命家連合が宣戦布告を行ってから三日。
革命家連合中核「アタラシ・フウマ」と「オルアス・カナル」は現在、東側大陸ランドロンにて待機していた。アイとリラが彼らのもとに来るのは確実。あとはタイミングだ。
「フウマ。奴らはあとどのくらいで来ると思う?」
「あとどのくらい……か。そんなの奴らの力量次第だ」
フウマは机に置かれたサイコロを指で転がす。
「俺の感知の範囲はこの国全土に及ぶ。そしてここにはもう、誰も残っちゃいない」
革命家連合による宣戦布告により、自国が戦場になるのではないかと考えた国民は国を捨て、連合の管轄下にはない国へと逃れた。
「奴らが国へと侵入してきた際にはすぐ分かる。最も、奇襲という策を使ってこなければの話だがな」
その時、彼らのいる部屋に突如として第三者の声が響いた。
「奇襲なんてしないよ」
フウマとカナルが一斉に戦闘態勢に入る。カナルが近くにあった椅子を蹴り、彼女のもとへと吹っ飛ばす。
しかし、その椅子は彼女にあたる直前に突然上へと吹っ飛んだ。
それによって天井に穴が空き、光が差し込むことによって声の主の顔面が太陽光で照らされる。
「正々堂々、卑怯な真似はなしだ。革命家」
アケバナ・アイ。転生者として多数の革命家を殺害、俗に言う革命家殺しである。




