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「叔父様」
「なんだい?」
「ひとつ賭けをしませんこと?」
「ほぅ、してその内容は?」
「あの側室候補となった前々侯爵夫人が正式に側室になるかどうかですわ。もちろん、わたくしは正式になることに賭けますわ」
「それでは賭けにならないね」
「それは残念ですわ。叔父様ならのってくださると思いましたのに。これでは宰相との約束が守れないではありませんか」
宰相との約束と聞いて王弟は眉をわずかに上げた。
未婚の王族はすべからく家臣、主に宰相から婚姻をせっつかれていた。
「その約束とやらが知りたいね。我が姪よ」
「簡単なことですわ。叔父様とダンスを踊りたいと願っている令嬢たちに声をかけるという夜会においては息をするよりも簡単なことをしていただくだけですの」
「宰相も余計なことをしてくれたものだ」
「その宰相ですが、何か良からぬことを企んでいるようですわよ」
ヴィヴィアンが扇子を向けた先では件の宰相が声をかけられることを今か今かと待ちわびている令嬢たちに声をかけていた。
何か小さい紙を渡し、それを受け取ると納得してその場を離れる。
「何か渡しておりますわね」
「一体、何をしているのだ」
「あら?紙を受け取るために列が出来始めましたわね」
「はぁ」
「あら?部下の方が立て看板を持っていますわね」
「宰相を至急呼んでくれ」
黙って給仕していた侍女たちに命じると王弟は痛くない頭を抱えた。
見なくてもヴィヴィアンが細かく実況するから問題はなかった。
「あらあらあら、あちらに、最後尾という立て看板がありますわ。ひぃ、ふぅ、みぃ、ざっと三十人ほどおりますわね」
「宰相は何をしているんだ」
「えぇと、立て看板には、ダンスの権利抽選会と書かれていますわね」
「本当にろくなことを考えないな」
「そうでもしませんと踊っていただけないではありませんか。時間は有限ですよ。ほらこちらの箱から番号を引いてください。ほらほら」
呼ばれた宰相は強引に数字の入った箱を見せながら小言を言った。
宰相の熱意に負けて籤を引いた。
番号は三番。
宰相から番号の発表があり喜ぶ令嬢がいるなか悔しそうにする令嬢がいた。
「あの方は侯爵家ですわね。たしかお兄さまが婚約者を殺したとかいう噂がありましたわね」
「何だ、その物騒な噂は」
「あながち間違いではないのですよ。実際、お兄さまのご婚約者様は心を病んで療養を余儀なくされていますもの」
「一体何があったんだ」
「跡継ぎが産まれるなら婚前交渉もよしとする家と神に誓うまでは純潔を保つという双方の家の方針の違いが招いた悲劇ですわ」