5:噂だけどね
お読みいただきありがとうございます。
不定期更新のため、いつ更新できるかわかりませんが、頑張って更新しています。
今回もウィルのお話です
5:噂、だけどね
冒険者ギルドから出て、なじみの武器屋に行く。
依頼で使った武器の補修と、こまごまとした消費してしまう仕様したものの補充だ。
武器屋といっても、大きい店のため、防具も道具も扱いがある。
「こんちは」
「おや、ウィルさんじゃありませんか、いらっしゃい」
武器防具専門店にしては、粗野さが足りない店員が迎えてくる。
職人は奥にある工房にいるからだろう。
客商売だから、表面上は人当たりのいい人物を使っているのだと、なじみの親方が言っていたことを思い出す。
「閃光球が終わったので補充と、ちょっとした初心者用の防具を見に来たんだけど」
「初心者用の防具?ウィルさんが着るわけじゃないですよね?」
「うん、ちがう。だから、出来合いのやつでいい」
初心者は、たいてい懐がさみしいものが多いため、だれが作ったのかわからない、一式そろった防具を格安で買えるのだ。
たいていは、どこかの工房の弟子が、練習のために作らされているものなのだが、腕の良しあしでできが違う。すぐに一人前になるだろう腕のいいものと、まだまだだという腕のものの、それらを雑多にしたもので構成されている。
たとえば、工房ごとに作りが少々違うのだが、同じ革でできている革鎧のシリーズなら、それで革鎧一そろいとしてまとめられているのだ。
ちなみに子供用の防具はおいていない。
「承知しました。ではこちらにあるセットでよろしいですか」
店員が持ってきた一式を、ギルドカード払いで買う。
冒険者ギルドは、ちょっとした銀行業を行っている。そして冒険者ギルドのカードは、魔道具なので、依頼の達成した後の賃金は、ギルド銀行に預けておけるのだ。そこから支払いもできる。
この一式分も、この武器屋の店員の誰かが、ギルドに受け取りに行くのだ。
一式を受け取り、マジックバッグにしまう。
きついのを承知で冒険者になって、ダンジョンに入って、一番の収穫がこのバッグだろう。長い旅をするときには重宝している。ただ、時間経過なしのものではないため、保存のきかない食料が入れられないのが難点だった。
「武器の補修は明日の午後にはできるそうです。ありがとうございました」
受注受取証の半券を手渡し、店員が頭を下げる。
武器防具屋の店員としていい人材だよな、とウィルはいつも感心していた。
昼。
冒険者ギルドのランチ時間は、ちょっと遅い。
キャリーは、同僚に外で食べてくることを告げ、ウィルが待つであろう店に行く。
店内はもう閑散としていた。
「おまたせ」
「ああ、好きなの頼んでくれ」
キャリーは獣人だ。普通の人間より食べる。しかも遠慮はしない。だがそれも勝手知ったるという仲だからだろう。
運ばれてきた食事に手を付けながら、ウィルは頼みごとを話す。
ほぼ周りに聞こえない声量でも、キャリーは聞き分けてくれるから楽だ。
豪華だが紋のない馬車。平民にしてはいい服を着ている拾った青年のこと。ツノウサギのところに捨て置かれていた時には、けがだらけだったようだということもだ。
聞いているキャリーは、だれが見ても嫌そうな顔をしている。
「はあああ、わかりました。調べるわよ」
「悪いな。これ、前金で渡しとく」
ギルド銀行から降ろしてきた金貨を渡す。
金貨5枚。
平民一か月の給料分だ。
「ちょっと、ウィル…、ああ、絶対厄介なことになりそうね」
引き受けたからには、断れないので、お金を受け取る。これだから、高ランク冒険者は、とは思っても、口には出さない。価値はそれぞれだ。
「そうそう、これは噂だけど」
キャリーが食べながら小声で口にする。
最近、王都の貴族学園で、妙なごたごたがあったらしい。貴族のことなので興味はないが、王族がかかわっているとかいう。そして、その騒動の決着が、昨日おわったとかいうことだ。
「もちろん、噂よ?こんな噂しただけでも、不敬だなんだってことになっちゃう。でも、人の口に戸は建てられないのよねぇ」
食後に飲み物を頼んで、それを一気に飲み干して、キャリーは言う。
言外には、これでしょ、どうせ、といっているようだ。
「まあ、頼むよ」
「わかったけど、箝口令敷かれてたら、無理よ」
「そんときゃ仕方ないな。できれば、明日の夕方に武器を取りに来るから、わかったとこまでの報告お願いできるか?」
「はいはい。・・・ね、ここの軽食、ギルドの同僚と家族にお土産に欲しいなあ」
「あー、わかった。頼め」
これも必要経費だ。
かかわってしまったのだから仕方ないと、ため息をつきつつ、自分も同じものを頼む。
そろそろ起きているかもしれない彼のことを考える。おいてきた回復薬を飲んでおとなしくしていれば、体は回復するだろう、食欲も出るだろうと思う。
食堂前でキャリーと別れ、門に向かう。
目指すは森の狩人小屋だ。