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氷室の野望(仮)第壱巻 ~戦国突入編~  作者: 和音
外伝

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50/50

2 氷室誠人【現し世-キッチン夕凪】

外伝その2です。

今回はゲームにインする直前の誠人くん編です。


「よし、休憩にするか」

14時になり、オーナーシェフの春日(かすが)(いたる)(37)がそう言うと、スタッフ4人全員が「はい」と応じる。


誠人(まこと)は入口のドアに掲げられた『営業中』の札を『準備中』にひっくり返すために外へ出た。

「寒っ!」


今日は一段と晩冬の風が強く吹いていた。

ついこの間まで春先の温かい日差しが連日降り注いでいたが、この一週間で季節が逆戻り。

朝晩の冷え込みも再び強くなってきて、街路樹の枝も寒そうに風で震えていた。


誠人が勤める、ここ『キッチン-夕凪(ゆうなぎ)』は街中にポツンとある。

春日格と昼の誠人、夜に来る1人と合わせて3人のシェフと、ホールスタッフ数人の小さな洋食屋。

お店の開店時間は11時~23時までで、この街では割と遅くまで開けている飲食店だ。

地元紙や地方局で取り上げられたりと、地元の人には名の知れたお店で常連客も多い。


今日の賄いはオーナーシェフの格が作るクリームパスタだ。

出来上がると客席に座り早速みんな食べ始める。


パスタは皿の上で淡いクリーム色のソースがやわらかく光をまとっている。

フォークを差し入れると、とろりとしたソースが糸を引くようにパスタへ絡みつき、ゆっくりと持ち上がる。

その瞬間、ふわりと立ちのぼるのはバターとミルクが溶け合った甘くあたたかな香りだった。


ひと口運べばなめらかな舌触りがそっと広がり、濃厚でありながらどこか優しいコクが静かに、しかし確かに満ちていく。

噛むたびにソースの旨みがほどけ、心の奥までじんわりと染み渡るようだった。

ただの一皿ではなく、疲れた昼の終わりに差し出された小さなご褒美だった。


「うーん、相変わらず美味しい」

思わず呟いてしまう。


「はは。賄いでも手を抜くのは嫌でな」

笑いながら格が言う。

「バターは静かに溶かすこと。クリームはぐつぐつと煮立てない。

仕上げに火を止めてからチーズを加えて余熱でゆっくりと溶かせばここまで滑らかになる」

「いや、言うのは簡単なんですよ。これがなかなか……」

誠人が難しい顔をして言うと

「だからこうしてお金を取れるのさ。誰でも作れるなら商売にならん。

まあでも誠人なら出来るだろう」

食べながら笑いながら、格が言う。


そう。

言われている事はごくごくシンプル。

技術的にはたぶん難しくはない。一定のレベルまでなら、だ。


いざ自分が作ってみると、格が作る料理とは似て非なるモノだ。

火の加減。

塩の加減。

ほんの小さなところ。

それでもその小さなところの違いで、結果は変わってくる。

だからこそ、料理は楽しい。

そしてここ『キッチン-夕凪』で学ぶことが日々、たくさんある。



「そういえば今夜は出られないんだっけ?」

格が食べながら聞いてきた。

「あー、そうです。夜に姉のところに行く用事があって……」

「あのキレイなお姉さんか」

笑いながら格が言う。


そう。

今夜はどうしても行かないといけないのだ。

例のゲームが完成していよいよプレー出来る日だ。


「オーナー、シミュレーションゲーム好きでしたよね?」

「ん?」

「戦国時代とか三國志とか」

「ああ、すんごい好き。子供の頃からやってたな」

言いたい。

けど我慢我慢。

「何でだ?」

「姉がそっち関係で面白そうなのを作ったらしくて」


これぐらいならいいだろう。


「あれ、お姉さんプログラマーだっけ」

「いや、仕事は違います。大学で専攻してたみたいで、趣味で作ったらしいです」

笑いながら答える。

「そりゃすごいな」

格が目を見開いて驚く。

「今度俺もやらせてよ、御馳走するから」

続けて笑いながら言う。

「伝えておきます」

誠人は笑いながら応じる。


「あ。それなら今夜姉弟で軽くつまめるものを何か持っていっていいぞ」

「ありがとうございます」

ありがたく思いながら答えた。


「さ、ちょっと休憩したら夜の仕込みだ」

格は自ら食べ終えた食器を片付けながら、そう言うとキッチンへ向かって行った。



誠人も食べ終わると、同じように食器を片付ける。


――早く夜にならないかな。


自分はプログラム関係は無知だが、ゲームの仕様は度々聞いていた。

姉も俺も歴史オタなので、こだわりはハンパ無かった。

どこまで出来るのか分からないけど、「ゲームの世界にダイブする」のは間違いなく初体験だ。


さてと。


ワクワクが止まらないけど、まずは目の前の仕事。

やることやって終わったらすぐに行こう。

自らに言い聞かせながら、誠人は片付けた食器を持ってキッチンへ向かって行った。




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