50話 結成! メイド小隊
少しだけ長め。
【 10歳 冬 】
エルフの里の収穫祭後から何かと俺に乳児2人を抱かせようとする妹たち……
今日も何故かメイドが行なうはずの時間に俺があやしている。筋トレと思えば苦でも無いが……
抱っこ紐で前と後ろに抱え領主邸内を徘徊。中庭を通り抜け、母たちの元へ。
「まぁ、最近多いわね。兄弟愛に目覚めたの?」
「アリーとフィニーがもっと構ってやれって……」
「そうね。しばらく会えなくなるんだしね。 ……きっと、あの子たちもそうよ?」
「そうなのかなぁ」
抱っこ紐以降も、妹たちと一緒に色々作った気がする。
吊り下げ型のおもちゃとかベビーカーとか、結構手伝って貰ったんだ。
ベビーカー自体が無かったのに、一気に二人乗りのベビーカーが必要になってしまったからな。もちろん新規設計ですよ。当然車輪に車軸が使えないので、摩擦抵抗を抑えるためにリアカーのよう左右個別の車輪を配置。赤ちゃんが車輪を触れないようカバーも付けた。
問題は軽量化だったが、プラスチックも無い世界で強度と重量のバランスを取るのは難しい。採用したのはこの領でも良く使われる蔦である。車輪と車軸は石製だが、フレームは蔦を乾燥させた物でベッド部分は布を使った。もちろん布の日除け付きさ。
確かにベビーカーを作ってからも、一緒にやたらと散歩した。
妹2人か…… いや義妹も入れて3人か。
女兄弟との正しい距離感ってのが解からないが、今は薄情なのかもしれない。
う~ん。何か遊具の一つでも贈るか~
その後少し時間が掛かったものの、完成したのは自転車である。
チェーンや軸受けは作れないので歯車が多く、見栄えの悪い3輪車だけどね。
もちろん大きさは妹たちに合わせてある。速度は出ないが小さなリアカーを牽けるようにもした。もちろんベビーカーも連結可能だ。
歯車の強度に問題があるので、一部魔道具化し強化してあるが中庭で使うなら問題は無いと思う。
「兄様、もっとはやくーっ」
「はやくーっ」「すごい、すごーい」
後部座席と牽引車から声援が届く。
しばらく動力としても頑張る事になった。
【 11歳 春 】
領主邸で訓練を受けていた4人娘は無事卒院し、4人とも俺が雇う事になった。予定とは違うが、護衛3人とメイド1人として交代で働いて貰うんだ。留学すること自体が予定外だしね。
とは言っても護衛能力は非常に不安。今までのメイドさんもそれほど強かったわけでは無いのだろうが、母様から結構な期間指導されてたわけで、新人に冬の間だけの短期訓練で大丈夫なのか心配なんだ。
しかも身体強化しか使えないそうだし。
取り合えずは不意打ち対策だけはしておこう。ナメクジにすら負けた身としては油断はしたくない。
結構な進化を遂げている暗視野スコープ付きのエアコンマスクだが、更なる機能追加を行なおうじゃないか。追加するのは多方向モニターだ。背後、上部、側面を常時映し、目の周辺に疑似的に配置しようと思う。バックミラー、サイドミラーのような感じだな。
使うのも光魔法だけでかなり簡単だし、更に聴力強化も付けておくかぁ
これで不意打ちには対応できるだろ、きっと。
これを5人分作成。安全第一だぜ~
◆
準備ができたので、エルフの里への留学はすぐに出発する事にした。理由は単純、夏より春の方が安全だからだ。
距離魔法があるので色々な物を結構余分に持って行く。更に手土産に楽器をいくつか持って行くのと、あちらで魔道具が作れるように材料や関連書籍も十分に用意した。
カルニナフさんとリアネルティエさんなのだが、カルニナフさんは南端倉庫に残るそうだ。どうも彼は漬物名人のおばさんに弟子入りしていて、習いながらも改良し新しい物ができないか挑戦しているらしい。
そして、リアネルティエさんは俺と一緒にエルフ領へ帰郷するそうだ。彼女は来てから厨房で人間の料理を学んだんだが、料理より調理器具に興味を持ったのだ。その所為で一通り入手したあとは、俺に新規の道具を作らせる方に舵を切っている。
こちらもその分料理を習ったり、思い付きを再現して貰ってるので不満は無いがな。
南端の倉庫付きの宿泊施設で一泊し、エルフ領との国境へ移動する。今回はリエネルティエさんから森の警備隊に連絡して貰い、里まで護衛をお願いする事になってる。念のためにね。
警備隊が来るまで暇なので、いつぞやの門を装飾する。子爵領向きには変な生き物が威嚇するような装飾が付いているのだ。逆側へ俺が装飾を施しても問題あるまい。
エルフ領から子爵領へ通ると目に付くよう、門の柱に妹2人を左右に彫刻してみた。
うむ、中々良~んでないかい? 愛嬌大盛な、いらっしゃいませの型。
「また、微妙に似て、微妙に似ていないねぇ」
「顔はこんな感じじゃないです?」
「目はもっとクリっとしてるんじゃないかな?」
「そうかな?」
リアネルティエさんと話ながら微調整していく。
「おぅ、ルァニエス。待たせたな。 ……何やってるんだ?」
「反対側に装飾があったので、ウチへ来る時に判りやすいように装飾を入れました」
「おいおい、俺らが大人気無いみたいじゃないか……」
グラリエントさんが苦笑いしている。
良く解らん荒ぶる鰻何ぞを装飾してるんだ、十分大人気無いぞ。
「今日の私の護衛は新人なので、申し訳無いのですが里までお一人お借りできないでしょうか?」
「おお、良いぞ。前もって話は聞いてたからな」
「よろしくお願いします」
◆
エルフの里に着いて、久々にロァヴェルナさん会った。
「冬の間に一回くらい来るかと思ってたのに…… 忙しかったの?」
「護衛用の装備とか、一年分の材料の確保とか結構かかりました」
「ふ~ん。 ……あら、レイじゃない」
「お久しぶりです、お姉さま」
「ナイヒレイシィを知ってるの?」
「養護院の子でしょ? 何度か対応して貰ったわ」
「そうなんだ。他の3人も知ってる?」
「顔は覚えてるけど、話した事は無かったんじゃないかしら?」
「じゃ、3人とも自己紹介して」
「では、私から。アリアルセアです。ルセアと呼んでください」
「私はシールーンです。ルンとお呼びください」
「アリアトルテです。トルテとお呼びください」
「よろしくね」
「私もそっちで呼んだほうが良いのかな?」
「そうですね。それでお願いします」
「改めてよろしくね」
名前なんだが、養護院は年間で結構名前を付けるので名前が似通る。しかも同じ人が担当するし、担当が変わってもその人も養護院出身者だからあまり名前の種類を知らないんだ。その所為でアリアやナイヒが付く子が結構居るので、愛称は下の方を名乗る事が多いみたいだ。レイは少し上に他のレイシィさんが居るので変えてるそうだ。
宿泊地は以前借りてた空き地より結構内側の土地を借りられた。これは嬉しい。大丈夫だとは思うんだけど、全員新人だと森の近くは怖いんだよね。
どうもエルフの男たちもそう思ったらしく、かなり内側にしてくれたようだ。
そして設置した携帯宿舎だが、新人メイドたちは大絶賛である。まず、布団の質がすばらしい事! ベッド自体は狭い作りなんだが、それに合わせるためにエルフから材料を買って俺が寝具の大きさを調整したんだわ。その所為で狭いながらも厚さは数割り増し。養護院出身者からすると何事っ?! 状態だった。
部屋割りは護衛3人とメイド1人で分けてあり、何日か置きにメイド役を交代する事になっている。メイドと言っても洗濯と掃除くらいしか仕事は無いけどね。食事は全部外で食べるから配膳や洗い物などは無いんだ。
◆
エルフの里で過ごすのでまずは挨拶回りだ。まずは長老さん達、次に陶芸先生だ。長老さんにはお土産の楽器も渡しておく、種類はあるが数は無いので共有で使って欲しい。
あとはロァヴェルナさん経由で、エルフのお姉さんたちにご挨拶とメイドの紹介をした。女性の事は良くわからないからな、メイド達が相談できる環境も必要だもの。その後も挨拶回りを続け、夕方に仕事から帰って来た警備隊にもご挨拶し終了した。
警備隊の人たちからはかなり心配された。やはり対策を増やした方が良いかなぁ
まずはロァヴェルナさんに念話でメイドたちに刻印を施して良いか確認する。
『良いんじゃない。安全の為にもね。明日、診療所で行いましょ?』
『よろしくお願いします』
翌朝、診療所に行ったのだが、ロァヴェルナさんが不在。
最悪、美白魔法で消せるし進めておくか。4人は流石に多い。
さて…… 面倒なのから刻印を施そうとしたんだが……
うーむ。
マナ収集の刻印は中止だな……
胸骨に刻印できるスペースが足りん。発育悪めとは言え、成人してる女性だもの。
やっぱほら、脂肪があるじゃん?
マナ共有から行くか。
「じゃ、ルンから行こうか。ここに寝てくれる?」
「はい」
まずは尾骶骨の上辺りに刻印を施す。
「どんな感じ?」
「良くわからないです……」
「強めに身体強化使ってみてくれる?」
「はい…… え? わっ マナが減らないですね。何か凄いですっ」
「良かった。成功したか~」
残り3人も同じく刻印を書いていく。
これでマナ切れの心配が消えたので魔導器が使える。
ちなみにこの娘らの武器なんだが、盾無しの両手に鉈である。
領兵と訓練した場合は女性でも父が指導するので槍や長柄武器になるんだけど、今回は訓練したのが母だから。森の中だし取り回しが良くていいけど、盾は欲しく無いのかねぇ
ロァヴェルナさんが帰ってきた。
「あ~ ごめんなさい。忘れてた。朝から怪我人が出て治療に行ってたわ」
「大丈夫です。仕事優先して頂ければ……」
「もう少しかかるから、マナ収集の刻印をやっておいて。後で見てあげるわ」
マナ収集は刻印が大きすぎて、彼女たちには刻み難いんだって~
担架で怪我人が運ばれて来た。エルフの男性2人をぼろぼろにできる相手ってなんだ……
「じゃ、魔法は教えれないけど記憶固定の刻印だけ入れておこうか。」
「はい。お願いします」
小さいのですぐに終わる。未だインストールされて無いからか混乱している様子も無い。
あれ、結構きついんだよね~
「魔法はロァヴェルナさんが来てから教わるから休んでて」
「はい」「あの……」
レイが手を挙げる。
「どうしたの?」
「……何か記憶が増えてるような?」
「え? いやいや。無理だろ~」
他のメイドが首を傾げてる。
レイだけ?
なんで?
「確かに」「これか~」「……」
え? みんな??
どうなっているんだ?
主人公も妹たちも小学生くらいですので~
左官の本領発揮!
アリア、ナイヒはあちらの世界ではちょっと良い意味がある設定です。




