2-23 リアンクルの節末祭
「こ、これはですね、私たちに何かできることはないかとセレンさんに相談したらサリーさんに聞いてみようということになってですね」
「お母様に聞いたら私が結婚する時に教えようと思っていたらしいんですが良い機会だからと教えていただきましたわ」
「私は恋人とかそういうのではないんですが、母親が戦に向かう息子にしたりもすると聞いたので、そのギンジさんは家族のようなものですから」
「シルフさん今更誤魔化しても仕方ありませんわ。ですがギンジさんのお気持ちもございます。私もシルフさんもギンジさんと恋仲というわけではございませんが、それくらい大切に思っていることを知っていただけたらと思います」
森に来て周りに人もいないので先ほどのおまじないのことを聞こうとしたらシルフとセレンが息をつく間もなく説明してくれた。
「ありがとう。できるだけ怪我をしないように頑張るよ」
とりあえず今はおまじないのお礼だけ伝えておく。その先のことは今はまだいいだろう。シルフもセレンもまだ子供とされる年齢だ。
「はい、それでは採集してきますね」
「ギンジさん、チル、護衛の方よろしくお願いいたしますね」
二人が採集を始めたのでチルさんと共に周りを警戒する。
「チルさんはこのおまじないはご存知でした?」
「はい。獣人は自分の毛で作った装飾品を恋人や家族に渡したりすることもありますが半獣人だと中々難しいのでこういったおまじないが生まれたと聞いたことがあります」
毛を編み込んでミサンガのような組み紐を作ったりするんだそうだ。
「今は命がけの戦もあまりありませんし、例えば今日の武闘祭に出る若者は恋人がまだいない者が多いので最近はあまり見かけませんね。子供の部でしたら母親が行うこともありますが」
「じゃあこれって結構目立ちますか?」
「ギンジさんくらいの体格の只人が武闘祭に出てるのを私は見たことがありませんし、その上あのノイル様に挑むのですから、おまじない関係なく目立ちますよ。」
「そうですか」
確かにその通りだ。ヘルムゲンの衛兵と比べても俺の体は大きいわけでもないし筋肉もりもりというわけでもない。
「それとですね」
チルさんが少し言いにくそうに付け加える。
「'血の盾'を複数の方が一緒に描くなんて聞いたこともありません」
少し呆れたようにそう言った。
採集を少し早めに終わらせてシルフとセレンの訓練を森で行う。今日はこの後の予定がどうなるかわからないし、剣も魔法もできるだけ毎日やっておきたいからな。
木剣は持って来てなかったので俺とシルフの剣を3人で回して素振りや打ち合いを行う。セレンの動きは日に日に良くなってきていて数日前まで剣を振れなかったなんて信じられないほどだ。
魔力共有も二人に行いそれぞれ火と水の魔法を感じてもらう。もう少したったら使う練習をしていこう。シルフは水の魔法の操作は大分なれたようで手元なら刃のように薄くできたし、形を気にしなければ投げつけたりできるようになってきた。
シルフはセレンの身のこなしを、セレンはシルフの魔法をお互い褒め合っている。うん、やはり一緒に訓練をするのは相乗効果があっていいみだいだ。
森から戻って魔道具屋に向かう。やはり街は賑わっていて街の中心に向かうほど密度が上がっていく。もう始まっているのか分からないが武闘祭が行われている広場はかなり人が多いだろう。
「こんな日にも来るなんてお二人とも真面目ですね~」
猫耳少女店員がそんな風に言う。確かに魔道具屋の中には他のお客さんはおらず静かだ。
いつも通り買い取りをしてもらい店を出ようとすると店員さんが俺のそばに歩いてくる。
「お兄さん武闘祭出るんですね~。店番がなければ応援に行くんですが~」
なぜそれを!?と思うと俺の左手を見ている。そりゃこんな日にわざわざこんなおまじないをしてるとなれば武闘祭に出るとしか思えないよな。
「まぁちょっと腕試しにね」
「余裕ですね~。頑張ってくださいね~」
店員さんにも(ゆるい)激励をいただいて魔道具屋を出る。
そのまま近くにあった食堂で腹ごしらえをした後、武闘祭の行われている広場に向かう。
やはり昨日の子供の部よりも人が多く広場に着く前から歓声が聞こえていた。
「やっぱり席はなさそうだな」
客席はほとんど埋まっているので4人でまとまって座れる場所はなさそうだ。
「それでしたらお父様のところに行ってみましょう」
セレンがそう言って昨日カーティラさんがいた偉い人用の席に向かう。そちらの席の方を見るとすでにサリーさんも来ていてこちらに気づくと手招きしてくれた。
「あなたたち、早くこっちに来なさい」
「お母様!私たちもここで見ていいんですか?」
「席取りもせずにこんな時間にきて客席にが空いてるわけがないでしょう」
サリーさんが呆れたように言う。
「セレンとシルフさんはここで見るといいわ。ギンジさんは出場者用のスペースがありますからそちらに。わかるかしら?」
「はい、昨日少し顔を出しましたので」
「そう。ならそっちで待機して。参加は好きな時にできるから」
そう言って関係者席から追い出されてしまった。好きな時に参加できるってどんな感じなんだ?参加したくなったら列に並ぶとかそんな感じかな。
出場者の控えは周りを幕のようなもので囲ってあって、一応中からも戦っている舞台の様子が見えるようになっている。控えのスペースの入口のところに門番のように係りの人が立っている。あの人に聞いたらいいか。
「ギンジさん、待ってください」
と後ろから追いかけてきたセレンが声をかけてきた。チルさんも一緒だ。
「刃物はダメですので剣を預かって来いとお母様が」
ああ、腰に剣下げたままだもんね。わざわざ追いかけて来てくれて助かる。
「ありがとう。わざわざごめんね」
「いえ、それではシルフさんと一緒にあちらから見ていますので」
「おう、耳無しのにーちゃんじゃねぇか」
俺の剣を受け取ったセレンが関係者席に戻ろうとしたところで横から声がかかる。
「ノイルさん、お久しぶりです」
そう、以前街で絡んできたライオンの獣人のノイルだ。まだ戦ってなかったのか。
「女連れでこんなとこに来るなんて良い身分だねぇ。ん?まさかお前も武闘祭に参加するのか?」
本当に見学に来たと思っていたのか揶揄うように声をかけてきたが俺の左手を見ると少し表情が変わった。セレンは声をかけられた時から俺の後ろに隠れている。
「女連れで来た上にそんな意味も無いお守りまで描いてくるなら参加しない方が身のためじゃないのか?」
「ご心配ありがとうございます。せっかくのお祭りなんで参加してみようかなと思ったんですが、出ない方が良いですか?」
「お前がいいなら出ればいいさ。耳無しでも倒せば1勝だ。誰かの賞金の犠牲になるんだな」
そう言ってノイルはガハハと笑った。
「ギンジさん、やっぱり参加されるの辞めませんか?」
俺の後ろに隠れていたセレンが俺の服を引っ張りながら話しかける。
「ガハハ!お嬢様の方がよく分かってるじゃねぇか!お守りだけじゃ心配だってよ!」
セレンの意見にノイルも笑って賛成する。
「心配なのはギンジさんではありませんわ。ギンジさんはこんなところで武を示さなくても問題はありませんがノイル様はギンジさんに負けてしまいますと何も無くなってしまいますわ」
「ああ!?なんだって?」
「武の強さというのは素晴らしいことだと思いますが人間の価値というのはそれだけではありませんわ。それなのに武の強さが全てであるかのように振る舞った挙句、馬鹿にした相手に負けてしまってはノイル様の立場がなくなってしまいますので。私はそれを心配したんですわ」
「・・・本気で言ってんのか?俺がこいつに負けるって?」
セレンが煽りノイルがそれに乗る。
「私には武のことは分かりませんが、お父様はギンジさんが武闘祭に出ることに反対はされませんでしたわ」
「カーティラのおっさんが?こんな耳無しを?」
「先ほども言いましたが馬鹿にするのは勝負が付いてからの方がいいと思いますわ。負けた時に格好悪くなるだけですわよ」
「そこまで言うなら白黒つけようじゃねぇか。兄ちゃん、ここまできて辞めるって言わねぇよな?」
「まぁ元々出るつもりではありましたが。ただ何回も戦うの面倒なんでノイルさんが舞台にいる時に挑戦させてもらいます」
「フン!じゃあ待ってるから絶対逃げんじゃねぇぞ!」
ノイルはそう言って控えの幕の方に歩いて行った。セレンも前に街で会った時はビビってたのになんでこんな急に。
「セレン、なんであんなに煽るような真似を」
「あら?いけませんでしたか?」
「ダメじゃないけど前と全然態度が違ったから・・・」
「本当の武闘祭ではギンジさんが戦いますのでこちらは私がと思ったんですわ」
「こちら?」
セレンが得意げにほほ笑む。
「ええ、口喧嘩ですわ」
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