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現在進行 鳥の国 1  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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22 鳥の国から  ミミズおわんいっぱい  1997年12月

すずがも通信107号 鳥の国から  ミミズおわん一杯  1997年12月


 10月21日以降に観察舎にいらした方、ぴかぴかにすきとおった窓に気づかれたでしょうか。実はこれ、東京電力の市川浦安営業所のみなさんが、地域サービスでやってくださったことなのです。

 3階外側の窓ふきは、観察舎新館のオープン以来、18年に渡る懸案事項でした。正直なところ、無理だ、とあきらめてから10年以上になるのではないでしょうか。初めのうちは主人が窓わくにまたがり、身を乗り出して拭いていたのですが、はめころしになっている横手の窓は、手の出しようがありません。時間と体力と身の危険にかんがみ、あきらめました。

 「電線補修の車を出して拭きますよ。老人いこいの家などでもやりましたから」

 窓ふきボランティアというありがたい話が降ってわいた時には、びっくり仰天。まごまごしているうちに実地の下見も済み、10月20日実行ということになりました。観察舎側では、準備や 告知を含め、何もしなくてよいとのことです。

 当日朝。道はばいっぱいに支えの足をひろげた2台の高所作業車。リフトが高く上がってゆきます。みるみるうちに窓の外側が拭き上げられ、いちおう掃除しておいた内側も、ぴかぴかに磨かれました。8人がかり、午後2時半までかかって、2,3階の観察窓ぜんぶがきれいになりまいた。担当の翠簾野みすのさんはじめ、東京電力市川浦安営業所のみなさん、ほんとうにありがとうございました。

 作業車で道がふさがっていた2時間余、人通りが少ない時間なのに、通行者は60名以上。静かで閑散とした観察舎前の道ですが、毎日何百人もの人が利用していることになります。意外な発見でした。

 さて、野鳥病院の仕事は目下やたらに時間がかかります。理由は「ミルワームひでり」と「ミミズ掘り」。10月19日に水元から入所したヤマシギくん。体重は250gほどですが、1日ミミズを60g食べても足りず、やせてしまいます。100g以上与えていれば、少しは体重が増えるのですが。60gのミミズというのは、片手にいっぱいくらいあるのですよ。何匹にあたるか数えていませんけれど。

 両手にいっぱいミミズを掘ろうとしたら、1時間では終わりません。来所後2週間、翼の骨折はこれ以上よくはならないだろうけど、そろそろあきらめて放そうよ、とため息。もっとも、この2日ほど、細切りにした赤身の肉片をミミズにまぜておくと、間違えて食べてくれるみたいです。

 ミルワームは「チャイロコメコクヌストモドキ」‥‥‥これであってるかしら?‥‥‥という甲虫の幼虫で、昆虫を食べる鳥の代用食として与える生き餌です。ふすま(麦を精白した粕)の中で一生を過ごすことができるため、工場で養殖され、店頭で買うことができます。九州の販売元から購入していますが、生きものであるため、時たま生産が滞ってしまうのです。ふだんは注文後1週間もかからずに届くものが、もう1ヶ月近く入荷していません。さあたいへん。観察舎でも養殖を続けていますが、日に60匹以上も食べるツバメ類が6羽、同じく昆虫食のヨタカとツツドリが1羽ずついます。できるだけミルワーム以外の餌を与えるようにしていますが、それでも日に500匹くらいのミルワームが必要になるのです。フスマを入れた養殖箱をあさりまわって大きめのを探すこと、日に1時間半。鼻水やくしゃみは出るし、いやあ、どうしよう。

 

 成田空港隣接の航空博物館から、窓を突き破って飛び込んだ、というオオタカの雄若鳥が入院中。もう完ぺきに飛べます。がんこでなかなか餌を食べてくれませんが、まもなく放せる予定。

 保護区の中のオオタカくんも、少なくとも雌の若鳥が1羽はいるはず。9月以来、セイタカシギが2羽も食べられてしまいました。もう少し実質的な獲物をねらえばいいのに、と思っていたら、ゴイサギ、ホシハジロ、ダイサギとでかいのが次々に胃袋へ。なかなかやるなあ。

 さて、保護区は秋の管理作業のまっ最中です。業者委託の天地返し終了の10日後、ひさびさにみなと池の棚田に水が入りました。コボコボ、チョロチョロと楽しげな水音をたてて、補修を終えたばかりの水路を小気味よく水が流れてゆきます。2ヶ月半もの乾燥にどうやって耐えたのか、大きなまっ赤なザリガニが最上段の棚田の穴から出てきて、気持よさそうに水中ではさみをのばしていました。

 トラクターがけ、レーキがけ、地下茎とり、あぜなおし、草刈り、草焼き、水路掘り、草とり、水質調査。乾燥した草原の湿地化をめざし、保護区の海へと淡水の流れが入る日をめざし、遠大なる夢へ向かっての体を張った作業です。ひとつひとつがなんとささやかで、その上手数のかかることか。

 それでも、保護区の中の作業は私にとってはかけがえのない貴重な時間。きついけれど、楽しい。畑のようにぽくぽくしてきた棚田の土の変化のうれしさ。空の広さ。風。

 青空にカモメが舞う季節になりました。カモメたちは導流提に敷いた砂に草がのびているのが気に入らないらしく、なかなか餌付きません。休館日の午後、3人がかりで観察舎の正面に出て草とりをしました。セグロカモメくん、翌日にはちゃっかり導流提におりてくれたではありませんか。

 けっこういそがしい鳥の国です。


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