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36話  ナンなんだっ

 【 9歳 晩秋 】



 夏の内にエルフ領の先の海が見たかったが間に合わず、海には中々縁がない。


海に関しては別に何かを隠してるわけでも、近付けさせたくないわけでも無いらしい。

崖周辺は岩だらけで植物がぽつぽつ生えてる程度、動物も住んでおらず行く事も無いんだとか。


なのでロァヴェルナさんに頼んで秋の収穫が終わったら交易に合わせ、エルフ3人の一時帰郷と海の確認をさせて貰う事になった。


ちなみに、こちらが交易で欲しい物の一番はお布団だったりする。



前回はこちらから出せる物の商品価値が判らなかったが、リアネルティエさんが来てウチの加工食品は売れるだろうとの助言(アドバイス)を貰った。


その売れる加工食品とは、漬物!


うん。実に微妙である。

有るだけ売れるって言われても全然喜べない。


それだけじゃ何だと、その後エルフ向けに俺が作った商品が川魚の干物だった。


川魚齧るエルフとか物語的にどーよって思うが、二人からはこれも売れると太鼓判を戴いた。交易に合わせ加工しないといけないので今は生簀(いけす)に魚を貯めてる状態だけどな。



そして今回の目玉はチーズである。

ワインには漬物よりチーズが合うだろ?


ヤギのチーズを気に入ったカルニナフさんの協力でチーズの歩留まりが一気に上がり、生産量が消費量を一気に超えたのだ。 ※ 歩留まり 成功確率


元々この領の消費は少なく、少量あれば良かっただけなんで完全にやりすぎである。

行程どころか、建物から新設計したからな。


俺も道具作りとマニュアル作りに奔走(ほんそう)したぞ。

ガラス製の道具に、文字と絵が入った各種石板型指導書の導入だ。

行程の部屋ごとに作業指示を掲示(けいじ)したのさ。


家内制工業からの脱却だな。フローチャートとチェックリストも導入よ。

この辺はカルニナフさんから知恵を借りた。


この人は醸造品の工程を経験しているので品質管理についてはかなり厳しい。

服装、衛生から、扉の開閉方法まできっちり管理よ。


まぁ、商品はどれも単価が低いんだけどな。


発展途上国と先進国の貿易なんだ、一次産品(いちじさんぴん)に寄るのはしかたないだろう。




 【 初冬 】



 収穫が終わり、他領から買い付けた小麦の搬入が順次始まった。

領内でも食品の加工があり領主邸の地下倉庫は日々賑やかだ。


そして、とうとう初交易の日。今日、エルフ領へ初の小麦の輸出が始まる。

供給と需要、双方が不明瞭なため今回は手探りだけどね。


出す側の子爵領も小麦のままが良いのか、もし粉だとするならどこまで挽けば良いのかが判らない。

そして受け入れるエルフ領側も何に使えるのかも、賞味期限の把握すら出来ていないのだ。

だから今年は食べきれる程度の小麦粉を持って料理から説明よ。


と言うわけで、初日に第一印象(インパクト)は必須。胃袋にご提案(プレゼン)と行くぜ~



今回の商隊(キャラバン)は子爵領所属の商人を同行させる事にしてある。

この時期はまだ領兵も忙しいので護衛は商人所属の人たちに頼るつもりだ。


彼らも彼らで小麦の他、自分たちで売れると判断したものを持ち込む予定だ。

なんとか需要があるものを見つけてくれると期待しよう。



境界の門を超えると見廻りのエルフが居たが、前もって初交易で伺うと連絡を入れてあったので大人数でもすんなり受け入れて貰えた。


だが先に! 門が凄い改修されている。

中華風? 色々文様(もんよう)が増えすぎて解からないが超威圧的。文化の壁だっ

文字を失ったくせに文様で威圧している。


うなぎっぽい何かに恐怖を覚えるかどうかは人次第だろうがな……



見廻りの方々の護衛もあり集落にすんなり着いたが、それでも既に夕方である。

初めて見る建築物に商人もその護衛も驚きを隠せない様子だ。


その後案内された場所は何度も打ち合わせで入った事のある建物で、まずは商品の確認をする。

交渉は各一族の担当が行う事になっている。


一般人は不参加だ。なんせ貨幣が無いからな。



で、交易なのだが……


漬物は大きな甕をかなりの数を持って来たんだが、試食して貰ったら即完売となった。

いくらでも買うと追加で発注される始末。


それに引き換え、魚は完売したものの発注まではして貰えなかった。

珍しさでは勝ると思うんだが、消費期限が気になるんだろうか?


そしてチーズに至っては半分くらいしか売れなかった。

何とも商売は難しいよな~


取り合えずは今晩の宴で料理として披露して行こう!




 小麦粉の消費量を上げる為にうどんを作る。乾麺でも良かったが、どうせならと製麺機を持ち込んでみた。実演販売って奴だ!


うどんは製粉設備から改良した小麦粉による、白色極太もちもち仕様(さぬき風)……

の、つもりだったんだが、塩がこっち産のため妙に赤い麺になった。


小麦粉は白く無くて良かったかなぁ

是非とも、お揚げを放り込んで真っ赤なきつねうどんにしてみたい感じだ。

もちろん豆腐すら存在して無いけどな。


具はシンプルにエルフ領で採れた野菜で作った、かき揚げうどんで提供した。

ウチの領から持ってきた笹カマも天ぷらで加え、揚げ玉もたっぷりでご提供だ。


さぁ、どうよっ?!


結果は、なんとも微妙……

反応が薄い。



食べて見せないと、麺って奇妙な物だしなぁ

まぁ、赤くて断面が六角形なうどんだから日本人ですら躊躇(ちゅうちょ)するかもしれんがな。


失敗したかな~? いっそ団子風の方が良かったかな?


子爵領に来ていた3人は提供されたから食べただけで、売り物としては見てなかったのかも。


半分諦め、肉を焼き、出た脂で焼うどんを作ってみたところ反応が変化。


なんだ?


肉が足りてなかった感じなの?



何故かエルフの料理人が参加する事となり、俺は麺を作るだけに。

そこから試作を重ねた結果、えらくスパイシーな焼きうどんが出来上がった。


足りないのは辛さだったのだろうか?

どんどん注文が入る。


その後付け合わせ(トッピング)にから揚げを出してみたんだが、こちらも高評価となった。


どうも前回俺たちが帰ったあと何度か作ってみたのだが、獣の脂の揚げ物はイマイチだったらしい。


素揚げなら良いかとも思うが、まぁ揚げ玉はそうだろうよ。

もしくは遠心分離か何かで沈殿させないと不純物が多いのかもしれないな。


今回の唐揚げは前回同様持参した植物油だってのと、唐揚げの衣の下味に粗挽き魔石を加えてみたんだ。なんか方向性が解かってきたかもしれん。


揚げ玉モドキを使用したクリスピーな唐揚げを作ってみたのだが、最後は作業場を奪われる程で、量産、改良、増量と進み、最後は獣の肋骨で作ったクリスピーな巨大チューリップ揚げまで発展!

食欲すげーわ。


来年は植物油を増産だな。こっちは良い値段で売れるだろう。




 2日目、商人たちを放置し俺はロァヴェルナさんと海を見に行く事に。


そこそこ離れた距離を歩くと急に森が途切れ荒地に出た。


「おぉぉ~」


なかなか風が強い。海は見えないが海の匂いが混じっている。

崖が海に向かって高くなっている為か、見えないし音も聞こえないのに近いのが判る。


「危ないから、ここからは手を繋ぎましょ」

「はーい」


身内以外の女性と初めて手を繋いでいるが、なんと言うかデートと言うより補導?



しかし……

ここにはもう少し体が大きくなるまでは絶対に一人では来たくないな。


崖に向かってゆっくり登って行くが、かなり怖いのだ。


遮る物は無いし、いきなり風の方向が変わったら落ちかねない。

風の所為か足元は岩肌、砂すら無い。そのため草も生えていないのだもの。

しがみ付く物が一切無いんだ。



慎重にゆっくりと近づいて行くと海が見えた。


「おーーっ」

今人生で初の海である。


「満足した?」

「ありがとうございます! 崖から下見てみて良いですか?」

「落ちないでよ?」

「もちろんです!」


手を繋いで貰いながら恐る恐る近づき、下を覗く。


「高っけーーっ」


無理無理無理無理っ


下から吹く風は強いし、高さは判別不能。

多分100mは無いくらいか? いや、ホントその位はありそうだ。


「くくっ あははっ そんな判り切った事がしたかったの?」

「自分の目で見たいじゃないですか~」

「手が汗で凄いわよ?」


反対の手を(ぬぐ)って急いで逆の手を繋ぎ直して貰った……



まぁ、製塩は無理だなっ!

これは無いわ。




 エルフ領でうどんとピザが流行る事になった。


……俺の功績ではないがな。


ちなみにだが、もう一つのピザは俺が教えた訳じゃない。

子爵領でも無いしな。俺も忘れてた。



チーズが交易品に含まれていたが、エルフは当然使った事が無いから試行錯誤した。


後はエルフたちが勝手に考え、


2日目にはチーズナンが出来、

3日目にはピザが出来ていた…… 


こいつらっ ナンッなのっ?!


空中で程よい温度で練った小麦粉を操作し、生地の成型からそのまま焼成!

見ながら焼けるから丁度良いところで完成。


料理上手ーーいっ


ちなみに今、流行りのピザ、うどんは共に麻辣(マーラー)味である!



そして今、俺の目の前に置かれてるのは挽肉たっぷり汁無し麻辣チーズうどん……

うどんも、掛かってるスパイスも何とも赤黒い。


俺のお子様な舌は果たして耐えられるのだろうか?


?! んん~、味のコメントは控え「ぅ熱っちっっ!!」


口ん中、すっごい痛いっっ

こっちにも粗挽き魔石が入っていたっ



彼らはこれに唐辛子パウダー入りの赤い揚げ玉を追加し、もりもり食べる。

エルフって意訳するの辞めようかな~


確信した。


奴らに必要なのはガツンと来る匂い、それと大盛りの見た目(ヴィジュアル)だわ。



おまえらは、男子高校生(食べざかり)かっっ!!



今週はどの時間で読者が増えるのかの調査の為、投稿時間をバラバラにしてました。

本日夜にもう一話投稿して、しばらく書き溜めに入ります。


チーズは、より美味しい物ができると思った主人公と、廃棄が出る事が許せないエルフで食い違いがありました。食べる習慣の無かった人が悪くないねって言った程度です。


崖の高さは200m近くあり主人公の目測は間違ってます。

降りるのにロープとか無理ですし、エルフは検討すらしてません。



この物語のエルフは青春の時期が凄い長いんです。

当然、食欲や好奇心も高止まりします。

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