(22)彼の復讐
おじいさまがいなくなると、私は、やることが無くなってしまった。
白井さんは、料理をして、庭を整えて、掃除と洗濯をして、おじいさまが居た頃と同じように暮らしていた。
でも私は、ほとんどの時間を部屋に籠もって過ごすようになった。
白井さんに会いたくなかった。
白井さんが優しい言葉を口にするとき、そこには怒りが潜んでいる気がした。
白井さんが私を大切にしてくれるとき、そこには恨みが込められているような気がした。
白井さんは、ぜんぶ知っているんじゃないか、と思った。
私の秘密を、ぜんぶ知っているんじゃないか、と思った。
――そう、秘密。
私が白井さんのためにした、ひどいことの全部。
明石という友達が戻ってこないよう、おじいさまの名前を使って、彼を消すように手を回したり。
山本さんが破滅するよう、白井さんが私の指を嘗めている姿の隠し撮り映像とかを送りつけて追い込んだり。
そういうことの、全部。
それを知ったら、白井さんは私を憎むだろう。
できるだけ証拠は消したつもりだけど、完全ではない。
もしかしたら……白井さんはすでに私の秘密を知っていて、その上で知らないふりをして私を騙しているんじゃないか、と思った。
恋人である白井さんと二人で暮らすなんて、私がずっと夢に見てきたことなのに……いまではその一挙手一投足が私を責め立てているかのように感じられて、怖かった。
私は、白井さんを避けるようになった。
食事の時間もずらして、顔を合わせないように気をつけながらお風呂に入って、まるで同じ屋敷の中で、別々に暮らしているかのように、私たちは暮らしていた。
白井さんは特に何も言わずに、私を自由にさせた。
おじいさまが死んだ二週間後、白井さんが私の部屋に来た。
「リツちゃん、入るよ」
白井さんはノックをして、そのまま扉を開けて中に入って来た。
ベッドの上に座っていた私は、俯いて、白井さんから視線を逸らした。
白井さんは、私の隣に来ると、言った。
「……リツちゃん、君は、僕のことが嫌いになったのかな?」
その言葉を聞くと、また私は苦しくなった。
私は小さく、四回と半分、首を横に振った。
「……そう。なら、いいんだ」
私は、白井さんが立ち去るのを待っていた。
待っていた。
待っていたのだけど、白井さんは私に触ってきた。
「リツちゃん」
私は、白井さんが何を考えているのかわからなかった。
白井さんが、なんで私に優しくしようとするのか、わからなかった。
白井さんが、私をどうしようとしているのかが、わからなかった。
怖くて怖くて、私は泣きそうになった。
「リツちゃん……愛してるよ」
白井さんがそう言って、今度は私の肌に、直接触れてきた。
そうして、白井さんは私とセックスをし始めた。
でも、私は白井さんに抱かれている間、ずっとただ怖くて、最初の時みたいに気持ちよかったり、幸せだったりは、少しもしなかった。
私はそれを、しばらく我慢していたけれど、なんだか唐突に、とてもとても悲しくなって、泣きながら白井さんを押しのけた。
「……リツちゃん?」
私は黙って泣きながら、布団をかぶって、白井さんから隠れた。
白井さんは、
「……ごめん」
と言って、部屋を出て行った。
私は、まだずっと怖くて、布団をかぶったまま、一晩中じっと怯えていた。
……これは白井さんの、私に対する復讐なんじゃないか、と思った。




