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それから二十年、渡りが無いまま過ぎ王の好みに育った王妃が産んだのがヴィヴィアンだ。
だが高齢出産だったため、そのまま儚くなってしまった。
「そうですわよね。お父様も高齢ですし、いつ死んでもおかしく無いですわよね」
「そうなると必然的にヴィヴィアンは女王になるね」
「お姉さまが健康でいらしたら、わたくしは悠々自適な第二王女でいられましたのに」
「そうなると恐らく血で血を洗う争いが起きるね」
「それは困りますわね」
第一王女は王が育つまで待とうと思えた王妃の容姿を余すところなく受け継ぎ、王の血はどこに消えたと揶揄されるほど王妃にそっくりだった。
病弱で表に出てこないのは王が王妃の面影を求めているからではないかと噂されている。
何のことはない、本当に病弱であり庭に出るだけで風邪をひくほど体が弱く本人の性格から引きこもっていることが幸せで公式の場ですら出て来ないだけのことだ。
王は王妃の面影を持つ第一王女を殊の外、大事にしているだけだ。
ヴィヴィアンが産まれるまでは第一王女を次期後継者に指名しており公務や政は家臣に任せるというところまで根回しをしていた。
「わたくしの顔はお母様よりもお父様の面立ちを引き継いでいますものね」
「身内の贔屓目で見ても美人なのは間違いないけれど兄上の好みからは外れているね」
「それでも病弱なお姉さまに無理をさせるよりも丈夫な妹に継がせてご自分はお姉さまと隠居生活を楽しむおつもりでしょうね」
ごく一般的に産まれたヴィヴィアンは生後六か月で王により次期後継者として指名された。
帝王学を学ぶ王族であっても読み書きのできないうちは絵本など一般的な児童書を読み聞かせされるが、王による英才教育のため多種多様な言語を聞かされて育った。
今では十か国語を流暢に使い分ける外交官も顔負けの言語スキルを持っている。
「あら?」
「おぉ」
「お父様ったら新しい側室候補の方を見つけられたみたいね」
「たしか彼女は前々侯爵夫人だったな」
「今回のパーティは孫娘の付き添いだったかしら?」
「あの家も気の毒なことだな。馬車の事故で伴侶を亡くされたばかりか息子夫婦にまで先立たれたのだからな」
「今は孫息子が当主として領地を運営されているのでしたわね」
残された孫たちに良縁を望んでも夫人だけでは話が進まない。
そこで現王の側室にでも取り立ててもらえば王族の縁戚となり勝手に良縁が舞い込んでくる。
未亡人が付き添いを買って出たのは王に見染められることを期待してのことだろう。