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「ヴィヴィアン、休憩かい?」
「お父様」
「紹介しておこう。こちらは私の側室候補の令嬢だ」
「ヴィヴィアン王女、末永くよろしくお願いいたします」
「こちらこそお父様をお願いいたしますわ」
令嬢と言っても先ほど見ていた前々侯爵夫人だ。
伴侶を持っていないから令嬢と呼んでも差し支えないが、違和感はある。
「わたくし、ヴィヴィアン王女とお話をしてみたいですわ」
「そうか。ヴィヴィアンと仲良くしてもらえるのならこんなに嬉しいことはないな。ヴィヴィアン、母だと思って何か相談をしてみるといい」
「お心遣いありがとうございます。お父様」
満足げに王は頷くと飲み物を持って別の婦人たちのところへ行った。
王に声が届かなくなったころに前々侯爵夫人が口を開いた。
「わたくしのことをお嫌いかしら?」
「いいえ」
「王は側室候補と紹介してくださいましたが側室になることは決まっておりますの。わたくしのことを母と呼んでくださっても構わないのですよ」
「第十六お義母様」
王がヴィヴィアンに側室を紹介するたびに側室たちはヴィヴィアンに母と呼ぶように望んだ。
王からの寵愛と義娘からも慕われているとなれば権力を得られると思ってのことだ。
年齢のことから子どもを求められることはないが、それでも側室同士での権力争いというのは無くならない。
「第十六・・・」
「ありがたいことにお父様のご側室様方から母と思い悩みがあれば相談をして欲しいと声をかけていただいておりますの」
「そう」
「産まれてすぐに母を亡くしたことで哀れに思われたのでしょう」
「そのようなことはございませんよ。王はヴィヴィアン様に愛情を注いでいらっしゃいますよ。先ほども御身を案じることをおっしゃっていました」
ヴィヴィアンに嫌われれば候補のままで終わりかねない。
ご機嫌取りに余念はなかった。
「お父様は第十六お義母様に大変心を許していらっしゃるようですわね。安心いたしましたわ」
「ヴィヴィアン様」
「ご機嫌よう」
ヴィヴィアンが会話を切り上げたことで令息たちがダンスの申込に群がった。
微笑みながらヴィヴィアンは表面上の会話をしながら次々とダンスを踊った。
ある者はヴィヴィアンの逆鱗に触れて足を踏まれながら、ある者はヴィヴィアンの美貌に見惚れながら、ある者はヴィヴィアンの憂いに気づきながらダンスを踊った。
ダンスが終わると歓談をするための時間に変わる。
ダンスに自信のない令息たちはヴィヴィアンと会話をしようとしたが、早々に壇上の椅子に戻ってしまった。