2-31 次の街へ
「それではお父様、お母様、行ってまいります。チルも長い間ありがとう」
そう言ってセレンがカーティラさんとサリー、ずっとお付きとして仕えていたチルさんに挨拶する。
「セレン、昨日も散々言ったけど体には気を付けてね。それと二人にはあんまり迷惑かけちゃだめよ。ギンジさんシルフさん、世間知らずな子だけどよろしくお願いします」
サリーさんがそういって俺たち3人に順番にハグをする。カーティラさんはずっと無言のままだ。チルさんはサリーさんの後にセレンと抱き合って何か話をしていた。
挨拶を済ませると用意してもらった馬車に乗り込んで御者台にはとりあえず俺が座る。一頭立てで引く小さめの馬車だが3人だし行商するわけでもないので十分だ。馬は牧場の人と相談しておとなしいが若くて健康そうな1頭を購入した。
馬車に乗ったシルフとセレンに確認を取って俺は馬に合図を送り馬車を走らせる。
そうして俺たちはリアンクルを後にして次の街へと向かった。
リアンクルを出立する前日、領主邸での夕食はいつもより豪華だった。領主の一人娘が街を出るんだからそりゃそうか。
御者の訓練の目途が付いたので出立する日を決めるとそこからは準備に追われて少しバタバタとした。とりあえず交友があった街の人達に挨拶に回った。教会のシスター・子供たちや魔道具屋の猫耳店員、あとノイルにも一応挨拶をした。俺に火の魔法を教えてくれたスタンさんの食堂にも顔を出した。「もっと早く来い」と怒られたが若いからもっと食えと注文以上の料理を振る舞ってくれた。シルフが火の魔法を見せると「こんな可愛い嬢ちゃんなら俺が直接教えたかったぜ」なんて軽口を叩いていた。
あとは必要そうなものの買い物をしたが行く先々で武闘祭の件で色んな人に話しかけられて大変だった。サービスしてくれる人もいればこれを機会にとあれこれ売りつけようとする商い魂たくましいひともいた。買い物を済ませて魔法や剣の訓練をして気が付いたらもう出立の前日であった。
「それでは3人の旅の無事を祈って乾杯!」
カーティラさんが音頭を取ってくれて乾杯をする。セレンも家を出ることが決まってからは家の使用人達と別れの挨拶をする日々だったのでずっと目を真っ赤にしていた。今も「この料理もしばらく食べれなくなりますわね」と少し寂しそうにしている。そうだ。明日からはこんなしっかりした料理も毎日食べれないし風呂もどうなるか・・・。お湯は出せるから小さくても風呂桶みたいなものが用意出来れば出先でもお湯に浸かれるか。考えておこう。
食事が終わったら領主家族の3人が思い出話をしているのを横で聞きながらお茶を頂く。そして明日に備えてそれぞれ部屋でしっかり休むように言って夕食はお開きとなった。
部屋に戻ると少しして使用人の人が部屋に来て呼び出された。
呼び出された応接室にはカーティラさんとサリーさんがいて呼び出されたのは俺だけのようだ。
「失礼します」
そう言って部屋に入るとすぐにサリーさんが抱き着いてきた。
「ギンジさん、本当にありがとうございます!」
「いきなりどうしたんですか!?」
旦那さんの前でいきなり抱き着くのはまずくないですか!?と思ったがカーティラさんは特に表情を変えずこちらを見ているだけだ。
「娘と・・・セレンとあんな風に剣を打ち合える日が来るとは思っていませんでした」
「そのことですか」
「それだけではありません。魔法のこともですし、何よりあの子がこの先の人生をきちんと自分の足で歩いて行けるのはギンジさんのおかげです。何度お礼を言っても足りません」
そう言ったサリーさんは涙を流しながら俺に頭を下げる。
「ギンジ、俺からも礼を言う」
カーティラさんも深く頭を下げる。
「わかりましたから!二人とも頭を上げてください!!」
二人を落ち着かせてとりあえず3人で席につく。
「俺もこの家で散々お世話になりましたから。そんなに気にしなくても大丈夫ですよ」
「それでも何度言っても足りない。親っていうのはそういうもんだ」
「そうですね。あの子が大人になってどうやって生きていくのかずっと不安でしたから」
「そうですか・・・」
さすがに親の気持ちは分からない。
「とにかく今日で最後だからな。きちんと礼をい言っておきたかったんだ」
「そうなんです。ギンジさん、本当にありがとう」
「わかりました。でもそれならセレンを連れて行っても本当にいいんですか?」
「あの子がやりたいことができるようになったのならそれが一番です。でも武闘祭で戦う姿は少し見たかったですわね」
「確かに、あれだけサリーと打ち合えるんだ。俺も見たかったな。まぁ一生里帰りしないわけでもないだろ?リアンクルに戻る時は節末の時に滞在できるように戻ってきてくれ」
「分かりました。でも俺はもう出ませんよ?」
「ハハハ!武闘祭が無くたって絡んでくる若造がいるんだからそれは無理な話だ!」
「そうですよ。領主の娘を貰うんですから、それくらいの覚悟はしてもらわないと」
「やっぱり俺とセレンの関係ってそういうことになるんですか?」
「それはギンジさんとあの子が考えることですよ。ただ私達を含めて周りの目から見ると年頃の女の子を家から連れ出すんですから、まぁそういうことよね」
「セレンを悲しませないなら好きにしろ。親としてその覚悟がなければついては行かせるわけがないだろ」
「シルフさんもいらっしゃいますから、そういうことも2人としっかり話してね。ギンジさんのことだから2人じゃなくなってるかも知れないけど」
「そんなことは・・・ありますかね?」
「それは知らん。お前の人生だ」
そりゃそうですよね。
「ただ、お前の人生がここでセレンと関わってくれたことを俺は何よりも嬉しく思っている。この先も誰かの人生を変えるような場面がたくさんあるだろうが、ギンジのやりたいようにやればいい」
「ありがとうございます」
「それじゃあ明日のこともありますしこの辺にしておきましょう。ギンジさんも休む前にごめんなさいね」
「いえ、俺も出立前にお二人とちゃんと挨拶したかったので」
そう言ってカーティラさんと握手をし、サリーさんにハグをされた後「失礼します」と言って部屋を出る。
「あれっ?」
部屋の扉を開けるとそこにはシルフがいた。
「シルフさんともちゃんと挨拶したかったから呼んだのよ」
サリーさんが部屋の中から説明してくれる。シルフはなんで呼ばれたのかまだ分かってないのと俺と一緒じゃないと分かって少し不安そうだ。
「明日には街を出るから挨拶されるだけだよ」
「そうですか。ギンジさんはもう済まされたんですか?」
「うん、俺はもう話終わったから。そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
「はい。それではギンジさん、おやすみなさい」
「うん。シルフもお休み」
そう言ってシルフと入れ替わるように部屋を出て俺は自分の部屋に戻って眠りについた。
馬車に揺られながらそんな昨日のことを思いだしていた。後ろの荷台の中ではシルフとセレンが会話しているようだがこちらまで内容は聞こえてこない。
街を出るまでは色んな人に声をかけられた。後ろは見えないが荷台の後ろからセレンが顔を出しているようだ。どうせなら御者台に座らせれば良かったな。
街を出る門まで来たら衛兵さんに挨拶して街を出る。こちらはお世話になった牧場もあるからな。しばらくは見慣れた風景だが少ししたら全く知らない風景に変わっていく。
次の街までどれくらいかかるだろう。まずはカーティラさんに頼まれたお使いを済ませないといけないな。
馬車の荷台から聞こえる女の子の会話と馬車の揺れる音を聞きながら俺はリアンクルの街を後にした。
読んでいただきありがとうございます。
今回の話で2章終わりとなります。もしかしたら1日か2日投稿が止まるかもしれません。できるだけすぐに3章を開始したいと思っています。
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