53話 鑑定魔法
【 11歳 夏 】
エルフ警備隊と活動しているウチの護衛たちだが、エルフから色々と習っているわけなんだが俺の記憶保護に情報を足していってるようだ。やはり自分たちで個別に持った方が良くないか?
「若様の為にもなりますし、一人が覚えるとみんなが覚えられますので……」
「そう言われると、そうなんだけどさぁ」
追加で保護された知識は薬草などの植物や動物の知識。
……記憶保護の共用の有用性は体験すると判る。感動した。
記憶が追加された状態でメイドから植物を渡されたんだが、何故かそれを知っていたのだ。初めて見たはずなのに効能がわかるし、似た植物との見分け方すら知っていた。
これが『理解』を共有するって事なんだな。
もちろん微妙な違和感はある。誰から教わったかを覚えていないとかな。
魔法が使えるようになったメイドの驚きを今、理解したわ。
すっげ~~
つーか、これ擬似鑑定スキルだよな……
精神属性魔法で再現できるのかよっ! 便利過ぎっ
ホント、記憶保護を標準装備してるエルフに勝てる要素ないわぁ
◆
最近は診療所以外の場所でも色々教わっている。中々結果は出ないけどな。
例えば、布団の作成現場行ったけど何やってるのか全く分からなかった。水属性魔法だったのは判ったんだけど魔法自体は理解できない。良く判らない物から高反発素材を作り出していた。
化学の分野だわ。俺には基礎になる知識と経験が足りな過ぎる……
で、今回は楽器の研究をしている人達の手伝いに来た。お土産でいくつか渡したからね。ただ、今現在、笛の音は楽曲がイメージできず、未だに手付かずっぽい。
今回の手伝いは鍵盤楽器への金属利用の考察である。現在のエルフの鍵盤楽器の音源は竹に似た繊維が強い植物である。これを魔物の爪を小さく加工した物で弾いていたんだ。だからチェンバロと違い爪の軌道は上から弾いた後、円を描いて元の位置に戻る細工がされている。
この楽器の歴史を聞いたんだが、虫の羽のブブブっと鳴る音を再現するのに植物を利用したのが始まりらしい。最初は実際に大量の虫の羽を集めて試してみたってのが笑い処らしいんだが、こえーっつーの。殻の方がまだ良いんじゃないか?
それで今回はその楽器に使っている竹を譲って貰い、指で弾ける竹製のカリンバと鉄製のカリンバの音色比較をする事にした。
実際には鉄製は直ぐにはできず、鉄を折りたたんだり、銅など他の金属と組み合わせてみたりと素材的に苦労したんだけどね。エルフの協力の元、何とか金属製カリンバが出来上がった。
そこから更に弾く板の厚さや長さ、形状もかなり調査した。その中には板の断面がT字型や逆三角型の物や、鍵盤を押さえる部品を石製にしたりと使えるか判らないデータ収集も含まれる。
とは言え、エルフの音楽家からすると高音側の楽器は興味深いようだ。
エルフの楽器に木琴と石琴はあるんだけど、高音でも振動が長く響く物は珍しいのさ。新しい楽器の登場により作曲意欲も上がっているらしく、日々賑やかである。酒は飲めないが付き合うぜ~
ふふふっ エルフのお姉様たちよ、今年の祭りは期待してくれたまえ!
◆
護衛担当の3人…… と言うかローテーションしてるので全員なんだが、本当にエルフの警備隊に感化されたようで足技の戦闘を好むようになった。魔法が使えるのに何で近接ばっか好むかね~
真逆にエルフ警備の隊長2人からは護衛の持っている鉈が欲しいと言われた。
解かってくれるか~
魔導器良いよな! ロマンの塊じゃんっ!
隊長に話を聞いたところ、エルフの足技偏重は俺が原因の一部だった。
まず、前まではそれほど技らしきものは無かったらしいんだ。そこに足の自己修復の付いたオーバーストッキングが出回った為、如何に 華 麗 に足技を決めるかが流行ってしまったんだそうだ。多少、筋を痛めても回復するからな。
そこに若い娘の視線が加わった事で、今は全く収集がつかないらしい……
昔はもっと雑で百足の足なんて、足掛けて引っこ抜いていたんだそうだ。
「とにかく、怪我人が出る前に大技狙いを止めさせたいんだよ」
「俺らがいくら、所詮間引きと食料集めだって言ってるのに止めないんだわ、あいつら」
「もちろん、ルァニエスの所の嬢ちゃんたちが悪いってわけじゃないからな」
隊長2人の依頼は、もっと効率良く狩るために多少見栄えの良さ気な魔導器が欲しいそうだ。
「少し検討してみます。形状は鉈で良いのですか? 鶴嘴もできますよ?」
「あ~、前に人間の護衛が持ってた鍬が欲しいな。あと、鉈は長さ違いを2種類お願いしたい」
「解かりました。ひとまず作ってみますね」
「助かるよ……」
「こちらも彼女たちを預かって貰ってますし、とても助かってますから」
実際、かなり強くなってるっぽいし、怪我して帰って来る事がほぼ無くなった。
さてさて、張り切りますか~
魔導器の開発には陶芸師匠にも手伝って貰った。
まず1本目は短い鉈、と言うかナイフである。今の鉈をそのまま短くしたってどうにもならん。あれはマジで中華包丁、中華料理人に見えてしまう。
ナイフは刃渡りが前腕部程の長さの物で、先端も鋭く作り、刃の厚みも増やした。その上で刃の背を鋸のような刃を加えてみた。
彼らの戦闘の間合い的にはこの位が良いだろうし、解体道具としても役立つだろう。多分。
2本目は長めの鉈だ。これは困ったんだ。強い魔物に鉈は通じないんだよ。毛や殻で防がれるからな。子爵領の魔物ならまだしも、30mの百足の殻が切れる訳が無い。
大型の生物に剣は通じないんだよ。剣って対人用だから。
実際、でっかい蟹に通じなさそうだろ? つまり必要なのは重量と少しでも刺さる突起だ。これは獣相手でも同じなんだ。
そこで、こちらからの提案として両刃の鋸にしてみた。
離れて見れば普通の大工道具にも見えるが、人と並ぶと大きさがおかしいと気付くだろう。刃渡り3m、幅70cmで斬馬刀みたいな対虫、対獣向け、両手持ちの両刃鋸である。流石に3mを超えると森の中では使いにくいからな。
両刃の上にでかいと肩に担げないデメリットはあるんだが、距離属性魔法が使えるエルフには関係ない。魔道具と違い、魔石を使わない魔導器は収納できるからな、遠慮なく採用した。
獣用側には叩き込んだ際に刃が毛を超えて皮膚に届くよう若干刃が長く、引いた際に毛を落とせるよう手前に向けて鋭くなっている。虫用側は叩き込んだ際に刃が痛まないよう厚めで水平な、正に鋸のような刃にした。引いた際には鉋のように削り出すのさ。
そして苦労したのが3本目、両刃の鍬である。両刃の斧の方が良いんじゃないかと思ったんだが、百足の足を落とすなら刃は横向きの方が良いのか、と思って考え直した。
……そうか、なるほど。
斧より鍬が必要になるのは大型の虫の所為なのか……
片方は普通の鍬の形にする。ただしかなりの肉厚と鋭さ、そして重量がある。そして反対側は釘抜きのような切り欠きを入れΣ型にした。
「地味ですかね~?」
丈夫さを追求すると加えられる機能なんてそう多くない。
「地味で良いんじゃない? 機能美と装飾は別だからねぇ 余り実用品に装飾を増やすのは、手入れの観点からも勧めはしないさ」
「そうですよねぇ」
「どうする? 色彩でも加えてみるかい? それならそれほど手間も掛からないよ?」
「……いいですね。文字っぽい何かを書いてみましょうか?」
「? 何故、文字??」
「読めなくて、謎っぽくて、カッコ良い感じの何かが書いてたら燃えませんか?」
「……イイネ。じゃあ、何か適当に書いて貰えるかい? それを2人で交互に何度か変更して、それっぽくしてしまおう」
「良いですね。じゃ、読めない感じに崩して…… 『ご機嫌よう』とでもしようかな~」
地面に文字を書く。
「はははっ じゃ、2つ目は『召し上がれ』にしてよ」
「お~ では3つ目は『お怪我はありませんか』にします」
「くふふっ 酷いなぁ」
その後、俺の知ってる文字には見えない程に変形された謎文字が誕生した。
これを魔導器に書き込む。魔導器は柄からマナを流すと刃と表面に強化魔法が掛かるが、更に悪乗りで刃と文字が別の色で光る機能と、振るたびにブンッと低音を発する機能を追加し試作品は完成した。
光もだけど、音は隠密行動に困るんじゃないかって聞いたんだが、師匠は多少使いにくい方が燃えると力説する。
狩りに使うなら困ると思ったんだけど、実際振ると妙に音がカッコ良い。試験と言いつつ師匠と2人でブンブン振っていたら、様子を見に来た護衛隊長に見つかり即、採用が決った。
隊長曰く、音はそのままが良いそうだ。
鑑定スキルの再現はできますが、当然勉強しないと使えません。
忘れないって事と共有できる事で有用になってます。
寿命の長いエルフは記憶を共有しようと思いません。
「もっとこう、大事な場面とか思い出とかあるだろうがよぉ」
エルフの男女でも結構用途が違います。
エルフの職人衆の最古は料理、衣服、寝具となっています。居食住ですね。
それぞれの村で独自発展していた物が、精霊樹の発見と共に合流。寝具は色々な知恵が一気に集約された結果、マット、敷き、掛け、枕と、全てが発展しました。
T字の鍵盤に意味が有るかはわかりません。ステンレスが無い世界で強度を増やすために足掻いています。鉄だけだと徐々に曲がって戻らなくなります。
ちなみに、主人公は一切楽器が弾けません。
経験が無いのもありますが、記憶に無いのです。例えば、結婚式の曲と言えばと問えば、何かあった気がするけど曲名も出てこなーい、ってなります。
ただ、楽器の形状や仕組みは解るので、音色を想像する事はできます。
この日、ルァニエスの子孫たちを長期に渡って悩ませる、古代エルフ文字が生まれました。
「エルフ本国の書物にすら載ってない文字をどこで習ったのでしょうか……」




