94話 BLTっぽい何か
【 12歳 晩夏 】
雑談をしてると全員揃ったので食事を始めた。
飲み物は大きなポットに買って来たらしいので各自でコップに注ぐ。
この巨大な骨付き肉はどうするのかと思って見てたが、初めて扱う料理だろうとメイドたちは慣れたもので、解体作業のように切り分ける者と断面の焼き直しや骨膜を焼き切る者で作業分担しだした。もちろん、作業を開始する前に俺がテーブルを補強したぞ。
普段からエルフの森で大きな肉ばかりを調理している為、ウチのメイドはそれぞれが大型の加熱用フォークと極先端だけ高温になる過熱ナイフを持っているので手間取ったりなどしない。何なら骨切り用に鋸すら個人で持ってるもの。新人メイドたちも切り分けた肉の火の通りを確認し、加熱した高温の石板で焼き目を付けていく程だ。全部角切りにして茹でてた頃が懐かしいわ。
そしてそれを興味深そうに眺めているのは男爵家の三女、オーレイリア嬢である。
案内するとの事で付いてきてしまっていた。領地の案内自体は明日で良いって言ったんだけど、妹と仲良くなりそのまま同行。合流してからはティーエやヴァレニーとも仲良くなり楽しそうに過ごしている。ちなみに彼女の下の二人はこれからお休みらしく、明日から同行してくれるそうだ。
「この長いのはどうやって食べるんだろ?」
鹿肉だけで十分そうだが、一応買ってきた長いジャーキを見せる。
「そのまま齧れば? 悪くなかったよ? なんか肉の筋が横向きで食べやすいの」
「これ一本食べたらおなか一杯になるんじゃない? 切って食べる物なのかな」
「若様、それは行商人向けの物なので少しずつ切って食べる物ですぞ」
「あぁやっぱりそう言う系統の物か……」
携行食だったのか…… ドワーフ趣味じゃなく行商人用なのね。酒のつまみかと思ったわ。
「パンもありますし挟んでみますか?」
明日以降でも良いが、折角ルンが提案してくれたので 2本とも渡してお願いする。
その後ルンから渡されたものを食べてみると、パンとパンの間に肉とサクっとした何かが挟まっていた。
「これは??」
「ご飯を揚げた物のようです」
うっすら塩味がして美味しくはあるが、アラレと言うか、煎餅と言うか不思議な食感である。こっちではご飯がレタス代わりなのか?
生サラダを食べないからとは言え、パンにご飯挟むなよと……
この地の調理の発展は魔法の応用や、魔力量の短時間ゴリ押しとは全く違って面白い。調理器具と魔道具を組み合わせなのだろうが、コンセントが有るわけでも無いのに調理用魔道具による自動化と連続稼働による力業に進んだようだ。
メイド隊も準備を終え一緒に食事をしている。好みもバラバラで、テーブルでは他にも厚切りにした鹿肉をフライドオニオンっぽい何かでコーティングし、肉汁を保持させた上でパンで挟むなどみんなが色々と試していた。こう言うのは大体新人たちで、毎回賑やかな食事になる。
そして今の問題は誰かが俺の前に置いた奇妙なハンバー…… サンドイッチだ。
いや、これはサンドイッチの分類なのだろうか? 下は揚げたご飯で、上を焼きナスで挟むと言う変わり種である。パンはどこ行ったんだよっ しかも具は厚めの鹿肉とラプトルのベーコン。米と肉と野菜だし、味の方向性自体は間違ってはいない。つーか、誰の案だよっっ
……良いだろう、戴こうじゃねーかっ
噛み切りやすく切れ目が入っており、味も想像以上には美味しかった。
だがまぁ、次は丼にでもして貰おうかな。色々と零れ過ぎっっ
軽く済ませるはずの夕食は予定より賑やかに進んでいった。屋内とは言えこちらの世界では夜間に余り活動しないのに、暗くなるまで営業している事自体も驚きだ。それに特産物などで新たな味に出会うかと思えば、技術による食感の違いに出会うなど何とも興味深い展開である。
食事が一段落したタイミングでルンがデザートをみんなに配った。
「こちらが最近のおすすめですわっ」
オーレイリア嬢が用意してくれたそうなのだが、目の前に置かれたのは豆腐に見える何かだった!
マジか~ 転生者居ない? どうやったんだよ。
「これは何でしょうか?」
「豆の汁を固めた物らしいですわ」
「へ~ なるほどぉ」
本当に豆腐なのか?! 何で固めたんだろ? 苦汁があるの?
表面が艶々じゃ無いのは濾し方かなんかだと思うが、見た目はほぼ冷奴。
スプーンで掬い、食べてみるとかなりおいしいっ
控え目の甘さと素材の味がする。しかも知らない豆のようだ。ナッツっぽいかな。
この世界、果物以外のデザートは珍しい。エルフの森でも余り研究されていないしな。と言うのも、穀物が少ない影響で普段の食事すら肉の比率が多く、少量ある分も主食に使ってしまうからだ。エルフ領なんてパンすら無かったのだからケーキのような物に回す余裕も、試す事すらも無いのさ。
俺たちが麦と米を持ち込んだ事で間食が増えたには増えたんだが、エルフ達が好んだのは何故か煎餅やクラッカーのような固い物だったのよ。文化的な違いなんだろうな。
師匠なんて薄焼き煎餅を食べる為に何故か轆轤で壺型にしてたもの。
当然だがエルフ領ではあまり収穫量の多くない貴重な豆類なんかのデザートは見た事無いし、豆乳を固める豆腐のようなものなんて似たものすら見た事が無い。と言うか、俺だって豆を絞った事なんて無い。
「おぉぉ 凄い凄い凄い~」
一口でヴァレニーが凄いしか言わない装置に変わり、ロァヴェルナさんも口には出さないが気に入った様子だ。味もだが柔らかいデザート自体がかなり稀だからな。追加購入にルンが新人を連れて席を立つなどかなり好評で、見ていたオーレイリア嬢はくすくすと笑っていた。
エルフにも負けてないなっ
中々やるねぇ、人間も。
◆
昨晩は食事の後、男爵邸に泊まった。建築様式の異なる建物は色々と興味深いな。窓が完全に無く、灯かりを含め、結構な数の魔道具を採用している様子だった。
男爵家の皆さんと朝食を取り、オーレイリア嬢たちと今日の予定を決める。朝は外周の商店街は混むため、外の案内の前に領主邸の中央にある屋上を案内をしてくれる事となった。
二階建ての領主邸は中央から上に上がれ、屋根の上が屋上として機能しているそうだ。朝は何も無いが洗濯したものを干すのもこのフロアになるらしい。ウチの中庭と同じ目的だな。鳥対策なのだろうが、屋根の上には柱が何本も立っている。
「思ったより随分と広いんですね」
「そうね。落ちないよう途中に柵はあるけど結構端まで行けるのよ?」
「へ~」
「オーレイリア姉さまっ こちらの眺めが素晴らしいですわ」
アリーが燥ぐ。ウチの中庭は建物で囲まれてるし遠くなんて見えないものね。
「あっちがドワーフ領か~ 結構道が荒れてそうだなぁ」
「通行量が少ないですし、最近は鳥に襲われたりするので態と森の中を移動するようですわ」
「あ~ それもあるのですね…… 確かに河原のような所のほうが鳥に狙われるのか」
森の方が安全なのかよ。整備しない理由もあったのか~ エルフの森だと食材かどうかくらいしか考えてなかったわ。
「こちらに来てくださいな。こちらから水路が見えますわ」
「「わぁ~」」
「こんな形になってるんですね~」
我々が来た時には見えなかったが、川の水の半分ほどを水道橋を使い水堀の先へ流し込んでいた。そしてその水が男爵邸をぐるりと回った後に王都へ向かう川へ戻されているようだ。聞くのと見るのでは違うな。半分だけを使ってるから魚が遡上できないなんて事も起きない。すげーや。
流れない水は色々と不具合を起こすので工夫がされてるようだ。こう言う生きてる工夫は良いよね。来ていないエルフ二人やメイドの為に記憶を保存した。
B L T です。
トマトはナス科で代用、レタスは歯応えのみの類似性って雑っぷり。
ベーコンと言ってますがササミを伸ばした物を更に干してますし脂身なんてありません。今回はラプトルジャーキーを鹿肉の脂で戻した感じです。
エルフ二人は人間の貴族とは係わりたくないのでメイドと一緒に行動してます。もちろん領主邸内で宿泊しています。フェンさんだけは恐縮し辞退して外周に泊まりました。
「お、お父さん?!」
ティーエはアリーと一緒に良い部屋に泊まっています。




