69話 帰省
【 11歳 晩秋 】
中央の広場からカリンバの音が聞こえてきた。そろそろ始めるようだ。
カリンバと言ってもピアノサイズで、昨年の竹製と違い今年は金属製だ。記憶には無いが音は近いはずである。まだ準備中なのか楽器の確認をしているようだが、俺たちもそろそろ移動して場所の確保をしよう。
広場に行くとまだ人は少ないものの既に混沌状態で、十字路の角にいる演奏家たちを囲うように扇状に席と即席の建築物が増えていっている。今年は新しい楽器が増えているので皆の期待も大きいらしい。
今年は早めに到着したので比較的良い場所を確保できたと思う。朝食を食べたばかりだが、メイドたちに飲み物や食べ物の確保をお願いし、俺は早速作られている席の上に 2階フロアの追加と椅子とテーブルの配置をしていった。
去年解体時に聞いたのだが、椅子とテーブルは普通に木材を使うそうだ。全部石製だと重いからな。中空にしてまで石を採用した俺のやり方を驚かれる程だった。
エルフの里は森の文化で、しかもマナが足りないなんて事も無いので木材が活用できる。その上、子爵領とは逆で森が土で覆われてる影響で石材が結構少ない。師匠が東の山から石や宝石を抜いて来るのは、まぢチート分類なんだわ。あの人、一人で鉱山みたいなものだからな。あれが普通なのかと思ったら加工は別として精製に関しては頭一つ以上抜けた存在らしい……
正直、知り合いが長老ばかりなんで常識が判らんのだ。
しゃーないじゃん。子爵領では木材を使う発想が出ないんだからさぁ
なので今年は俺も木製で揃えさせて貰う。別に石製に拘りがある訳じゃないし。
作業をしているとヌィグライン師匠が通りかかった。昨年までは参加して無かったようだが、今年は曲を聞いて笛のイメージを掴みたいとの事なので、どうせならと一緒に視聴する事にした。師匠に骨組みの補強を手伝ってもらい準備は万全。ついでに暖房の魔道具も用意した。
「すご~い」
妹も大喜び。演奏を待ってる僅かな時間で 2階の奥に席ができ、屋根ができ、3階席が増えていった。
「何か色々と凄いね。去年もこんな感じだったの?」
と、兄。
「去年は知らなかったので少し遅れて参加したのですけど、こんな感じでしたね」
「「ふ~ん」」
演奏家たちの曲の披露が始まった。
和太鼓モドキが居ないだけで随分と落ち着いた雰囲気で、去年とも少し違う落ち着いた演奏が続く。どうも金属製の楽器が増えた影響が他の楽器にも影響したようで、ギターなんかが大型化していた。
「笛はもう少し口径が太い方が好みかなぁ」
師匠が独り言ちる。
「材質の違いや肉厚も関係するでしょうから、この前の試作品を渡してみても良いんじゃないですか?」
「あれはまだまだだね。もう少し改良して、組み替えれる種類を増やしたいかな」
「まぁ、次は来年だし時間はありますものね」
「そうだねぇ」
兄と妹も真剣に聞いている。子爵領じゃ音楽を聞く機会なんて無いからなぁ
◆
子爵領へ帰る事になったのだが、兄は残って狩猟などを学びたいらしい。メイド隊の装備と俺のマスクやサングラス、ソックスなんかを貸出した。警備隊が持ってる装備は全てエルフ用の魔導器なので、兄様だとマナ不足で使えないからな。
実はグラリエントさんからロァヴェルナさんへ兄に刻印術を施すよう依頼があったらしい。ただ、念話はほぼ使わないし、マナ共有しても距離の関係で子爵領に戻れば使えない。マナ収集は使えるけどマナが切れるほど魔法の種類を知らないって事で、結局俺から魔道具を借用する方が有効って話になった。
それに……
お兄ぃ、普通に強いもの。
実際、人間には魔道具が合ってるんだよ。普段マナを充填しておいて、必要な時だけ使うのが良いんだ。遠距離魔法が無いこの世界は生命属性しかほぼ使わないし、生命属性は体内で使う関係上、無駄遣いが起きにくい。マナ消費も少ないし、被害なんて当たらなければどうと言う事は無いんだよ。
とは言え、念のため 2本爪の槍の魔道具を新規で作った。2本爪とは言ったが子爵領にある漁師風のそれでは無く、日本風の刃のある槍に十手の鉤に似せた爪を付けた長柄武器でマナを流せば只管に頑丈、頑強になる仕様だ。エルフ領では大型生物相手にするので堅牢さこそを重視してみたのだ。
「こんなに鉄や魔石を使ってもらって良いのかい?」
「構いませんよ。兄様が怪我する方が嫌ですし、最近魔導器の取引が多すぎて使わないと資源が増えすぎてるんですよ」
「贅沢な悩みだねぇ」
「そうなんですけどね……」
「それなら有り難く受け取らせて貰うよ」
「マナが切れてる時に受けてしまうと簡単に折れるので注意してくださいね」
「その辺は平気だよ。似た武器が家にあったから大丈夫」
翌日の朝、子爵領に向け出発した。
来てくれると思ってたルティ姉はこちらに残るらしい。
「祭りは体力が要るんだよ…… と言うか、2、3日寝たいっ!」
◆
子爵領へ帰る事にしたのだが、カルニナフさん達も残るらしい。今年一年、お互いが作った物の情報交換もあるが、今少し食べ比べをしたいそうだ。子爵領に行ってる間にエルフの里でも結構な変化が起きていて気になるらしく、祭りで披露された他の村の料理を食べて感想を言い合う会合をするとの事。
まぁ、結局は普段の延長なんだろうな……
一部の商人と共に子爵領へ向かう。彼らの護衛も居るのでそれほど不安も無い。と言っても今ならメイド達だけでも相当頼りになるしな。
国境付近の門に着いた時、妹から服の裾を引かれた。これがあったか……
商人たちと別れ、門の細工を修正。より華やかに造形していく。
横目で表情を確認…… 満足していただけたようだ。
子爵領に入るとそこからは速い。整備された川舟はやはり便利である。
今回は荷物が多い為、メイド隊にも領主邸に向かって貰う事にした。
「いらっしゃい。ロァヴェルナさん」
「ありがとう、フィルトルァ。何日かお世話になるわ」
「歓迎するわ。こちらこそ、色々手配して貰って助かったもの」
子爵領の領民に『山越え』の肉を振る舞うつもりでは居たのだが、祭りとして行う事にしたらしい。てっきり各集合住宅にお肉を送るだけかと思ったが、人を集めてお祝いするそうだ。
エルフ程の戦力があるなら良いけど、夜に明かりを付けて人を集めるなんて良いのかねぇ 特に子供まで集まると収拾がつかない気がするんだけど。
祭りの手配をしてくれたロァヴェルナさんの話だと明日の朝から領民に移動してもらい、お昼から祭りにするらしい。そして調理済みの『山越え』を振る舞い、暗くなったら子供だけは養護院に集め、大人はそのまま宴会、翌日の朝に解散だそうだ。
何とその為の建物も準備し持ってきたらしい。
流石エルフ。豪快と言うか何と言うか……
「それと、あなたの息子が仕留めたトンボのお肉はほとんどエルフの里で貰ったから、代わりにはならないかもだけど長老たちからお酒を預かって来たわ」
「そうなの? ありがたく受け取らせて貰うわ」
「期待して良いわよ。かなり良いのを出したみたいよ?」
「いいのかしら?」
「ルァニエスに渡せる物が無いから、受け取ってあなたからいっぱい褒めてあげてくれれば送った甲斐がでるわね」
その晩は領主邸のみんなにトンボ料理を振る舞った。流石に領民全員には分ける量は無いからな。両親はトンボを見た事があるらしいのだが、どうにも話が噛み合わない。妹が凄かったのー、と両手で説明するも伝わらず。ここだと殻を組み合わせて作った剥製は出せないので、明日実物を見せると約束した。
トンボ肉は実に好評だった。やっぱルティ姉、料理上手だわ~
トンボはもちろん虫なので脂身が少ない。トンボのしっぽ肉の湯引きとか、多分両親も想像してなかった料理が並んだ。
翌朝、子爵領の中央に当たる養護院に向かう。既に各集落には連絡してあるらしく、一部の警備担当や動けない人たち以外は全員こちらへ向かっているらしい。
「さて、じゃーやっちゃいますかぁ」
そう言うとロァヴェルナさんは収納魔法より、収穫の終えた畑の上に建物を置いた。形状はL字型で 3階建て。結構でかい。
これでどうするのかと思っていたら…… 追加で 3個出した。
おいおい。ほんっっと力業だなっ!
4つの建物で囲い、中庭を作ってしまった。豪快過ぎんだろっ
「じゃ、ルセアとレイは中央の地面を適当に固めてテーブルの用意をお願い。他の 2人は料理並べて温めを開始してね~ ルァニエスは建物の外にトンボ置いておいてくれる?」
「領民が驚いて近づけなくなるんじゃないですか?」
「……そうなのかな? 翅を支える柱を見易く少し太くしておいたら?」
「それなら飾りってわかるかな? やってみますね」
「お願いね。あとは…… 長老衆からの贈り物はこの辺で良いかな?」
壁際に大量の樽を並べ始める。
良くマナが持つな…… 俺はトンボを取り出しに外へ向かった。
建物の外に収納魔法に入れていたトンボを取り出し設置する。畑で土が柔らかいので土魔法で補強、翅が撓まないよう支柱を太くしていった。後ろできゃーきゃーと悲鳴が上がるが、聞き流し取り合えず作業を進める事に。
悲鳴の出どころは養護院の子供たち。まー、判る!
胴体も長いが翅はそれ以上の長さ、とんでもなくデカい!
それに顔が凶悪だからなっ!
口周りが特に恐ろしく、明らかに俺を丸のみできるサイズだしな。
……実はその辺の肉が旨かったりするんだけどね。
「! あなた、ホントにこれを倒したの?!」
母様が近づいてきた。
「地面に落ちるよう誘導しただけですけどね。地面にぶつかって気絶したトンボを仕留めたのはエルフの方たちですよ?」
母様が後ろから抱きしめてくれる。
「余り危険な事は控えて欲しいのだけど…… 怪我はしなかった?」
「大丈夫です。腰が少し筋肉痛になったくらいです」
11歳で腰痛を味わうとは思って無かったわ。
「それなら良いけど。 ……このトンボ、私が知ってるのと大きさが全然違うのね。種類が別なのかしら?」
「普通はどの位なんですか?」
「 7 から 10mってとこかしらね」
十分でけーわ。
0話を書き直しました。元々エピローグの内容だったので戻します。
お兄さんは身体強化とその応用、回復、光学迷彩を使える時点で、人類でも一握り側です。既に赤外線で見たり、可聴域外の音を聞いたりできます。
「この前教わってから、いっぱい練習しましたっ!」




