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「さすがに爵位を買い戻すことはできなくとも彼女の孫の代くらいまでは問題なく男爵家でいられるのではないかしら?」
「父上の女好きにも困ったものだな」
「お祖父様は蠱惑的な容姿の方がお好みでいらっしゃるでしょ?」
「うん?」
「あの男爵家の次女の方、盛っていらっしゃるわよ」
「我が姪よ。それは詐欺というものではないかな?」
「あら、それを見抜く力も養わないといけないのではないかしら?」
先代王が胸の大きな女性を好んだせいで王家の女性たちは豊満な胸を持つ者が多い。
その遺伝子を多分に引き継いでいるヴィヴィアンも溢れんばかりの大きさを持っている。
「そろそろパーティもお開きか」
「話題を逸らしましたわね。まぁいいでしょう。今回もお相手が見つかったのはお祖父様とお父様だけでしたわね」
「私たちの相手という方はいつになったら現れるのだろうね」
のんきな会話を空気になって聞いていた宰相は胃薬を飲んだ。
目下の悩みは王女と王弟の結婚相手だ。
「恐れながら申し上げましたらば、王族だからというブランドだけで結婚相手が寄ってくる時代はとうの昔に過ぎ去りました。積極的にお声掛けをしていただきとうございます」
「あら宰相、だけどね。わたくしたちが男爵家や子爵家に嫁いだら持て余すのではないかしら?」
「ならば公爵家、侯爵家に嫁がれては?」
「でもね。優良株は皆、婚約者持ちでしょう?王家の力を使って破棄させるのは忍びないわ」
「ヴィヴィアン様の言う優良株というのは王になってくれる方でしょうが、そうそう王家に婿入りしてくれませんよ」
婚活パーティが終わり、王家の人間が引き上げると貴族たちもどんどん帰って行く。
ヴィヴィアンも帰るために席を立った。
「では、私たちも下がろうか」
「えぇ叔父様」
相手が見つからないまま婚活パーティが終わり、宰相が深くため息を吐いた。
ヴィヴィアンが本気で自分の相手を探していない理由に心当たりがあったから深く追求はしなかった。
「・・・宰相」
「はい」
「ヴィヴィアンのこと頼むよ」
「かしこまりました」
二十年ぶりに王の子が産まれたと城中がお祭り騒ぎになり、王妃も体調は思わしくなかったが我が子を腕に抱いた。
王も王妃も仲睦まじく王家は安泰だと誰もが思った。
そんな幸せは一週間で終わりを迎えた。
王妃が帰らぬ人になった。
王の嘆きは深く、王妃の面影を色濃く残す第一王女まで失うことを恐れて継承権を産まれたばかりのヴィヴィアンに移し、仕事に打ち込んだ。
成長していくヴィヴィアンが王妃の容姿を引き継いでいたら良かったのかもしれないが王の端正な顔立ちを引き継いだため王からの寵愛は薄かった。
三歳のヴィヴィアンは廊下で会った父親である王から初めて声をかけられた。
『王妃を殺したそなたには女王になる以外に償いはない』
酒に酔っていた王はヴィヴィアンに声をかけたことを覚えていなかった。
だが、たまたま一緒にいた家臣が聞いていた。
そのことが瞬く間に広がりヴィヴィアンは王に疎まれた子として知られた。