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「昨年になかった顔ぶれとなると、あそこで令息たち相手に令嬢へのプレゼントを売り込んでいるモシュー商会の娘さんかな?」
「年齢的にも叔父様の結婚相手ですわね」
「別に平民になることを拒むわけではないが、仮にも王家の人間が多くの異性と関わりあう者と結婚しなければならないと思われるのは癪だね」
普段のプレゼントとして使われる髪飾りや香水に合わせて送ると効果的な花などを熱心に説明している。
また一人、また一人と買っていく令息が増えていく。
「あのバカ、あれほどおとなしくしていろと言ったのに」
「となると、わたくしの結婚相手はあそこで令嬢相手に令息の落とし方を伝授している方かしら?」
「ヴィヴィアンの結婚相手として年齢もぴったりだね」
「あら、手のひらに口づけをしたわ」
「可哀想に、令嬢は顔を真っ赤にしているよ」
「わたくしは恋多き方に嫁がなければならないほど傷物なのかしら?」
「あのバカ、あれほどおとなしくしていると言ったのに」
令嬢たちに甘い言葉をかけている男性はモシュー商会と肩を並べるほどの大手のル・クラー商会の息子だ。
彼にかかればどんなガラクタも令嬢たちの間で流行ると言われていた。
その片鱗を垣間見た気がした。
「あのー」
「まぁ仕方ないね。誓約書を書いているからね」
「えぇ王家の人間が約束を違えるわけには参りませんわ」
「あぁこんなところに紙吹雪が!おかしいなぁ」
さすがに自分が探してきた者が結婚に向かないということは理解した宰相は誓約書を細かく破った。
「今年も良縁には恵まれなかったようだね」
「本当に困りましたわね」
「この宰相が悪うございました。お願いでございますから今年こそ結婚をしてください」
「婚約をすっとばして結婚になるのかい?」
「はい、この際、できちゃった婚というものでも目を瞑ります。行き遅れて王城の片隅でひっそりと暮らされるよりは良いです」
毎年毎年、王の弟と妹が産まれているから一人でも早く王家を出てくれることを望んでいた。
財政は今のところ破綻する兆しはないが後宮を維持するお金が少ない方が民からの不満は少ない。
「そうか。まぁ宰相の心痛を取り除くのもやぶさかではないよ」
「そうですわね。ただ、それには宰相の協力が不可欠ではありますけれど」
何を協力させられるのか分からないまま宰相は頷くしかなかった。