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氷室の野望(仮)  作者: 和音


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12/16

12 続きからはじめる(1567年4月15日 徳川家)


1567年4月15日 徳川家――



築山御前の手は、思ったよりも温かかった。


春の三河。

城下へ向かう一行。


先頭に家康。

少し後ろに本多忠勝と榊原康政。

その間に私と築山御前。

そして本多正信(誠人(まこと))。


豪華すぎる布陣である。


ただ――

右上の表示。


―歴史乖離率:1.8%

―安定化モジュール:出力上昇中


嫌な表示だ。



城下は多くの人が居る。

春市で賑わう通り。

野菜、干物、布。

子供が走り回り、犬が吠える。


リアルすぎる。

誠人が小声で言う。

「姉ちゃん、匂いも完全再現なんだけど」


「当たり前です」

ドヤ顔7歳。



だが――

空気が一瞬だけ揺らいだ。


視界の端に赤い細い線。ノイズ。


―【自動補正イベント発生】


は?


次の瞬間。

悲鳴。


「刃物だ!!」


人混みの中から、男が飛び出した。

目が血走っている。服装は農民。

だが動きが妙に鋭い。


頭上に△が。目力(めぢから)クリック。

―氏名:農民A

―所属:浄土真宗過激派

―統率:32

―武力:61

―知力:48

―政治:0

―魅力:12


げ。モブ(生成)キャラだ。

しかも武力61。

農民にしては高すぎる。


一直線に向かう先。

そこには――家康。


待て。

史実でこのタイミングで家康暗殺未遂なんて無い。

私が知らないだけ?

それともこれが「補正」?

歴史を戻すための強制イベント?


忠勝が動く。

速い。


だが――


「殿っ!」

刃が振り下ろされる。


私は反射的に叫んだ。

「みぎ!!」


すると家康が右に半歩ずれた。

刃は肩を掠めるだけで済んだ。


忠勝の槍が男の喉元に突きつけられる。

血。

リアルすぎて唖然。


沈黙。

周囲が凍る。


ウィンドウ表示が出た。

―家康 軽傷

―徳川家威信:69 → 62

―民衆不満度:55 → 68


上がった。

悪い方向に。


そして、

―歴史乖離率:1.8% → 3.9%

―安定化モジュール:強制介入完了


強制介入。

やっぱりだ。


私は震える手を握り締めた。


これ。

私が一向一揆の前兆を潰したから?

爆発するはずだった不満が、別の形で噴き出した?

因果の帳尻合わせ。


築山御前が私を抱き寄せる。

「大丈夫?」


違う。

大丈夫じゃないのは世界のほうだ。


家康が血を押さえながら言う。

「正信」


誠人がビクッとする。

「は、はっ」

「先ほどの声。お亀に言わせたな?」


誠人が私を見る。

助けろの目。

私はすっと前に出る。

「わたくしが勝手に叫びました」


家康の目が細くなる。

ウィンドウがまた出た。

―家康 信頼度 +2

―警戒度 +4


くっ。

やはり(さと)い。


その瞬間、視界が(ゆが)んだ。

世界が一瞬スローモーションになる。


赤い文字。

―【歴史収束力 増大】

―長期乖離予測:補正対象


補正対象?

誰が?

私?それとも――


「姉ちゃん!」

誠人の声が妙に遠い。


正信のステータスが点滅している。

―知力:60 → 63

―政治:44 → 50


また上がった。しかも急上昇。


AIが調整している。

歴史的に「本多正信は知将」だから、足りない分を補填している。

世界が正信を“歴史通りの正信”に寄せ始めている。


家康が静かに言う。

「一向宗は根が深い」


それはそうだ。

でも、それを強めたのは私だ。


私は悟った。

歴史は一本の線じゃない。

巨大なゴムだ。

引っ張れば引っ張るほど、どこかが反発する。



その時――私の視界にだけ、新しいコマンドが出現した。

―【安定化モジュールへ干渉する】


え。

私こんなの実装してない。

誠人は見えていないようだ。


そして選択肢。

―1. 介入する

―2. 観察する


これに触れたら――でも触れなければ、世界は勝手に収束する。


「品質保証、なめるなよ」

目力クリック。

―1. 介入する


その瞬間、世界が暗転した。

UIだけが浮いて英語ログが流れる。


―stabilizer authority conflict

―(安定化権限の衝突)

―primary developer override detected

―(主要開発者による上書き動作が検出されました)

―permission check...

―(権限確認中…)

―permission level: OWNER

―(権限レベル:所有者)

 ※()内は訳


え。OWNER?

私?

まぁ当然だけど。


そして、

―override accepted.(上書きが承認されました)


光が戻る。



周りを見渡すと、時間が止まっている。

家康も忠勝も民もみんな静止。


「……姉ちゃん?」

どうやら、開発者権限が私と誠人にだけ作用したらしい。


目の前に赤い糸のような線が無数に見える。

家康から信長へ。

信長から光秀へ。

光秀から本能寺へ。

家康から関ヶ原へ。

これは……因果の可視化。


そして、築山御前から――"1579年 処断"へ伸びる、太い線。


これが歴史の強制力。

私は息を止める。


「これ、切れるのかな」

誠人が言う。

「切ったらどうなる?」


私は答えない。


なぜなら、

その線の先にもう一つの表示が出ているから。

―【切断時 想定乖離率:47%】


47%。

さっきまで3.9%だったのに。

いきなり跳ねた。


そしてまた出た。

―【47%以上:帰還保証なし】


…………は?


帰還保証なし?

現実に?そんな訳ないか。

歴史に沿った世界観にかな?


風が吹く。止まっているはずなのに。

赤い糸が揺れる。


ここで切れば、築山御前は助かる可能性が高い。

でも……その先の天下は?

家康は?

信長は?

秀吉は?


誠人が静かに言う。

「姉ちゃん……?」


私は目を閉じた。

楽しい戦国ごっこだったはずだ。

でも今は違う。これは――


私は目を開く。

「……まだ切らない」


赤い糸から手を離す。

その瞬間、時間が動き出した。

喧騒と血の匂い、家康の呼吸。


―歴史乖離率:3.9%

―安定化モジュール:通常出力


私は静かに息を吐いた。

今わかった。

これはただの『歴史体験ゲーム』じゃない。

これは――()()()()()()()()()()()()()()()()だ。


「姉ちゃん」

「なに」

「これ、天下取るより面白いかもな」

誠人が笑う。


私はにやりと笑った。

7歳の顔で。


「当然でしょ」

三河の春風が吹く。


歴史乖離率:3.9%。


まだ、序章にすぎない。





<1567年4月15日時点>

―歴史乖離率:3.9%

―安定化モジュール:通常出力


亀 姫【真紀】( 7)…統12  武 3  知69  政26  魅51

本多正信【誠人】(29)…統38  武22  知63↑ 政50↑ 魅65

徳川家康(24)…統70  武72  知69  政70  魅82

築山御前(28)…統14  武 5  知46  政19  魅83

本多忠勝(19)…統69  武85  知57  政49  魅75

榊原康政(19)…統71  武79  知65  政57  魅70

空  誓(58)…統21  武 8  知74  政63  魅88

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