(20)私の朝
朝、白井さんの部屋。
私は目を覚ました。
「…………」
ベッドの上で、隣を見ると白井さんがいた。
白井さんが目を開けた。
「……おはよう」
白井さんはそう言って、私にキスをした。
私は顔を真っ赤にして固まった。
幸せだと思った。
「……もうこんな時間か。早く支度をしなくちゃね」
白井さんはそう言って、裸のまま布団の中から起き上がった。
私は布団をかぶったまま、ベッド脇に落ちていた下着と衣服に手を伸ばし、掴み寄せた。
そうして布団の中で、それらを身につけた。
なんとなく、恥ずかしかった。
それから布団を出て、自分のお腹のあたりの感触を確かめているうちに、白井さんはすっかり身なりを整えていた。
私は白井さんに、
「じゃあ、また後で」
と言ってから、白井さんの部屋を出た。
とても、幸せだと思った。
私は廊下に出て歩き出すと、唐突に足を止めた。
そして周囲を見回した。
次に耳をふさぎ、目を瞑り、じっとした。
まさか、と思った。
やがて私は顔を真っ青にして、震えながら目を見開いた。
きょろきょろと周囲を見回す。
怖かった。
背後で、ぎぃ、と屋敷のきしむ音がすると、私はびくっと震えて、廊下を駆け出した。
その日、私は体調が悪いから休むし食事もいらないと、白井さんに伝えた。
すると白井さんが私の手を握って、私のことをじっと見てきた。そして、
「大丈夫? とりあえず、落ち着くまでゆっくり休みな。なにかあったら言ってね」
と言った。
私は顔を真っ青にして、何も言わなかった。
怖かった。とても、とても怖かった。
白井さんはそのまま私の前を離れて、仕事に戻っていった。
私は一人になると、頭から布団をかぶって、口の中で繰り返し呟いた。
「聞こえない……聞こえない、聞こえない、聞こえない、聞こえない…………あの人の心の声が、聞こえない……ッ!」
私はシーツを噛んで、震えた。
さっき、白井さんは私に優しい言葉をかけてくれたはずだった。
でも心の声の聞こえない私は、白井さんの言葉に悪意が潜んでいるような気がして、怖かった。
怖くて、怖くて、しょうがなかった。




