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氷室の野望(仮)第壱巻 ~戦国突入編~  作者: 和音
本編

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13/51

13 現し世【現世の改変】


「「ふぅ……」」


ログアウトして現実世界に戻った二人は同時に大きく息を吐き、ヘッドセットを外した。

しばし椅子に座り込む。


見上げるといつもの見慣れたLEDシーリングライト。

壁に貼ったカレンダーと、机の上の未開封のエナドリ。


――戻ってきた。


「姉ちゃん、生きてる?」

「生きてる。そっちは?」

「たぶん生きてる」


「……姉ちゃん」

「……ん」


「天才だわ」

「知ってる」

即答。


時計を見ると、二人でログインしてたったの1時間しか経っていなかった。

それでも、二人とも疲労困憊である。

感動は、強すぎると物凄く疲れる事が、今日分かった。


ゆっくり上体を起こす。

全身にわずかな倦怠感。

VR酔いに似ているが、それよりももっと重い。


「……なんか、既に三河の空気が恋しい」

「やめなさい。あっちは湿度高すぎ」


真紀は椅子から降り、スマホを手に取る。


「姉ちゃん、あれさ」

 誠人がゆっくり口を開く。

「痛かったよな」


 真紀は一瞬だけ視線を逸らした。

「……うん」


切られてはいないが、斬撃の衝撃。

土の匂い。

血の温度。


あれはゲームの触覚再現ではない。


誠人が腕をさする。

「夢じゃないよな?」

「確認する?」


真紀はPCへ向き合う。


ログを開く。


―USER SESSION CLOSED

―(ユーザーセッションが終了しました)

―WARNING: CAUSAL DEVIATION 2.31%

―(警告:因果乖離率 2.31%)

―STABILIZATION PROTOCOL ACTIVE

―(ズレを修正・収束させるための自動補正処理が進行中)


「2.31……」

「それって高いの?」

「んー……低くはないんじゃないかな。たった1時間程度のプレーだし」


誠人が顔をしかめる。

「俺のせい?」


「違う。大きな因子を持ってる築山御前に接触したからだと思う」

「初回でラスボス母ちゃんいじるなよ……」

「いじったのはあんた」

「姉ちゃんが煽った」


数秒、沈黙。

真紀はログをスクロールする。


そして、止まった。


「……は?」

「なに?」


モニターに表示された一文。

―REAL WORLD ANCHOR INSTABILITY: 0.7%

―(現実世界アンカー不安定率)


「現実世界の……アンカー不安定?」

「現実側の固定値が揺れてるってこと?」

「理論上、ありえない」


誠人のスマホが震えた。

通知。

ニュースアプリだ。


「……え?」

「何」


誠人が画面を見せる。

【三河一向一揆に新説。従来より2年遅かった可能性】


「……は?」


スマホを奪い取って記事を読む。

『史料の再検証により、三河期の政治判断に再評価が――』


「そんな論文、昨日までなかった」

「偶然じゃない?」

「タイミングが良すぎる」


背筋に、冷たいものが走る。

まさか。


「……乖離が、現実側に反映?」

「それって」

「歴史が再計算されてる可能性」


誠人が笑う。

ひきつった乾いた笑いだ。

「いやいやいや、SFだろ」

「私たちは今まさにそれをやった」


沈黙。


真紀は深く息を吐く。

「仮説」

「うん」


「『氷室の野望(仮)』は、単なるゲームじゃない」

「……それで?」

「量子演算型歴史再構築エンジン。観測と干渉が双方向」

「つまり?」

「私たちが向こうを変えると、こちらも微修正される可能性」


誠人が頭を抱える。

「はは……世界規模のバタフライエフェクトやめて」

「まだ0.7%。誤差レベル」

「誤差でニュース変わるの怖い」


モニターを見つめる。

アンカー値が、ゆっくり0.8に上がった。

「……上がってる」

「やめよう」

「やめられない」

即答だった。


「ねえ誠人」

真紀は静かに言う。


「もし向こうで信康が死ななかったら、どうなると思う?」

「徳川の未来変わる」

「本能寺も変わる可能性ある」

「織田家が残る?」

「あるいはもっと早く滅ぶ」


誠人は姉をじっと見る。

「姉ちゃんはさ」

「なに」

「歴史を守りたいの? それとも試したいの?」


数秒の沈黙ののち、私は笑って言った。

「両方」


「最悪だよ」

「最高でしょ?」


PC画面に新しい通知が出る。


―NEXT DIVE AVAILABLE

―(次の接続が可能です)

―ANCHOR STABILITY REQUIRED: 99.0%

―(帰還可能ライン:99%)


誠人が言う。

「生還確率が99%って……今いくつ?」

「99.3%」


誠人が目を見開く。

「じゃあ今なら安全?」

「理論上は」

「理論上って言うな」


キーボードに指を置く。

そしてふと、止まる。


「誠人」

「うん」

「もし私が戻れなくなったら」

「行かせない」

即答だった。


「一人で行くな。俺も行く」


真紀は少しだけ目を細める。

「……本多正信」

「やめろ、その名前で呼ぶな」

「優秀な参謀は必要でしょ?」

「姉ちゃんの暴走止める役だろ」

「それも含む」


すると、アンカー値が99.2に下がる。


「下がってる!」

「感情揺らぐと連動してる?」


二人は顔を見合わせる。

「メンタル依存型アンカーとか最悪」

「姉ちゃん、落ち着け」

「落ち着いてる」

「いや……目が輝いてる」


真紀は深呼吸する。

数値が99.3に戻る。


「……仮説確定。私たちの精神状態が帰還確率に影響」

「ゲームじゃないな、これ」

「うん」


真紀はゆっくりと言う。

「これ、戦争だ」

「誰と」

「歴史と」


誠人は天井を見上げる。

「三河より現代の方が怖いんだけど」


PC画面が一瞬ノイズを走らせる。

ログが自動更新される。


―CAUSAL CORRECTION SCHEDULED

―(因果補正処理を実行予定)


「……補正が来る」

「どこに?」

「向こうか、こっちか」


二人は同時に黙った。

外では救急車のサイレンが鳴っている。


ただの偶然か。

それとも。


真紀は静かに呟いた。

「次、行く?」


誠人は数秒考え、ため息をつく。

「今日はダメ。あと、条件付き」

「なに?」

「次は"守る側"で行こう」


思わず微笑む。

「管理者モード?」

「暴走禁止モード」


アンカー値 99.3%。

まだ、戻れる――今は。





<1567年4月15日時点>

―歴史乖離率:3.9%

―安定化モジュール:通常出力

―現実世界アンカー値:99.3%


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