52話 風属性魔法
【 11歳 晩春 】
エルフの里にピザ以外のパンが出現した。
きっかけはリアネルティエさんが子爵邸の硬い方のパンを持ち込んだ事だ。
彼女はあの硬ーいパンが結構好きらしく、自分でも焼くんだ。
ただ、他のエルフからの評価は二分した。かなり硬いからな。
食べたエルフからは、硬いのも良いって意見と、樹皮を齧ってる気になるって意見が出た。そこで、エルフの趣味人で暇人な改良チームが急遽結成されたのだ!
まずは柔らかくしたいなら焼く温度を下げようって事で低温調理を試し、多少の効果は出たが納得できず中断。一つ一つの気泡が大き過ぎるんだ。
そこで恒温状態の空間を作成し生の生地を観察、効果が出たので更に恒湿も追加。
出来たパンを見てエルフたちは思ったのだ……
つまり細かい気泡を入れれば良いんだな! と。
イースト菌を知らないからこその短絡思考!
そこからは一気に進み、宙に浮いたパン生地がミキサーに入れたかのように凄い攪拌され、強制的に細かい気泡の入った無発酵パンが出来上がった。
ここまでの作業で大体半日! 全て魔法で対応された!
お、俺の苦労は一体……
仕上げはお馴染みの空中で目視しながらの焼成。
膨らみが足りなければ生地周辺の空気を減圧。気泡を強制的に膨らませ、直接加熱焼成とか言う調理用魔法であった。とにかく大きく、ふかふか。オーブンじゃないから焦げ目も薄い……
もう、パンじゃないのかも?
外側はサクサクしてるのに内部はしっとり。
何だろコレ……
小切りにした生地を加熱するのは工程的に揚げパンに近くなるはずだけど、温度が違うせいか結果が異なる。油使って無いしな。色的には大きすぎるシュー生地かな? 内部の気泡がシューより均一なのが違うけど。周囲を減圧したからか膨らみ具合がエグい!
当然、これは子爵領ではできない作業である。
もう、エルフ領には小麦粉じゃなく全部小麦で送ろう。
これなら全粒粉でも良いじゃん!! 量と栄養が増えるよ、多分!
どうせこの人らなら籾殻だけだろうと、ふっかふかのパンを作るはず!
【 初夏 】
メイド隊の内、その日の護衛役がエルフの警備隊と一緒に行動するようになった。色々と技やら魔法の応用を教わっているらしいのだが、何故かどんどん武器を使用しなくなっているのが怖い。感化されすぎじゃないだろうか……
俺はと言えば、診療所でロァヴェルナさんの治療の助手をしたり、リアネルティエさんから調理魔法を教わったりしている。
で、今日、遂に風属性魔法を教わる事になった。これまでの魔法の傾向と同じように、マナと言うエネルギー源が一緒なだけで原理は全然違うはずだ。
「風属性は動きに関係する魔法ね。風が吹くとか、物が落ちるとかの現象を変える事ができるわ。難しくはあるけど、誰かの腕を振るって行為も強制的に止める事ができるの」
「動き……」
「練習方法としてはこの天秤を傾ける事よ」
多分土魔法で作ったであろう、石の天秤がある。
「片方を軽くしても、重くしても良い。方法は任せるわ」
「うーむ」
「重さって言うのは下向きに引っ張られてる力の強さなのよ。その量を変更するって事ね」
ロァヴェルナさんが天秤を指差すと天秤が傾いた。揺れもせず安定している。
「なるほど?」
「距離魔法と似ているけど、距離は自分と言う基準点があるところが風魔法との違いかな。風魔法はその物自体が現在持ってる、何らかの力の変更よ」
「やってみます……」
……結構色々試したが、全然できない。原子の質量とかの変更かと思ったが変更できる気がしない。机と天秤の間をマナで包みながら天秤を揺らしても何も感知できず……
重さを変えるって何だよっっ
風の魔法じゃないんかいっ
ロァヴェルナさんは仕事に戻ったので、そのまま診療所の一室で訓練を続けた。
そして、何とか風魔法が使えるようになったのは実に一か月後っ!
きっつい。これは後回しにされる訳だわ。
天秤のお皿の重さを変えるため、両手を片方のお皿に翳してマナを供給していた所、お皿が何故か揺れだしたんだ。
なぜ?……
「ぷっ あははっ いや、おかしいでしょっ お皿を横に揺らす人は初めて見たわ~ そっちの方が難しくない?」
ロァヴェルナさんが笑う。
「何か解かった気がするけど、下向きはどうやるんだろ?」
「そのまま続けてればできるようになるわよ。やり方は合ってるから力を感じられればすぐよ」
「やってみます……」
凄い難しかったが、風属性魔法が使えるようになった。
原子は関係ないな。質量を変えるような魔法では無い。距離魔法とも違う。
物体その物が外部から受けてるエネルギーの変更だと思う。重力もそうだし、気圧が均一になろうとする力もそうだ。
そして、受けてない力を受けてた事にもできる。止まってる物を横に押されてた事にできるんだわ。もちろん難しいし、マナの消費も大きい。
しかし、良くもまぁ、発見したものだよ。
と言うか、誰だよ! 風魔法って名付けた奴っっ!!
名前の所為で習得が遅れるわっ
少なくとも距離魔法は合ってたぞ。水と風はホント名称を変えて欲しい~
◆
風属性魔法が使えるようになったあと、リアネルティエさんから風属性調理魔法を教わる事になった。今回は肉料理らしい。
「風属性魔法って言うのは周りの空気を操れるのね。今回はそれを料理に応用した調理魔法を教えます。調理は火属性魔法と風属性魔法の同時使用が必須だからね。良く覚えるんだよ」
「はい、先生。よろしくお願いします!」
「よろしいっ では今回は先日獲れた獲物のあばら肉が良い感じに熟成したので、これを使います」
「デカすぎませんか?」
目の前には吊るされたデカ過ぎる骨付きのあばら肉! 6畳とかはありそうな大きさ。厚さも相当ある。切るのか? 鍋とか入らんだろ?
「これを丸ごと柔らかくします!」
「!? 丸ごと?! 切らないの?? 本気?」
「本気っ! 切りませんっ 食べる直前に切った方が美味しそうじゃん?」
「その為だけに丸ごと?」
「必要なのさぁ 取り合えず今回は応援も呼んであります。登場っ!」
「やっ ルァニ君、こんにちは」
「あぁ、クレイフェレーサさん。こんにちは。今日はよろしくお願いします」
何度か会った事のある調理担当の女性である。
「レッサで良いのよ? それともレッサお姉ちゃんにしとく? うふふ」
「いえいえ、そ「レッサ~ 重いから早くやろうよ~」」
「も~ 良いじゃん。ルティ姉ぇ?」
「レッサ、今日はルァニに風属性の調理魔法教えたいんだよ。話したじゃん~」
「ごめん、ごめん、ルティ。じゃ、私がお肉持ってたら良いの?」
「うん。浮かせて固定しといてね」
「は~い、任せて~」
「……では、はじめます。まずは、お肉に塩と調味料を加えます」
風魔法で塩を掴んで肉に塗す。その後、調味料を適当にかけた。
「じゃ、ルァニは火属性魔法でお肉全体を加熱してね。焦げない位の熱を継続で」
「はい」
「私がこれから風属性魔法で周りの環境を操作するから、ちゃんと見てるんだよ?」
「はい」
肉を加熱していくと湯気が出始めたんだが、湯気が肉の周辺をぐるぐる回っている。蒸し焼きなのか? 加熱し続けていくと肉が見えない程、肉の周りが水蒸気だらけに。ある一定の範囲から出ないよう魔法で制御しているようだ。
「見えないだろうけど、水蒸気から水に戻った分も肉に戻してるからね」
「そうなんだ…… 液体も外に落ちないんですね」
「そう、食材の中心に向けて落ちる様にするんだよ。目を強化して熱の位置を見てごらん」
赤外線の感度を上げて見ると中心に向けて落ち、対流する蒸気!
「うぉ? こんな事ができるんですか」
土星かよっ
「そうそう。そろそろかな…… ここで空気を更に絞り込みます」
水蒸気の範囲が一気に狭くなった。
加熱は同じままなのに何故か水蒸気が消えた……
肉の色もおかしい、光の反射率? いや、屈折率か? これは圧力鍋で良いのか?
説明が足りなーい。
それからしばらくして
「じゃ、ルァニ。加熱を止めて良いよ~」
「はい」
「レッサ、ごめんね。もうちょっとお願い~」
「大丈夫よ。私もこの料理好きだし」
「今日のは結構大きいし、良い所を貰っちゃおう」
「良いわね~ 楽しみにしとくわ」
ある程度熱が落ち着いたのか色味が変わる。
「じゃ、解除するね~」
解除された途端、凄く良い匂いが広がった。すげ~
圧力鍋なしで加圧調理するのか、エルフって……
「後は常温に戻すから保管しておくね。夕食を楽しみに待つと良いよ」
「はーい」
巨大な肉をリアネルティエさんが収納魔法で保管した。
その日の夕方、夕食に出てきた肉は柔らかな角煮のような食感だった。
パンで何故影響が出たかと言うと主人公が最初に持ち込んだ料理がうどんだからです。
風属性調理魔法ですが、周辺の空気を集めて気圧を上げるのと、重力方向の変更により肉に肉汁と調味料の回し掛けをしています。ソースが下から上に落下するので全面に掛かります。
通常、魔法は 2種類同時は困難です。ですが調理では良く組み合わせて使うため、組み合わさった状態の別魔法として覚えて使います。慣れればできるって事ですね。
普段は浮かせて熱する役と、中心に引力を掛けるのと周辺圧力を調整する役の 2人ですが、今回は応援で片方を肩代わりして貰ってます。




