2-5 白虎のおっさん
少し遅れました。
「僕ですか?」
自分じゃなければいいなと思いながら確認する。
ただ周りにそれっぽい人はいないし、背の高い獣人と俺がの目が合っているので声をかけられているのは俺で間違いないんだけど。シルフは俺の後ろに隠れて俺の服を掴んている。
「そうだ、兄ちゃん。兄ちゃんこの街のモンじゃないだろう?」
「確かに昨日リアンクルに来たばかりです」
受け答えをしながら観察する。身長は2mくらいありそうだ。軽装ではあるが金属でできた防具を見に付けてて腰には剣を下げている。一緒にいる半獣人の人も体がゴツくて強そうだ。強そうなんだけど獣耳が生えているので違和感がスゴイ。獣耳おじさん。いや、油断はだめだな。急な不意打ちに対応できるように気の流れには気を付けておかないと。
「そんなに警戒しなくていいぜ。と言っても兄ちゃんも腕には自信がありそうだな」
俺の目線を感じたのか顔の前でパタパタと手を振ったと思うとニヤリとしながら言った。
「そんなつもりはないんですが・・・なんでそう思うんですか?」
「そんなに分かりやすく警戒する割に逃げないからな。獣人を警戒する只人はいきなり声かけられたら走っていっちまうもんよ」
「ただひと・・・?」
「いやいやいや、俺は別に亜人至上主義ってわけじゃないぜ。分かりやすいから使ってるだけで」
白虎のおっさんは勘違いされたくないのか少し焦って否定する。しかしそもそも只人という言葉も亜人至上主義という言葉も初めて聞いたからピンと来ていないだけだ。
話を聞くと只人というのは俺みたいな獣人や他の種族の特徴を持たない人のことらしい。'只の人'ってことか。まぁこういう会話だと表現する言葉が無いと不便だな。シルフの方を見ると顔をブンブンと横に振っていたのでシルフも知らなかったようだ。
「説明してもらってすいません。ヘルムゲンではその・・只人ばかりだったのでそういった言葉を聞いたことがなかったもので」
会話を続けるうちにこの白虎のおっさんに敵意はなさそうなので正直に出身地を告げる。
「ああ、あっちから来たのか。獣人であっちに行くやつは街は素通りして森に行くだろうからあんまり見ないだろうな」
ヘルムゲンってもしかして田舎的な街なのか?他の街が分からないからこの世界ではあれくらいが普通だと思っていたが。
「それで、結局何の用だったんですか?」
「ああ悪い悪い。普段はこんな風に話すことはあんまり無くてな。声をかけても走って逃げちまうか殴りかかって来るような奴ばっかりで」
「噂の街の喧嘩ってそれですか?」
「そういう噂を知ってて逃げなかったのか!兄ちゃんは肝が据わってるなぁ。実際こんな風に声かけた結果そういうことになることもあるが、喧嘩なんてそんないつもやってるわけじゃねぇよ。ただ酔った奴らが腕試しっていって道端で手合わせ始めちまうからな。多分それのことだ。それだってほとんどが獣人同士だ」
獣人って脳筋なのか?いや、俺の兄もそんな感じだったな。格闘家も戦士もそんなやつばっかりなのか。むさくるしい男同士の戦いをしたがるなんて俺には理解できない。
「とにかく、これくらいの時間は呑んでるやつが街にたくさんいるから気ぃ付けてな。理由も無く絡まれることは無いと思うが兄ちゃんも無駄な争いは望んじゃいないだろ?」
「それはもちろんです。今日はたまたま教会の方で夕飯を頂いたのでこの時間になってしまいました。今後はできるだけ夜の出歩きは控えます」
「教会?なんでまた教会で飯を?隣街からわざわざ来ておいて金が無いのか?」
教会出身なこと、教会の子に何かしてやれることが無いかと思って訪ねたこと等を話すと急に両手を振り下ろされる。何とか反応して後ろにいるシルフの腰を抱いて斜め後ろに避ける。
白虎のおっさんは振り下ろした両手が空を切って少し驚きながらも今度はゆっくりと俺の両肩に手を置いた。
「兄ちゃんただもんじゃないと思ったけど今のを避けるとはなぁ。いや、そうじゃなくてわざわざ教会の子供に会いに来てそのうえ色々世話焼いてくれるなんて、普通の男にはできねぇ。ありがとうな」
そう言いながら俺の肩をバシバシ叩く。痛い。俺はおっさんの叩く手を受け止めながら
「いえ、僕たちがやりたくてやっていることなんで。おじさんにお礼を言われることではないです」
「いやいやそうはいかねぇよ。人のためってのは思っても中々やれるもんじゃねぇ。俺だって街のために色々考えているが全部を見れるわけじゃないからな。教会なんてのは特にシスターがいるしあんまり気にしてなかったからそういうところを気にしてくれるのは助かるぜ」
話がなんか変だな。もしかしてただのおっさんじゃないのか?
「おじさんって役場の人とかですか?」
「ああ、そういえば名乗ってなかったな。俺はカーティラ=リアンクル、この街の領主だ」
「えっ!?」
街の一番偉い人だった。
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