2-22 おまじない
「いつ行ってもいいんですか?」
「ああ、昼から始まって後は勝ち残りだからな。一応連勝した数で賞金や賞品はあるが最後の勝ち残りを目指す本命達が参加してくるのはあとの方だ。始まった直後はそいつらと戦わずに勝ち数を稼ぎたい奴ばかりだよ」
朝食の時、武闘祭に参加するにはいつ行ったらいいかカーティラさんに聞いた。じゃあ大本命であるライオンと戦うには遅めに行った方がよさそうだな。
「もし僕がノイルを倒したらその後たくさん挑戦されますかね?」
「勝ち方にもよるだろうがノイルを倒してはい終わりってことはないだろうな。少なくともノイルとはもう1戦することになるだろう。それを退けたあとはまぁ場の空気次第だな」
うーん。正直ライオン以外はどうでもいいんだよな。別に賞金目当てでもないし強さを誇示したいわけでも無いし。でもルールだから仕方ないか。
「ノイル以外が相手でも別に勝つのは問題ないんだろ?」
「多分大丈夫だと思いますが、単純に何回も戦うのが面倒と言いますか」
「じゃあノイルをあまり負傷させないことだな」
「ノイルを?どういうことですか?」
「ノイルがピンピンしてるならギンジを倒したってすぐにノイルが挑んでくるだろ?そもそもノイルの勝てるならギンジがノイルと戦う前に舞台の上に立ってるのは別の奴になってるだろ」
「ああ、僕に勝ってもすぐに負ける上にその相手がノイルとなると僕に勝つ価値もあんまり無い感じなんですね」
「そういうことだな。上手くいけばノイルに挑むのとノイルが挑んでくる2戦勝てば終わりだ」
それで終わるなら楽だな。どちらにせよ会場に行くのは昼すぎてからでいいみたいだ。
「それじゃあ今日の採集はどうしようか?」
どうせ暇だからシルフにいつも通り採集に行くのか尋ねる。
「え!?行ってもいいんですか?ギンジさんが武闘祭に出られるのでしたらお休みした方がいいかなと思っていたんですが」
「午前中にちょっと活動したくらいで勝敗が変わるような相手なら初めから戦わないよ」
「私はどっちでもいいんですが、本当にいいんですか?」
「構わないよ。それじゃあ採集に行こうか。今日は魔道具屋って開いてるんですか?」
今日は安息のイドの日だが節末祭なので店は基本的に開いてるはずだ。でも一応確認のためカーティラさんに尋ねる。
「今日休むような商売人はこの街にはいないさ。まぁこんな日に朝から森に素材拾いに行く奴も俺は見たことないがな」
買い取りしてもらえるならいつも通り採集してもよさそうだな。じゃあいつも通り採集に向かおう。
「セレンもいつも通り一緒に来れる?」
「もちろんですわ!私が一緒だといけませんか?」
「いや、そうじゃなくて一応節末祭だしね、祭りの方に行きたいとかがあれば無理しなくてもいいから」
「ギンジさんとシルフさんが一緒なら祭りも楽しそうですが一人で行くなら一緒に森に行った方が楽しいですわ」
「それなら一緒に行こうか」
というわけで節末祭の日ではあるがいつも通り4人で森に向かうことにする。それぞれ部屋に戻って準備したあと玄関前に集合する。
「ギンジさん、ちょっと待って」
そう言ってサリーさんが出かけようとする俺たちを呼び止める。
「採集に入った後は屋敷に戻らずそのまま武闘祭の方に行かれるのよね?」
「はい、そのつもりですが戻ってきた方がいいですか?」
「いえ、構わないわ。ギンジさんは利き手は右手かしら?」
「はい。右利きです」
サリーさんが目で合図をすると使用人の人が小さい瓶を持ってきた。
「それじゃあ少し失礼するわね。シルフさんとセレンもこっちに来て」
サリーさんはそう言って俺の左手を手に取るとシルフとセレンが瓶に入った赤い液体を指に取って俺の左手の甲に何か模様を描く。3人の女性が俺の左手をもみくちゃにしている。少しくすぐったい。サリーさんが二人に指示を出して模様を完成させていく。3人が手を離すとそこには五角形が描かれていて、その中に文字のような模様が入っている。
「これはいったい・・・」
「戦いに向かう男性へのおまじないね。一緒に戦いに向かえない恋人や妻が男の人を送り出す時に利き手と逆の手に盾を描くのよ。一緒に行けないけど『どうかあなたを守ってくれますように』と願いを込めてね。二人には昨日教えたばかりだからちょっと見栄えが悪いけど、きっとギンジさんを守ってくれるはずだわ」
説明の『恋人が』に反応してシルフもセレンも少し顔を赤くしている。
「ありがとうございます。これがあれば百人力ですね。シルフとセレンもありがとう」
「それと私も武闘祭を見に行くから、私が会場に行くまで戦っちゃだめよ」
「わかりました。サリーさんの姿を確認してから参加します」
「それとこれは私からのおまじないね」
そう言ってサリーさんはすっと俺に近づいて軽くハグをした後、頬にチュッとキスをした。
「ええええぇ!!!?」
「ちょっとお母さま!?」
急なことに俺は反応ができなかった。シルフとセレンが声を上げている。
「お母さま!そんなおまじないは聞いたことがありませんわ!」
「サリーさん!旦那さんがいるのにそんなこと!!」
「あら、武闘祭で常勝無敗だったカーティラの妻のおまじないなのよ。何よりも効くはずだわ。それに頬へのキスなんて家族なら別におかしくないわ。ギンジさんはもう私の息子みたいなものなんですから」
「かかかか家族って!私とギンジさんはまだそんな関係では」
「'血の盾'を捧げておいて何を言ってるの」
「それはそうですが」
「というわけでギンジさん、セレンのことをよろしくお願いしますね。もちろん、シルフさんもよろしくお願いしますね」
何か俺の知らないところで話が進んでいる気がする。シルフもセレンも顔を赤くしてテンパってるし、それでもサリーさんのキスへの文句を言っている。
「ほら、さっさと行かないと時間がなくなるわよ。チル、3人のことよろしくね」
「かしこまりました」
「それじゃあいってらっしゃい」
そう言って手を振るサリーさんに見送られながら森に向かったが、俺は左手のおまじないも頬のおまじないもまだ頭の整理がつかないままだった。
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