28話 森の住人
【 9歳 夏 】
南の森に住人が居た事を父に報告。
見た事無い種族だったと伝えたが、護衛達は良く見ていなかったらしい。
美形だったと言うのが唯一の感想だった。
もっと観察しろよって思うが、戦争物の物語も無ければ人同士の戦争の歴史すら習って無い人たちだしな。外国人や別種族と遭遇の可能性を考えた事が無いとこういう反応なのか。
俺が最初に疑ったのは、東の連峰の向こう側にある、未だ名前も知らない国家が通路でも作ったのかと思ったんだがな。
知的生命体に対し危機感が薄すぎないか? 戦争がほぼ起きない世界とは言え、数回だろうとそれがあったのなら歴史の授業は必要なんじゃないだろうか?
父を説得して俺が行く事にした。
俺が行くなら戻る必要無かったって思うかもだが、使節に任命して貰わないと話も聞けない。あと、当然だが実務担当が必要だ。
それに現代社会だって国交無い所といきなり首脳会談なんてしないだろ?
取り敢えず今回は交戦の意思が無い事だけを伝えられたら良い。危険過ぎるわ。
期日に合わせ準備をする。交易品の試供品として小麦と布と紙を持ってご挨拶へ~
今回の人員は血の気と好奇心が少なそう領兵数名と国法に詳しい文官2名が同行、人数は最小限だ。最悪俺が死んでも子爵家は問題ないしな。
さてさて、どうなるやら。
◆
前回出会った場所で彼らは待っていた。見えてる数は多くないが、それが全員とは限らないからな。警戒しつつ穏便に終わるよう同行者にも注意を促がしておく。
「随分と少人数なのだな」
この前の人だな。改めて見てもやはり耳が長い。エルフって感じだよなぁ
とは言え、両親もこの種族を知らないらしい。
人魚が存在する世界なんだしエルフが居てもおかしくは無いと思うがどうなんだろうか。
「大人数だと警戒されて交渉が失敗するかもしれませんので、法に詳しい者だけ連れてきました」
「参ったな…… 長老は交渉せず不干渉を提案しているんだが……」
それは流石に無理。
「不干渉は難しいですね~ お互い出会ってしまった以上、不干渉にするにも決まり事を作らないと問題が起こりますから」
「例えば何かね?」
「例えば、どこまでがあなた達が認識する領地なのかとかですかね。陸側もそうですが海側でも接してますよね?」
更に言うと西の山の先もあるんだわ。
「あ~、まぁそうなるよな…… 仕方ないか。着いて来てくれ。案内する。頭の柔らかいのと交渉してくれ」
「ありが「おい、良いのか?!」」
彼の同僚らしき人が俺の言葉を遮る。
「話しの通じない種族と思われるよりマシだろ? 今呼んだから、ロァヴェルナを連れて来てくれ」
「ぐぇ…… いや、俺がここで見てるからお前が行ったらどうだ」
「連れてくるくらいは良いだろ。変な声出してたって言うぞ」
「……行ってくるわ」
話しが付いたようだ。
「大丈夫なのですか?」
「反対してるのが二人居るが、今後対応してくのは俺たちだからな。納得させるさ」
「それなら良いですが……」
「最初にそちらの配慮があったしね。この人数を拘束できない程我々も弱くは無いさ。それに、必要最低限を決めるってのは俺も賛成だ」
そう言って笑う。
かっけ~ 美形は何やっても絵になるな。
移動を促され、少し歩くと若干森の開けた場所に出た。
「ちょっと準備する。その辺で休んでてくれ」
「はぁ」
そう言って、スタスタと進み土魔法で地面を均すと、どこからともなく建物を出した。
え?! 何? 無茶苦茶!! 何やったの?
「今、席を用意する。もう少し待ってくれ」
席? 建物から用意してるじゃん! エルフジョークか?
二階建ての建物の中に用意された席で暫らく雑談をしているとエルフの女性が現れた。
「あら、随分と小さな交渉人ね?」
「領主の息子だそうだ」
「初めまして。使節として伺いました、ルァウニスと言います。主な交渉や提案はこちらの 2名が行います」
「そうなの? ロァヴェルナよ、よろしくね」
簡易的な事前交渉が始まった。正式な物は当然父様の確認が居るし、場合によっては国王の承認が必要になるからな。
ひとまずは双方の譲れない部分などの確認だ。それが判らないと争いになりかねない。判りさえすれば代案なり対価なりを考えれば良いのよ。今は相手の国家体制すら知らないのだからな。
聞いているとどうも領地と言うほど広くないらしい。
どうやら合議制のような運営をしてるようだが、外部の人間と一切交流も無く当然担当も居ないとの事だ。反対してる二人の長老はどうしても近づけたくない場所があるらしい。知らないし、興味も無いので問題なし。海の方は若干交渉が必要そうだった。
交易の反応は微妙だった。
欲しいものが特に無いらしい。
事前交渉が終了して帰えろうかと思ったのだがロァヴェルナさんにエルフの里にお招きされた。
「まだ交渉中ですけど良いのですか?」
「大人数で来てたら招けないでしょうけど、少人数だしもう少し話しをしましょう?」
俺は構わないが、流石に全員は拙い。帰って来ないって事が問題になりそうだ。それを伝えると帰宅組は送ってくれるそうだ。
「では、文官の一人と護衛一人をお願いします」
「俺が送ろう。入口で良いのか?」
「ええ、近くまで迎えが来てると思うのでそれでお願いします」
途中でロァヴェルナさんを呼びに行った人が送ってくれるらしい。
二人には残りの人が無事な事と交渉内容を伝えてもらう事にした。
「じゃ、行こっか」
案内に従い歩いていると木々の隙間から在り得ない程大きな木が見えた。
騒ぐわけにもいかず、そのままエルフ達に付いて行くと森を抜けたタイミングでかなり大きな樹が生えていた。
「凄い!」
それ以外の感想がでないほどに凄い……
「これは……」
一緒に来た護衛や文官も絶句である。
「この樹を狙って来たのかと思って警戒していたのだけれど」
「狙うって言っても、これ、人間の手でどうにかなる大きさじゃ無いですよね?」
森の切れ目はこの樹の枝が茂ってる部分でできていた。だからこそ、真上は既にでかい樹の枝の下。一番下の枝の生え際ですら2、30階のビルの高さだ。色々とおかしいだろ。
「山の方から見えなかったの?」
「周りの木が高すぎて、空すら見えなかったですから。山に登れば見えたかも知れないでしょうけど、植物を探して居たので平地の探索をしていました」
「なるほどね」
「この樹ってこう言う種類なのですか? それとも魔法か何かで育てたのですか?」
「多分こう言う種類ね」
「世界は広いな~」
「あはは。そうね、広いわね。ふふふ」
いや、ほんとファンタジー過ぎだろ。何でこんなに大きな枝、支えれるんだよ。
「そう言えば、近づけたく無いってこの樹の事なんじゃないのですか?」
最初に対応してくれた男性エルフに訊ねる。
「そうだな。まぁ、今行く集落が樹に近いって言っても、それでも魔法が届かない程には離れてるんだよ」
「反対しているお二方に怒られませんか?」
「あの人らは樹に影響が無ければ何も言わないさ。大半は若手に丸投げだしな」
「農家なのですか?」
「ははは。ま~、似たようなものだな。花が咲き、実が生るのをずっと待っているのさ」
「あ~ 邪魔する気は無いとお伝えしただければ助かります」
「伝えておくよ」
今日は生まれてから一番のファンタジーだと思うわ。
北欧神話の樹か何かだろうか?
よく枝も折れずにここまで大きくなるものだ。
エルフ呼ばわりしてますが、主人公は確信している訳ではありません。
耳が長い美形なのであだ名のようなつもりです。
判ってるのは異種族っぽいってだけです。
森の開けたところからでも集落の大きな木は見えていません。
この世界の木は上にどんどん伸びるため視界が確保できません。
木が強いので横に伸びても光が得られず、結果上にしか活路が無いのです。
森は真っ暗で無く、クラウンシャイネスがあり光が薄く入っています。




