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「お入りになって」
天幕の奥から二十代の兄妹が現れた。
招待されていれば、どんな身分でも参加可能な婚活パーティである。
だから他国の者でも招待状があれば文句を言われることなく参加できる。
「なっなっモンジョルド国の王族の方ではありませんか。一体どうやって」
「簡単なことですわ。招待状を送ったのです」
昨年の婚活パーティが終わったあと、すぐに手紙を送った。
来年の婚活パーティに参加して欲しいと。
「いやぁ王家の方の結婚相手として呼んでいただけるとは光栄ですよ」
「しかも相手は次期王で戴冠式が来年に決まっている方ではないですか!結婚となるとヴィヴィアン様はこの国を出るということになります。誰が次の王になるんです?」
「わたくし言ったはずですわよ。女王になりたくない、そう言いましたわ」
「それは・・・」
「わたくしは女王になどなりたくないのですよ。宰相、協力してくださいますわよね?」
「まぁヴィヴィアンを妻にできないのなら宣戦布告しても構わないさ。戦勝国として戦利品として持ち帰るだけだ。ヴィヴィアンにそんな肩身の狭い思いをさせたくないだろう」
同盟国ではないから、いつ攻め入られてもおかしくはなかった。
モンジョルド国は軍事国家で属国はいても同盟国がないことで有名だった。
「かねてより属国になれと書状は送っていたのだが、そのたびに断りの書状を貰っていてな。それでも攻め入らないのはヴィヴィアンがいたからだ。ヴィヴィアンが妻となるのなら妻の実家ということで属国ではなく初の同盟国としてもいいぞ?」
「どうなさいます?宰相」
「初めからこれを狙っておりましたね」
「何のことかしら?わたくしは国のためを思って嫁ぐのですよ。褒められこそすれ罵られる覚えはございませんわ」
幼いころに出会った彼に恋をして、今の今まで恋心に蓋をしてきた。
王の子の中で継承権を持てるのは自分だけだからということで我慢をしてきた。
その恋心を叔父だけは知っていた。
だから今回、彼らに手紙を出した。
自分たちを人質として娶ってくれるようにと。
「しかしヴィヴィアン様が嫁がれるとなれば次期王座に座る方がいなくなる。それは国として揺らぎますよ」
「そこで宰相に協力ですわ。今回、偶然にもお母さまにそっくりな令嬢がいて、その令嬢を使って権力を得ようとしている公爵がいて、亡き妻の面立ちの令嬢を手にしたい王がいる。これだけの思惑が揃っていれば簡単にいくと思いません?」
「わかりました。この宰相、何としても王に件の令嬢を嫁がせて、子どもを為していただきましょう。何、薬の一服でも盛れば問題ございません」
「ヴィヴィアン、大丈夫なのか?あの宰相は」
「少々、突っ走るきらいがありますが、概ね優秀ですわ」
宰相が連れて来た婚約者候補がようやくヴィヴィアンたちの元に来た。
もうすでにお役御免になっていることを知らずにヴィヴィアンたちを誉めそやした。




