30 現し世【続・徳姫との邂逅】
題名に注目してお読みください。
現実世界に戻った直後、二人はしばらく言葉を失っていた。
さっきまでいた不思議な世界の感触が、まだ体の奥に残っている気がしたからだ。
ふと時計を見ると、ログインしてから2時間しか経っていなかった。
体感と全く違った。
ゲームの中の時間と、現実世界の時間。
定量的な相関を持った時間の進み方じゃないのかも。
「……とりあえず、何か食べに行かない?」
口を開いたのは誠人だった。
「賛成。
なんかさ、現実の味を確かめたい感じ」
二人は意気投合し、自宅を出ると近くのレストランに入った。
木のドアを開けると、カランと鈴の音が鳴る。
店の中は落ち着いた雰囲気で、窓からは車の行き来が見えた。
席に座りメニューを眺めながら、ようやく少し笑顔が戻る。
「さっきの。夢みたいな感じがする」
真紀が小さく言う。
「同じ夢を二人で見るなんて、さすがにないでしょ」
誠人がそう言って笑った瞬間――
「失礼します。ご注文はお決まりですか?」
声をかけてきた店員の顔を見た瞬間、二人は同時に固まった。
「……え?」
その店員は、あの世界で出会った徳姫にそっくりだったのだ。
店員は少し首をかしげ、にこっと微笑む。
「どうかしましたか?」
彼女は思わず立ち上がった。
「あなた……私たちのこと、どこかで――」
店員は一瞬だけ、意味ありげな目をした。
そして小さく、誰にも聞こえない声で言った。
「ちゃんと戻れたんですね。よかった。」
二人の背筋に、ぞくっとしたものが走る。
「……どういうこと?」
「え?なに??」
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」
店員は微笑みながらそう言って去っていく。
「……徳姫に似てたよな」
誠人が小声で言った。
「うん……あの声も、あの目力も……」
私は思わず手を握りしめる。
心臓が少し早くなるのを感じた。
二人はそのまま何も注文せずレストランを出て、夜の街を歩きながら無言のまま思考を巡らせる。
「ねえ、誠人……もしかして。
あの世界って、やっぱりただのゲームじゃないかもしれない」
私は足を止めて夜空を見上げる。
空には星が瞬き、風が涼しく吹いていた。
「……え?」
誠人は首をかしげる。
「……『ちゃんと戻れたんですね』って」
誠人は黙って聞いている。
「あの戦場。戦いのリアルさ……すべてが"本物の命のやり取り"の感覚だった」
誠人は黙って頷いた。
その瞳にも、戦場で見た光景が焼き付いているようだった。
「……姉ちゃん」
誠人が少し低い声で言う。
「あそこには、一緒に行こう」
その言葉に私は自然と微笑んだ。
「うん……私も、同じ気持ちだよ」
街灯に照らされた二人の影が、ゆっくりと伸びる。
しかし、その背後ではどこか遠くで赤い光が瞬き、微かに声が届くような気がした――
私は思わず立ち止まり、視線を周囲に巡らせる。
「……誰かが、見てる?」
誠人も警戒するように周囲を見渡す。
しかし、そこにはただ夜の静けさが広がるだけだった。
二人はそのまま歩き、町の外れにある小さな公園のベンチに腰を下ろした。
夜風が二人の頬を撫で、先程の戦場の熱気とは違った穏やかな空気が流れる。
「……でも、あの世界。絶対にもう一度行かないと」
誠人がつぶやく。
「うん……この謎を解かなきゃ」
私は拳を握りしめて決意を新たにした。
その時、遠くの空にふっと光が走った。
それはまるで、次の戦いの呼び声のように見えた――
<1567年8月10日時点>
―歴史乖離率:4.1%
―安定化モジュール:通常出力
―現実世界アンカー不安定率:不明(無効化処理済)
―管理者権限保有者:氷室真紀
織田信長【真紀】(33)…統86 武63 知75 政71 魅80
織田信広【誠人】(35)…統35 武66 知71 政64 魅76
柴田勝家(41)…統89 武88 知59 政69 魅81
丹羽長秀(32)…統76 武71 知80 政75 魅72
木下秀吉(30)…統69 武58 知77 政72 魅84
竹中重治(23)…統81 武35 知92 政88 魅82
林秀貞 (54)…統52 武44 知68 政72 魅57
前田利家(28)…統75 武83 知62 政41 魅70
足利義昭【恭祐】(30)…統91 武49 知93 政70 魅79
明智光秀(39)…統75 武77 知80 政71 魅76




