3:なぜこうなったのかわからない
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三話目です。
3:なぜこうなったのかわからない
「う・・・」
目を覚ますと、そこは見慣れない場所だった。
どこかに寝かされているのはわかる。
もしかしなくても寝台だろう。
だが固い。体中の痛さもさながら、この寝台の硬さも体に合わないようだ。
ルードヴィヒは一応王族だ。
しかも、目が覚める前までは高級な寝台で寝起きしていた身分だ。
いや、こういう体の痛みには覚えがある。
数年前までいた辺境の地では、野営などもしていたので、このような硬い寝台どころか、土の上で寝ていたこともある。
その時は体中が痛みで起きられなかった。
それを考えると、この寝台はまだましだろう。
そうでなくても、けがをしたのだろう身体が痛い。
包帯がまかれているようだ。
頭と片目の部分もだ。
起き上がろうとしたが、体に力が入らない。
あちこちに痛みがあるのは、打撲しているためだろう。
かろうじて手が動くようなので、周りを探る。
寝台わきの簡易テーブルに何かおいてあるようだ。
「かみ・・・?」
カサリという感触に、それを手に取る。
「なんだ?」
よくあかない目を細め、それを見ると何か書かれていた。
横のテーブルの上の瓶を飲み干して寝てろ
ただそれだけのメモだ。
だがそれだけでも自分を助けてくれたものがいるのはわかった。
再び片手で探ると、ふたをされている瓶に手が届いた。
持って中を見る。
覚えがある。
これはものすごいよく効くが、ものすごくまずい、回復薬だ。
中の色はヘドロ状だ。どれだけ濃縮されているのだろう。
これもよく、辺境で飲まされた。
鼻をつまみたくなるが、片手が動かない。
瓶のふたを口で開け、仕方なく一気にあおる。
まずい。
とてつもなくまずい。
吐きそうだが、こらえて、寝台の中で肩で息をする。
なんでこんなことになったのだろう。
ルードヴィヒはわからない。
大体にして、ルードヴィヒがこの城に戻ってきたのは、三年前だ。
王都の学園に通う年齢だからと急に戻されたのだ。
それまでは、生まれてから8歳までは王宮の別棟で暮らし、母が亡くなった8歳のころには、辺境に修行だという名目で、正妃に追いやられた。
辺境は西のほうにあり、魔物討伐が主だった。
正妃の母方の実家ということもあり、ルードヴィヒには冷たい場所だった。
辺境の見習いと同じ立場として送り込まれ、朝から晩まではたらかされていたにもかかわらず、ほぼ食事を与えてもらえなかった。討伐できる魔物も最初のころはほぼなく、魔物の群れの中に置き去りにされることもあった。
本来なら団結力が必要とされている辺境だというのにルードヴィヒに対してだけは、死んでもいい扱いだった。
ルードヴィヒは、身分を名乗ることもここでは禁止されていたからだろう。
ルードヴィヒの母親は、旅の一族の巫女だった。
父王がとある外遊の時に、母を強引に娶ったのだ。
物珍しさだったのだろう。だが、ルードヴィヒができ、すぐに父王は、母を王宮の別棟に移し、以降は一度も目をかけることもなかった。
母が亡くなった時も、ひそかに葬られただけだ。
ルードヴィヒには、まったく後ろ盾がなかった。
それでも、辺境に来る前にした婚約だけは、律義に守り、時々は手紙を送ることも忘れなかった。向こうからも、何回かに一度は手紙が来る。
それだけが彼にとっての慰みだった。
ルードヴィヒが王族だと知らしめられたのは、彼が王都の学園に通う年になるときだった。
手紙が来た。
衣装も贈られてきた。
辺境伯だけは、忌々しげな表情で送り出したが、ほかのものは真っ青な顔だった。
今までの王族への仕打ちに、どんなバツが待っているかと思う時が気でなかったからだ。
だがそれでも、ルードヴィヒには関係なかった。
王城について、父王に目通りして、あいさつをし、すぐに学園の寮に入れられた。
学園の制服と、普段着と、身の回りを世話する数人だけが、彼に与えられたのだ。そのほかに、王子なのだからと、政務の一端と学園の生徒会。
ルードヴィヒはそれまでも勉強はさせてもらえなかった分、苦労した。
だが、婚約者も同じ学園に通いだしたのだから、頑張らなければという気負いで、一年を過ごし、二年を過ごした。
その間に出した手紙や、お茶会への誘いは断られていたが、お互い忙しいのだろうとあきらめていた。
贈り物も、腹違いの同じ年齢の異母弟が、国費でやるものじゃないというので、細々と稼げた辺境での給料から、ささやかだが、贈っていた。
まだいいものは贈れないのは申し訳ないという言葉も添えて。
やはりわからない。
自分は何の罪があったのだろうか。
ものすごくまずく苦い回復薬が、眠気を誘ってくる。
思考があいまいになり、眠りに入る。
訪台をしていないほうの目から、一筋の涙がこぼれた。