68話 エルフ ★ ロック!
【 11歳 晩秋 】
遂に始まる披露の場!
打楽器担当、ヴァリアルトさんの額には高速思考、並列思考、集中力向上の刻印が直線的に施され、腕には殴り描いたかのような瞬発力増強と疲労回復の刻印がある。この刻印の内、集中力向上は最近覚えたもので、正に精神系魔法と言えるものであり、神経と脳の間に介入し嗅覚や味覚などの感覚処理能力を低下させる事で脳の処理能力を他に割り振らせるのだ。物語だったら闇魔法とか暗黒魔法と呼ばれそうなデバフ魔法の応用である。
そして弦楽器、鍵盤楽器の担当も若干異なるが同様でかなりの刻印数だ。ただでさえ面倒なのに人数も面積も大きい。毎日書き直してるから手伝わせているルセアとレイが習得してしまう程で、兎に角大変だった。
ステージに上がる彼らの顔に斜めに引かれた光る刻印は、まるで熊にでも襲われたかのような真っ赤な 3本線! もちろん光るメイクは今回、初披露である。
「うははっ 女に引っかかれたみてぇ」
なんだと?
「あはははは」「色男じゃん」「はははっ なにやったんだよ、それ」
「ちょっ ヴァリアルトっ あははっ 今回は誰にやられたんだっ はははっ」
そんなにエルフの女性は狂暴なのか? 怒られないのか?
だがしかし、女性からの反応も……
「ちょっ 引っかかれたみた~い」「誰に何したのよ。あははっ」
だった。
普段から引っかかれるような事してんのかねぇ
「? ルティ姉さま。何で女性に、なのですか? 動物とかでは無いのです?」
フィニーも気になったらしい。
「ん? あ~、負傷でも事故でも普通、治療したら良いだけでしょ? 治して貰えないって事は女性に不埒な事でもして治して貰えない状態って事なのよ。しかも顔とかっ 酷過ぎよね。くふふっ」
あぁ、平手打ちの紅葉マークみたいなイメージなのか。容赦ねーな。
「ふ~ん」
何でそんなメイクを望んだんだよ。いや、最初に書いたのは俺だけど、言えば良いのに……
前夜祭の音楽は昨年に比べ大幅に熱狂した。
リードドラムとベースドラムとか言う賑やか過ぎる謎構成、とにかく高速である。ギターもベースギターだし、ボイスパーカッションは合間に連結した笛をハーモニカのように使っていた。
なんと言うか、笛の正しい使い方は今少し先になりそうだな。
ただ謎楽器が良い仕事をしており、引き込む力が素晴らしい。
何より去年と違うのは、今年は歌が付いている!!
披露された歌は振られても振られても諦めない、とあるエルフの男の物語と……
たった一人で強敵に立ち向かう若い男を救いに行く、義侠心溢れる男たちの物語だった。
……?! トンボの件かと思ったらナメクジの件だった。
立ち向かえてねーよっ! 一撃で喰われたわっ!!
救助中、更なる強敵に出会い、男たちが力を合わせて戦う様子を熱血に歌っている。みんな、そんなの居ないと知っているのに観客もノリノリである。
突如激しく降る雨に味方が分断される危機に遭ったり、突然襲い掛かる敵に当時無かった光る魔導器で立ち向かったようだ。しかも、光る魔導器を複数取り出し連続の起動音まで曲に組み込む芸の細かさ!
曲の最後は、若い男が意中の女性に抱擁され、意識を取り戻すところで締めくくった。
だーかーらー、微妙に俺を混ぜてくるのを止めろ~~っ
◆
歌の終わりから、俺は妹の熱い視線で焼け死にそうになっている。
訂正しておかないと上の妹との情報の違いで軽蔑されかねない。俺が言ったわけでも無いのに何とも理不尽だ……
その夜、ルティ姉の所に泊まる予定だった妹が急遽俺の部屋に泊まる事になった。兄は長引くと見て早々に撤収。さらに、メイド 4人まで連れ込まれ、1人用の狭い部屋で俺の半年強の暴露大会が行われた。
俺の部屋なのに、俺の発言権無し。訂正しようとした俺は何故か妹に口を押えられ、メイドたちからの聞き取り調査が行われている。
最初の方は凄い道具を作り魔物を倒しているって話だったが、途中から道具を作っているが、倒してるのは自分たちだと気付いたようだ。
ようやく理解したのかよっ!!
「兄さま、どう言う事なのです?」
「私自身に戦う技術は無いよ。訓練はしてるけどね。 ……私は、みんなが怪我しないような道具を作る事の方が得意なんだよ」
「……そうなのですか」
がっかりされても…… エルフの森は子爵領より大きなのが多いんだもの。
「……フィニーにも何か作ってあげようか」
「良いのですか?」
「良いよ。何か身を守る物が良いかな。もちろん、アリーやティーエの分もね」
ティーエは養女のクラティーエね。最近は普通に愛称で呼べてる。
「わーい。うれしいです」
こんな事くらいしか、してあげれないしね。
「もし何か希望あれば聞くけど?」
「戻ったら姉さまと相談します!」
「決まったら教えてね」
「はいっ」
無事ナメクジの件も説明しといたし変な期待も軽蔑も無いだろ。
ナメクジのサイズがおかしいんだっつーの。
その後、何故かみんな部屋に戻らず、床に寝具を引いてそのまま寝る事に。
俺のベッドには俺と妹と体の小さなルンの 3人で、残りは床側になった。
灯りを消し、眠る。
「……若様がトンボを倒したのは事実のような?」
……ルセア、蒸し返すな。
「えっ あのでっかいのですか?」
真っ暗な中、『山越え』狩りの出発から説明する事になった。
◆
収穫祭当日、朝から凄い量の屋台が並んでいる。昨年は気付かなかったが各村の特色が出ているようだ。7村の人たちの屋台はルティ姉とカルニナフさんの影響で子爵領の素材を使ったものが圧倒的に多いし、見慣れた調味料や料理も多い。薄切り肉の煮込みなんて俺が作った魔道具が無いと出来ないからな。
今年は昨年行かなかった方も見てから食べようかな。
兄と妹も誘って朝食を物色する。昨日、肉が多すぎたので果物をメインに買い集めた。兄と妹は見た事の無い作物を興味深く見てはいたが、手に取る程では無かったようだ。結局、俺とメイドのお勧めの果物とおいしそうな料理を多数買うことにした。
ルティ姉とロァヴェルナさんにも念話で食事場所を伝え、朝食を食べる。遅くまで飲んでいた人が多いからか、朝は人が少なめだ。逆に、お酒を控えている赤ちゃんを連れた夫婦なんかが多く感じる。
「随分変わった作物があるんだね」
「この前兄さまが持ってきてくれたのもありました!」
「エルフの人たちって凄い遠くまで旅してたらしくて、色々なところから果物の苗を持ってきて移植したそうですよ」
「「へぇ~」そうなんだ」
とは言え、冷蔵庫の無いこの世界ではこんなにまとめて見れる事はない。果物が出回る期間ってのは結構短いのだ。品種改良もされていないから早く生るとか、長く収穫できるなんて物もないからね。だからエルフも同じかと思っていたのだが、この前新事実を知った。
なんと、エルフは地下倉庫があって一部は氷室になっていた。氷室と言っても氷じゃないんだけどね。区切られた部屋の壁を直接火属性魔法で凍結させるのさ。各村に 1か所以上あり、専属の担当者も居るらしい。そして、その周辺の部屋も冷蔵用に使われるそうだ。まぁ、魔力があればそうなるよな……
果物も低温で保存しているので結構長く出回る。もちろん、秋の終わりは別の作物も一気に収穫されるので収穫祭で放出するんだけどね。人間の街では見ることのできない種類の豊富さである。
話しをしているとロァヴェルナさんとルティ姉が合流した。
「おはよ」「おっはよ~」
◆
「そうだ! 忘れてた。ルァニエス。広場のトンボを回収して貰って良いかしら」
朝食を食べ終えたロァヴェルナさんが思い出したかのように言う。
「はい、良いですよ。 ……広場、必要ですものね」
「そうなのよ。昨日一日飾ったからもう良いわ。ご両親に見せてあげないさいな」
「驚くだけのような気がするけど……」
「見せてあげましょうよお。姉さまも見たいって言うと思いますよ」
「グラリエントさんに聞いたけど、アレ本当にルァニが倒したんだ……」
兄はどう聞いたんだろ?
「地面に突っ込むように誘導しただけですけどね」
「エルフでもトンボと追いかけっこした人は居ないわよ?」
「居ない、居ない。死傷者無しで倒したのも、2人で倒したのも初だよね~」
エルフでも死傷者出るんか~
「一先ず回収してきますね。何か飲み物でも買ってきますか?」
「わたしも一緒に行くー」
「私はまだ良いわ」
「適当に寄って見てきますね」
妹と一緒にトンボの回収に向かった。
手を繋いで広場に行くと演奏家の人たちが居た。
「よぉ 預かってても良かったんだが、来てくれて助かるよ」
「おはようございます。早速回収しちゃいますね」
「ありがとよ」
流石にここまでの大きさだとマナで包むのも時間が掛かる。何よりマナの消費がでか過ぎっ 子爵領に着いたらさっさと出してしまおう。
「演奏はすぐ始めるんですか?」
「まだ揃ってないからもう少し後になると思うわ。まぁ、そろそろって感じだな」
「わかりました。楽しみにしてます」
「おう、またな」
「あの大きさのも、しまえちゃうんですね」
「そうだね。ロァヴェルナさんからマナ借りてないと無理だけどね」
まぁ、それでもこの状態じゃ携行用宿泊施設までは仕舞えないだろうなぁ
「わたしももっと魔法勉強した方が良いのかなぁ」
「教えてあげるよ。ただ、属性は 1つか 2つに絞った方が良いと思う。私は原理が知りたくて学んでるけど、普通の人だとマナが少な過ぎて使い続けられないからね。兄様のように生命属性魔法に絞って覚えるっていうのも正しいんだよ」
あと子爵領はマナ薄めだし。
「そうなのかなぁ」
「魔道具を学んでみるかい? マナ消費しないから便利だよ?」
「う~ん。魔道具作りはちょっと……」
人気ないなぁ
まぁ、現代で電子工作が趣味って言ってるような物だしなぁ
ドラム 2、ベースギター 1、他、な構成です。
この世界でのエルフの吟遊詩人はフィクション増し増しです。
その方がウケるから!
ちなみに背中にできちゃったりする傷の場合、男から治さなくて良いと言ったり言わなかったり。
年末休みまで貯めるつもりでしたが、秋のイベントなので秋に投稿する事にっ




