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追放王子と生態系調査人  作者: 水野青色
3/23

3:なぜこうなったのかわからない

お読みいただきありがとうございます。

不定期更新です。

三話目です。


       3:なぜこうなったのかわからない



 「う・・・」

 

 目を覚ますと、そこは見慣れない場所だった。

 どこかに寝かされているのはわかる。

 もしかしなくても寝台だろう。

 だが固い。体中の痛さもさながら、この寝台の硬さも体に合わないようだ。

 ルードヴィヒは一応王族だ。

 しかも、目が覚める前までは高級な寝台で寝起きしていた身分だ。

 

 いや、こういう体の痛みには覚えがある。

 数年前までいた辺境の地では、野営などもしていたので、このような硬い寝台どころか、土の上で寝ていたこともある。

 その時は体中が痛みで起きられなかった。

 それを考えると、この寝台はまだましだろう。

 そうでなくても、けがをしたのだろう身体が痛い。

 包帯がまかれているようだ。

 頭と片目の部分もだ。


 起き上がろうとしたが、体に力が入らない。

あちこちに痛みがあるのは、打撲しているためだろう。

 かろうじて手が動くようなので、周りを探る。

 寝台わきの簡易テーブルに何かおいてあるようだ。


「かみ・・・?」


 カサリという感触に、それを手に取る。

 

「なんだ?」


 よくあかない目を細め、それを見ると何か書かれていた。


 横のテーブルの上の瓶を飲み干して寝てろ


 ただそれだけのメモだ。

だがそれだけでも自分を助けてくれたものがいるのはわかった。

 再び片手で探ると、ふたをされている瓶に手が届いた。

持って中を見る。

 覚えがある。

 これはものすごいよく効くが、ものすごくまずい、回復薬だ。

 中の色はヘドロ状だ。どれだけ濃縮されているのだろう。

 これもよく、辺境で飲まされた。


 鼻をつまみたくなるが、片手が動かない。

 瓶のふたを口で開け、仕方なく一気にあおる。

 まずい。

 とてつもなくまずい。

 吐きそうだが、こらえて、寝台の中で肩で息をする。


 なんでこんなことになったのだろう。


 ルードヴィヒはわからない。


 大体にして、ルードヴィヒがこの城に戻ってきたのは、三年前だ。

 王都の学園に通う年齢だからと急に戻されたのだ。

 それまでは、生まれてから8歳までは王宮の別棟で暮らし、母が亡くなった8歳のころには、辺境に修行だという名目で、正妃に追いやられた。

 辺境は西のほうにあり、魔物討伐が主だった。

 正妃の母方の実家ということもあり、ルードヴィヒには冷たい場所だった。

 辺境の見習いと同じ立場として送り込まれ、朝から晩まではたらかされていたにもかかわらず、ほぼ食事を与えてもらえなかった。討伐できる魔物も最初のころはほぼなく、魔物の群れの中に置き去りにされることもあった。

 本来なら団結力が必要とされている辺境だというのにルードヴィヒに対してだけは、死んでもいい扱いだった。

 ルードヴィヒは、身分を名乗ることもここでは禁止されていたからだろう。

 ルードヴィヒの母親は、旅の一族の巫女だった。

 父王がとある外遊の時に、母を強引に娶ったのだ。

 物珍しさだったのだろう。だが、ルードヴィヒができ、すぐに父王は、母を王宮の別棟に移し、以降は一度も目をかけることもなかった。

 母が亡くなった時も、ひそかに葬られただけだ。

 ルードヴィヒには、まったく後ろ盾がなかった。

 それでも、辺境に来る前にした婚約だけは、律義に守り、時々は手紙を送ることも忘れなかった。向こうからも、何回かに一度は手紙が来る。

それだけが彼にとっての慰みだった。


 ルードヴィヒが王族だと知らしめられたのは、彼が王都の学園に通う年になるときだった。

 手紙が来た。

 衣装も贈られてきた。

 辺境伯だけは、忌々しげな表情で送り出したが、ほかのものは真っ青な顔だった。

 今までの王族への仕打ちに、どんなバツが待っているかと思う時が気でなかったからだ。

 だがそれでも、ルードヴィヒには関係なかった。

 王城について、父王に目通りして、あいさつをし、すぐに学園の寮に入れられた。

 学園の制服と、普段着と、身の回りを世話する数人だけが、彼に与えられたのだ。そのほかに、王子なのだからと、政務の一端と学園の生徒会。

 ルードヴィヒはそれまでも勉強はさせてもらえなかった分、苦労した。

 だが、婚約者も同じ学園に通いだしたのだから、頑張らなければという気負いで、一年を過ごし、二年を過ごした。

 その間に出した手紙や、お茶会への誘いは断られていたが、お互い忙しいのだろうとあきらめていた。

 贈り物も、腹違いの同じ年齢の異母弟が、国費でやるものじゃないというので、細々と稼げた辺境での給料から、ささやかだが、贈っていた。

 まだいいものは贈れないのは申し訳ないという言葉も添えて。


 やはりわからない。

 自分は何の罪があったのだろうか。

 

 ものすごくまずく苦い回復薬が、眠気を誘ってくる。

 思考があいまいになり、眠りに入る。

 訪台をしていないほうの目から、一筋の涙がこぼれた。


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