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英雄の再臨

 



「ぎゃぁぁ――――!?」

 ドルトフは何が起きたか、理解できなかった。

 気がつくと、スパルティータは城門から砦の外に叩きだされていたのだ。

「莫迦な……さっきまでは、こんなに膂力はなかったはずである!?」

 ドルトフは機体の上半身を起こし、自分の飛んできた方向に目を向ける。

 城門から、ゆっくりとした歩調で鎧武者―サクラブライが力強く、これまでは聞こえてくることがなかった焔玉機関と配油循環器の唸りを伴い、鎧の隙間、関節の間から余剰の蒸気を吹き出しながら大地を踏みしめ、城門の前で不動の姿を示す。


 モミジ自身、先程とは打って変わった展開に我が目を疑っていた。

 しかし、先程まで自分を圧倒していた鋼鉄の戦乙女が、目の前で仰向けに倒れている姿は、紛れもなく現実であった。

「今の……私がやった……の?」

 モミジが、改めて自身の――サクラブライの腕や脚を軽く動かしてみると、自分の動きに追随し、各部に配置された油圧作動筒の動きと、それによって増幅された膂力が全身に伝わることを実感する。しかも、それでいて動きそのものは阻害せず、重量を感じることもない。

 面頬の内側から覗いていた視界も、兜に仕込まれた撮像器と受像器により、今は夜間であるにも関わらず、はっきりと見える。

 不満を強いて言えば、駆動音のやかましさと、肩部や胸部の装甲に可動域の一部が阻まれていることくらいだろうか。

 先ほどまでとはまるで違う感触に、思わずモミジは面の中で笑みを浮かべ、サクラブライの胸甲の前で、右拳と左掌をぶつけるように重ねる。

「鎧が軽い……力も感じる……これなら、いけるかも!」

「……機関は僕が操作する! 前席は戦いに専念してくれ!」

 伝声管でモミジに呼び掛けつつ、ナランもまた、機関室を確かめるように見渡す。それは、見慣れたはずの風景ではあるが、すべてが新鮮に映る。

 温度計や水量計、圧力計が適量を指し、魂魄回路は多少、異常を示す表示灯が光の点滅を繰り返すものの、機能に影響のない範囲である。また、目の前の受像器には、水容器傍に取り付けられた補助頭部の撮像器が見ている光景が映し出され、更には、前席からの映像に切り替えることも可能である。

 そう、訓練では動くことがなかったそれらの計器、装置が、今はすべてが機能を果たしているのだ。

 そして何よりナランが嬉しかったのは、自身の膝の間にある、今まではガラス蓋で閉じられただけの投火口から、焔玉がまるで今の自分、いや、ふたりの想いを燃料に変え、赤く、そして強く輝いていることだった。


「行こう!……これで、この力で砦のみんなを守るんだ‼」

「守りましょう……この街を、悪い人たちから‼」

 面頬の奧で、サクラブライの目が紅く、そして額飾りの勾玉が桜色に光る。それは、ふたりの意志が一つに繋がった証だろうか。


 スパルティータが完全に立ち上がり、回旋剣と大盾を構え直す。

 城門の前、対峙する武者と騎士を、全てのものが凝視する。

 死闘を繰り広げていた鉄甲騎も、城壁で銃撃戦を繰り広げていた兵や兇賊も、そして城門内部で騎兵隊、自警団と睨み合っていた装甲騎士までもが、目を奪われていた。

 この状況に、ドルトフは焦りを覚えていた。

 ――これではまるで大将同士の一騎打ちではないか!?

 自軍の象徴である凱甲騎の前に立ち塞がるのは、敵が[英雄]と呼ぶ存在である。特にどちらも宣言などはしていないものの、一対一で対峙するこの状況では、事実上の一騎打ちと見なされてしまうのは火を見るより明らかであった。


 古来より、大将同士による一騎打ちは、戦場に於けるクライマックスではあるが、同時にそれは鬼門とも云える。戦局がどんなに優勢でも、大将自身が敗れれば士気は低下し、指揮系統も混乱に陥り、部隊は総崩れとなるのは必須である。特に、大将の乗機が旗印にして決戦兵器である凱甲騎であれば、尚更であろう。

 最悪なことに、この手の一騎打ちは、雌雄が決するまで、手を出さないのが戦場の習わしである。つまり、援護は期待できない。

 それは、戦術が近代化しつつあるこの時代でもいまだ有効であった。

 (なまじ)、鉄甲騎などと云う象徴的な兵器が存在するが故に、一騎打ちという行為は、暫くは戦場に於ける慣習として残ることになる。

 従って、本来であれば大将は無闇に最前線へ出てきて良いものではない。

 無論、状況によっては、それも必要になることもあるのだが、このスパルティータの単騎駆けのように、裏目に出ることもあるのだ。


 ――ここで我が輩が敗れたら、我が軍は一気に敗北する……

 そう感じたドルトフだが、もはや後には引けなかった。

「……蒸気兵装(ロコモアーム)への充填(チャージ)はどうなっておるか!?」

 ドルトフに問われ、機関士が慌てふためきながら、投げ飛ばされた衝撃で作動した安全装置を解除し、装填を開始する。

「まだ、我が輩には回旋剣(スピネイバー)がある……これできゃつめを粉砕すれば……」


 その動きをナランが察した。

「前席! 充填が終わる前にあいつをやっつけるんだ!」

「は、はいっ!!」

 ナランの指示に、モミジは反射的に返事をしてしまいながらも、「借ります!」と、近くのリストールから長柄斧を取り上げ、戦闘態勢を整えつつある戦乙女に向けて一気に駆け出していく。

「おりゃあ――――――!!」

 雄叫びを上げるサクラブライは、右に腰を捻り、長柄斧を八相に似た構えから、一気に大きく振り下ろす。

「なんの!?」

 そのわかりやすい攻撃を、大盾で受け止めるスパルティータだが、

「ていっ!」

 と、弾かれた勢いを逆用した、石突きによる返し技で足を掬われそうになり、それを回旋剣で払い除け、その勢いのまま飛ぶように、斧の間合いの内側に踏み込み、左手の大盾を振り回してサクラブライの胴体を殴りつける。

「わ、わわわ、わ――――――っとっとっと……」

 その攻撃をまともに受けたモミジは数歩ほど後退し、それでもなんとか持ちこたえる。装甲のおかげで痛みは殆ど無いものの、衝撃のためか、武器の構えがうまく取れない。いや、体のバランスが取れないのは、敵の攻撃だけが原因ではない。

「後ろの男の子さん! なんか、右左のバランスがおかしいんですけど!?」

「怒鳴らなくても、聞こえるよ!!」 

 機関室の中に反響するモミジの声に耐えながら、ナランは配油器と蒸気分配器の調整を続ける。

「慣らし運転もしないから……調整が全部狂ったままだ!」

 文句を言いながらも、ナランは計器類を見ながら、弁を回し、活栓を捻り、接続槓桿を動かして出力、圧力の均衡を調整し、各分配機と電磁弁の開閉器のオンオフを切り替え、油圧配分を安定させる。

「どこをどう動かせば良いかが手に取るようにわかる……まるで、機関と一体になったみたいだ‼」

 焔玉機関を意のままに操れる感触に酔いしれるナランは、自身が機関そのものになったような感覚を受ける。

 一方のモミジは、調整のための時間稼ぎをするべく、距離を取りつつ、盾のない右側に回り込もうとするが、スパルティータも左に一歩ずつ移動するため、膠着状態となる。



 その一騎打ちの最中、沈黙を破って砦に攻撃を仕掛けた者たちがいた。

 ゼットス一党の生き残りである。

 彼等は、ゼットスの生存を信じているのか、あるいは、実はどこからか指揮を受けており、戦闘意欲を維持していられるのか、ドルトフの危機とは無関係に城壁へとよじ登り、あるいは城門から砦内側に攻め込み、隙あらば小型の投擲爆弾を投げ込もうとする。

 今の彼等にとって、スパルティータとサクラブライの一騎打ちなどどうでも良かったのだ。

「奴らを壁からたたき落とせ!……爆弾を投げさせるな!!」

 ドルージの指揮の下、狭間や銃座、砲台や破壊された穴から守備兵や砲兵が反撃を試みるが、先の爆発の被害も大きく、さらには敵の機関銃による援護により、思うように反撃できない。

 頼みの騎兵隊や自警団も、城門より突入してきた兇賊に加え、後れを取るまいと攻め立て始めた装甲騎士に梃子摺っていた。

 数では勝るものの、騎兵隊、自警団ともに立て直しの不完全な所を突かれ、ドルトフならびにスパルティータ健在という状況により、高い士気を保ち続ける装甲騎士に押され気味となっていたのだ。

「せっかくの逆転の機会が……」

 ようやく顔を起こしたシディカだが、好転しない状況を嘆く。

 であれば、と、ドルージはリストールの方に目を向けるが……

「こ、これは……」

 城門傍のリストール三騎と城壁内側の二騎は、いつの間にか網が被せられていた。本来であれば、脚甲騎といえど、この程度で動きが止められるものではないのだが、もとより動くことが叶わぬまでに叩きのめされた機体では、この網すら破り抜ける力さえ残されていなかった。

 そしてバイソール二騎も、ドルトフの予想通り、ガイシュもろとも過剰充填の終了により、機能低下に陥っていた。砦に駆けつけようにも、ガイシュ四騎に阻まれ、思うように動けない。完全に泥沼と化していたのだ。


「そうである……まだ、勝機は消えてはいないのである!」

 操縦室で、ドルトフがニヤリと笑う。

 その直後、スパルティータが先に仕掛けた。

 回旋剣を振り上げ、上段から叩きつけてくる。その攻撃はサクラブライが掲げた長柄斧の柄で受け止められるが、その瞬間、これまで唯の棒同然であった剣が回転を始めた。その威力は、鋼鉄の柄を粉々に粉砕する。

「え?……きゃあ――――――!?」

「わあぁ――――――!?」

 モミジの悲鳴と共に、サクラブライはその場から後方に飛び退るものの、勢い余って、尻餅をつくように倒れ込み、その衝撃は機関室のナランも巻き込んだ。

「終わりである……田舎凱甲騎(トライアン)!!」

 ドルトフの処刑宣告とも取れる声は、外殻塔に登ってきたプロイとセレイにも聞こえた。傍ではドルージが無言のまま、震える拳を握りしめている。


「これで終わりなんて……」

「ナラ―――ン!!」

 震えるセレイが手羽で口を押さえ、隣ではプロイが叫ぶ。

 また、同じ光景を、アリームとダンジュウが回廊から見ている。

「嬢ちゃんが……!?」

「あと一回くらいなら……!!」

 ダンジュウは槍を構えつつ、残された[気]の力を全身に漲らせる。

 だが、狭間に手を掛けた瞬間、一振りの短剣がダンジュウを襲う。

「何と!?」

 咄嗟に籠手で打ち払うものの、集中していた[気]が発散してしまう。

「行かせねぇよ……」

「手前ぇ……!?」

 それは、火傷で所々が爛れてはいるが、間違いなくゼットスだった。


 その間にも、回旋剣を構え、じりじりと迫る戦乙女から、サクラブライは座り込む姿勢のまま足を動かし、距離を取りつつ、手探りで武器になりそうなものを求めるが……

「……無駄だ、これ以上の奇跡は許さん、ここで終わらせてやるのである!」

 その言葉が終わる前に、スパルティータは回旋剣の切っ先をサクラブライに突き立てるように向けた。

 ――せめて男の子さんだけでも守らなきゃ……

 モミジは腕を胸元で交差させる。

「砕け散るのである!!」

 ――もう駄目!!

 その声に思わず目を瞑るモミジ。

 しかし、回旋剣がサクラブライを貫くことはなかった。

「…………え!?」

 モミジの目の前に壁が出現したのだ。


「……なんと!?」

 一方のドルトフもまた、何が起きたのかを把握するのに時間を要した。

 壁の正体は、サクラブライの盾であった。

 動力甲冑の両肩に装備されていた盾がその体を覆うように動き、回旋剣を食い止めたのだ。

 肩に装備されていたと思った長細い盾は、実は背中から伸びた補助腕に固定されており、可動式の防御システムとして使用できるのだ。


 だが、一番驚いていたのは、それを操作したナラン自身であった。

「僕は……いつの間に……」

 気が付くと、ナランは受像器の傍から突き出た――把手と思っていた操縦桿を握りしめていた。

 ――こんなもの、さっきまでは無かった……

 今はそんなことを考えている時間はなかった。

 敵が怯んだ隙に、モミジは立ち上がり、スパルティータを睨み付ける。

「今度は……負けません‼」

「馬鹿な! いくら盾が丈夫でも、貴様にはもう武器はないのである!!」

 断言するドルトフだが、またもや驚愕する羽目となる。

 サクラブライの盾が定位置に戻ったとき、彼女の手にはいつの間にか、巨大な穂身を持つ槍が握られていたのだ。短い柄のそれは、むしろ長巻に近い代物と云えた。

「いつの間に……どこから、そんなものを手に入れたのであるか!?」

「盾の後ろに分解して有りました‼」

 馬鹿正直に答えながらも、槍を構えるサクラブライ。

「おのぉれぇ‼」

 再び回旋剣を、幾度となく突き立てるスパルティータだが、そのたびにサクラブライの槍は、蒸気で動く動力剣をものともせずに受け流す。たまに槍先を掻い潜るものも、ナランの操る可動盾と、装甲を利用した受け流しで回避されてしまう。

 それでも、防ぎ続けるだけでは埒が明かない。

 無敵の盾など存在せず、いつかは防ぎきれない致命的な打撃を受けてしまうかも知れない。

 モミジとナランは、猛攻に耐えつつ、反撃の機会を伺う。

「やっぱり凱甲騎は……強い」

「でも、ここで諦めたら、みんなやられてしまいます……!?」



 その時、砦にとって更なる希望の声が戦場に轟いた。

「イバン・トノバ・ウライバ見参―――――!!」

 その声に、ドルージは再度奮起する。

「大隊長が帰ってきた!……ここで一気に終わらせるぞ‼」

 叫び続けながらも、銃を構えて城壁に取り付く敵を撃ち落とすドルージ。

 そしてシディカも、

「あ、兄上が帰ってきた……」

 と、こちらも気力を振り絞り、脂汗を流しながら術式を組み立てる。

「……城壁を登れないようにするくらいなら……」

 兄が帰ってきたことに寄る安心感からか、ようやく正常な判断を下せるようになったシディカ。

 やがて式が完成し、「転移っ‼」と、心象具現を実行する。すると、今まで蜘蛛のように登ってきていた全ての兇賊が、油でも撒かれたかのように滑り落ちて行き、しかも、登攀を再度試みることすら叶わない。

 シディカによる大技、〈無効結界〉であった。

 本来、この術は城壁のように巨大な物体に効果を及ぼすものではなく、応用技を用いたとしても、精神への負担は計り知れないものである。

 案の定、結果を見届けたシディカは、精神に限界が来たのか、その場で気を失った。


「……潮時か」

 この状況に、ダンジュウと対峙していたゼットスは、狭間に飛び乗り、城壁から外へと飛び出す。

「逃がすかよぉ‼」

 ダンジュウは回廊の狭間からゼットスを探すものの、その姿は完全に消えていた。



 そして、一騎打ちにも決着の時が訪れた。

「将軍、兵装の蒸気が切れます‼」

「なんと!?」

 その言葉通り、回旋剣の動きが止まった。

「今だ、前席! 一気に畳み掛けるんだ!」

「はいっ!」

 モミジは左の盾から一振りの剣を取りだし、それを槍の石突き側に取り付け、取り回しを確認するように振り回して構え直す。

「これで攻めます!」

 サクラブライは柄の両側に穂身を持つ双刃の槍を振り回し、右に左に、突きと斬りを交えた攻撃を何度も繰り出し、同時にナランも、補助腕を巧みに動かし、左右の可動盾を翼のように振り回して交互に殴りつける。

「とりゃあ――――――!!」

「わあぁ―――――――!!」

 初めて連携を組んだとは思えない、双刃の槍と可動盾による変幻自在の攻撃が怒濤のごとく繰り出され、スパルティータを執拗に攻め立てる。

「こ、これしきのこと、何する者ぞである!!」

 対するドルトフも、折りそうな勢いで操縦桿を動かし、機械仕掛けの戦乙女は叩きつけられる槍、盾を自身の大盾で防ぎつつ、動かぬ回旋剣を振り回して反撃を試みる。

 紺色の鎧武者と青白い戦乙女が互いの武器と盾、鎧を激突させ、大量の火花を散らしながら幾度となく鍔迫り合い、幾度となく切り結ぶ。だが、徐々にスパルティータは劣勢に追い込まれ、後退する。

 そも、凱甲騎の威光と性能にのみ頼り切っていたドルトフには、どのみち勝ち目などなかったのだ。

「ええい、出力を上げろ……充填(チャージ)はまだであるか!?」

「これで、精一杯でございます!」

 どうやら蒸気兵装は、鉄甲騎の過剰充填と比べても時間が掛かるものらしい。その上、一時的に低下するはずの出力まで維持させようというのだから、充填に更なる時間が掛かるのも無理はない。

 そんな中でも容赦なく、そして途切れなく続くサクラブライの猛攻は、やがて盾と剣による防御を崩し、スパルティータを後退させ、無敵と思われた凱甲騎の装甲に致命的な傷を与え始める。

 この状況に堪りかねたドルトフは思わず、致命的となる言葉を叫ぶ。


「貴様ら――!! 何をしておる、早く我が輩を助けるのであ――――――る!!」


 叫んでから、ドルトフは自分の言葉の意味に気付き、青ざめ、そして後悔する。何故なら、この言葉は、一騎打ちの敗北を宣言するようなものであるから……

 ドルトフはこの不用意な命令により、将軍配下の軍勢の士気を完全に低下させてしまったのだ。

 バイソールと乱闘を繰り広げていた 四騎のガイシュは、それでも敵機を振り切って、将軍援護に向かおうとするものの、

「行かせるかよ!!」

 と、再び立ち塞がる二騎のバイソールと、どうにか網を破り、立ち直った三騎と城内から駆けつけた二騎のリストールに阻まれる。


 状況は完全に砦側に有利となった。

 鉄甲騎は数の優位で押さえ込まれ、装甲騎士も騎兵隊と自警団によって阻まれ、また、息を吹き返した銃座が兇賊どもを追い散らす。何より、指揮官にして拠り所であった鎧甲騎スパルティータの事実上の敗北と、大隊長イバンの帰還が、敵全体の士気を下げ、砦側には希望をもたらしたのだ。

 ここでトゥルムが下知を飛ばす。

「ここが踏ん張り時だ! 一気に押し返せ!!」

 装甲騎士も騎兵隊も、共に下馬し、乱戦となっていた。そこに自警団が加わり、集団と集団のぶつかり合いとなる。こうなっては、機関銃をも耐えきる甲冑も意味を成さず、数で劣り、士気さえも失った騎士団は為す術もない。

 主力である鉄甲騎も同様である。本来、集団戦が得意なガイシュとはいえ、指揮系統が混乱し、連携が取れなければ本領を発揮することは叶わず、逆にイバン帰還で上昇した士気により、いくらはね除けても、何度でも挑み掛かるリストールに、出鱈目に殴りかかるバイソール、その上、的確に指揮を執り、尚かつ正確な剣捌きを繰り出すイバンが加わったのだから、勝敗は見えたようなものである。


「遅れた分は、取り返す!!」

 イバンのバイソールはガイシュの内一騎の右側面に回り込み、余剰蒸気の排気口に剣を突き立てる。

「馬鹿な!?……排気口に直接当てに来た、だとぉ!?」

 ――鉄甲騎の剣でこんな繊細な攻撃が出来るはずがない!?

 だが、バイソールの剣は間違いなく、ガイシュの脇腹―排気口を、内部の機関ごと貫き、その剣を引き抜きながら、死んだ鉄甲騎の機体を左手で押し、もう一騎のガイシュに叩きつける。

「皆!……勝利は目の前ぞ‼」

 貫かれた腹部を中心に全身から蒸気を噴き出すガイシュは、傍で戦っていたもう一機のガイシュと激突、バイソール二号機との鍔迫り合いを解く。

「大隊長……」

「大隊長!」

「サクラブライとイバン大隊長がいれば、勝ったも同然だ!!」

 歓喜の声が、戦場の隅々まで轟き渡っていた……


 [英雄]の出現に加え、大隊長の帰還により、戦局が完全に一変したこの状況に、ドルトフは呆然となる。

「……おのれゼットス……結局、貴殿の作戦は全てザルだったではないか!!」

 全ての責任を行方知れずのゼットスに押しつける姿には、もはや一軍の将としての威厳は感じられない。

「もういい加減諦めて、さっさと降参してくださいっ!」

 戦場に響き渡る、モミジの怒気を孕んだ降伏勧告に苛立ち、ドルトフは改めてサクラブライへと向き直る。

「……せめて、貴様だけでも道連れにしてやるのであるっ!!」

 スパルティータは、再び蒸気を充填させた回旋剣を作動させながら、サクラブライ目掛けてがむしゃらに突撃する。格式高いはずの凱甲騎からは、今のドルトフ同様、これまで見せてきた戦乙女の風格は完全に失われたようだ。

「前席、剣から伸びる伝導管を切るんだ!」

 ナランのその言葉に、モミジが目を凝らすと、その意志に反応し、サクラブライの撮像器が該当部分を拡大する。それにより、回旋剣の鍔部分にある動力装置から、蒸気を送り込む為の蛇腹型の伝導管が機体の脇部分に接続されているのが、兜の受像器を通してはっきり見えた。

「……了解です!!」

 モミジは右足(うそく)を引きつつ左半身(はんみ)に腰を落とし、双刃槍の右の穂身を上に向けて構える。むしろ、左腕を伸ばし、左の穂身を腰より下に落としたと言った方が正しいだろう。

「来なさい!」

 その言葉に引き寄せられるように、スパルティータは右半身(はんみ)で回旋剣を突き出すが、サクラブライは後退しつつ、左の槍を跳ね上げ、繰り出された蒸気兵装を上方に叩き上げる。

 火花を散らしながらも、双刃槍の穂身は、回転する剣を受け流す。

「今ですっ‼」

 サクラブライは一歩踏み出し、右半身の構えで腕を伸ばしきったことにより、盾から完全に露出した鎧甲騎の右腕に向けて、右の槍を横に返し振るう。

「しまったのであ―――――る!!」

 ドルトフは慌てて機体に回避運動を取らせるものの、サクラブライは返す右の穂先で、斜めに通り抜けざま、回旋剣と機体を繋ぐ伝導管を切断する。

 サクラブライはスパルティータから5歩分ほど距離を取り、滑るように踵を返して敵に目を向ける。そこには、切断された胴体側の伝導管から、大量の蒸気を噴出し、慌てふためく哀れな戦乙女の姿があった。

「『槍は斬るを以て神髄と成す』……かあさまの教えですっ‼」

 敵の切り札を封じたことで、ナランは勝負に出る。

「調整が不完全だから、少しの間しか使えないけど……」

 ナランは右奧の蓋を開け、その中の把手のような槓桿を大きく引く。

「過剰充填器、始動!!」

「え、なんですか、それ!?」

 モミジが戸惑う中、焔玉機関が唸りを上げ、機関に流れこんだ蒸気を充填器に振り分け直す。


 一方、ドルトフも一方的に漏れていく蒸気を止めるべく、機関士をどやしつける。

「早く(バルブ)を閉めるのである……!」

「は、はいっっ‼」

 蒸気噴出を止めたスパルティータが振り向いた瞬間、機体が巨大な万力のような物に挟まれた。

「きゃつの盾に……爪だと!?」

 サクラブライの可動式盾、その先端から、機械の鉤爪が迫り出し、スパルティータを両側から捕まえたのだ。

「こいつを持ち上げるから、腰に力入れて!!」

「わ、わかりました!」

 ナランの言うとおり、モミジは腕を組み、下半身に体重をかける。

「行くよ、充填開放!」

 過剰充填器に預けられていた蒸気が再び流れこみ、焔玉機関は過剰なまでの高出力を機体に送り込む。それにより、配油循環器から押し出される高圧力の油が作動筒に力を注ぎ、膂力を増した補助腕の駆動装置が、スパルティータを高々と持ち上げる。

「お、過剰充填(オーバーチャージ)?……きゃつは、凱甲騎(トライアン)でなく、鉄甲騎(キャバリ)だというのであるか!?」

 ドルトフが驚くもの無理はない。もとより過剰充填は、焔玉機関に過剰な力を与えるものではなく、焔玉機関に、本来の能力に極力戻すためにあるものなのだ。従って、元から本来の能力に近い凱甲騎の機関には、必要がないものである。

「前席!……体を左に回してくれっ!」

「了っ解です――――――!!」

 ナランの意図を察したモミジは、体を一度、右に傾けてから、思い切り左に振り回す。

「「いっけ――――――!!」」 

 二人の声が唱和し、同時に盾の爪から解放されたスパルティータが宙に舞う。鎧甲騎の機体は仰向けのまま飛んでいき、崖の壁面に叩きつけられる。

 岩肌に背中から激突したスパルティータは、衝撃により一瞬、武器と盾を放るように両腕を前に持ち上げ、そのままがっくりと、腕と頭部が項垂れるように下がる。そしてこの一撃が、サクラブライの猛攻でダメージが蓄積した機体へのとどめとなり、関節の一部から蒸気と油を吹きだした。

 もはや、美しき凱甲騎はただの鉄屑へと姿を変えたのだ。

 それでも、ドルトフは諦めていない。

 諦めきれないのだ。

「……おのれ、我が輩はまだ、負けては……」

 操縦室が具現化術による錬成で保護されていたことにより、辛うじて衝撃から守られたドルトフは、何度も操縦桿を動かし、踏板を踏みつけて、動かぬ機体を無理矢理立ち上げようと試みるが、後部の機関室で気を失っている機関士同様、もはやスパルティータは指一本動くことはなかった。

「もう、観念して下さい……!」

 静かではあるが、怒気と哀れみを混ぜた声とともに、モミジが槍先を突きつける。

 ドルトフは、言葉と同時に突きつけられた槍の切っ先をまだ生きている受像器越しに見せられ、言葉を失い、崖に倒れているスパルティータ同様、そのまま項垂れた。

「きゃつは……鉄甲騎(キャバリ)の分際で我が輩の凱甲騎(トライアン)を討ち取ろうというのか……」

 これまで、前例がなかったわけではない。だが、格下であるはずの鉄甲騎に破れると言うことは、ドルトフにとっては、将軍としての家柄を、そして自身の力の拠り所を否定される事に繋がり、耐え難いことであったのだ。


 暫し沈黙の後、敗戦の将は叫んだ。

「我が輩を討ち取るとは天晴れ!……この勝利、誉であると知れぃ!!」


 おのれを倒した敵を讃える――


 これが、ドルトフにとって自らの名誉を守る、精一杯の手段であった。



 サクラブライの勝利により、全ての戦闘が終結した。

 凱甲騎スパルティータに槍が突きつけられ、焔玉機関の音が聞こえなくなったと同時に、辛うじて生き残っていた三騎のガイシュ、および装甲騎士は戦意を完全に失っていた。

 鉄甲騎は次々と機体を停止させ、操縦士と機関士は機体を降り、装甲騎士もまた、武器を放り、兜を脱ぐ。

 生き残った兇賊どもの姿はどこにもなかった。いつの間にか、掻き消えるようにいなくなっていたのだ。


 激戦を繰り広げていた砦に静寂が戻った。


 その静寂を、一人の叫び声が破る。

「……勝ち鬨だ!」

 後に書かれた戦記では、それが誰であったのかは語られていない。はっきりしていることは、その誰とも知れないものの音頭により、鬨の声が三唱されたことだけだ。


 そんな中、何が起きたのかを理解し切れていない者がいた。勝利の立役者その人であるはずの、モミジであった。

「……終わったんですか……?」

 モミジは、サクラブライの兜を脱いだ。

 ガチャン、と留め金の外れる音と、(しころ)が擦れる音に続いて、頬に当たる涼しい風が、湧き上がっていた闘志をゆっくりと冷ましていく。

 裸眼で見渡す風景は、とても暗く、とても凄惨で、とても騒がしかった。

 砦の城壁は、いまだ煙が燻り、地面には死体がいくつか見受けられ、そして鉄甲騎の残骸が転がっている。そんな中で、兵達は死んだ者たちを嘆きつつも、掴み取った勝利を喜び、英雄を讃えていた。

 そう、皆がモミジに注目していたのだ。

 だが、終わってみたら……振り返ってみたら、何かを成し遂げたという実感がない。

 モミジは、生まれて初めて、[戦う理由]を考えた。

 ――私は、何をしていたのだろう……

 モミジは、守るために戦った。それは事実である。だが、よくよく考えてみると、誰と戦ったのか、わからないままである。

 わからないまま、戦ったのである。

 実感が得られない理由は他にもある。

 ――みんなは、私をサクラブライと呼ぶ……

 その賛美の声は、兜を脱ぎ、素顔を晒しても変わらない。

 鎧武者が鉄甲騎ではなく、巨人の少女であることに一瞬驚きこそはしたものの、抵抗なく、彼等はその名を呼び続けた。

 ――サクラは私のかあさまだけど……

 少なくとも、自分が呼ばれているわけではない。

 そんな気がした。

 自分に対する賛美が欲しいわけではないし、望んでもいない。

 だが、人々が自分をさして他人の名を呼ぶことが、気になって仕方がない。

 ――サクラブライって、誰?

 モミジは、早くこの鎧を脱ぎ去りたくなった。



 対照的に、もう一人の功労者は、この勝利を強く噛み締めていた。

 機関室で、ナランは夢を見ている気分だった。

「……でも、夢じゃないんだ!」

 ――僕が、英雄サクラブライの機関を動かした!

 この鎧の真実を知り、夢は儚いものと、一時は失望した。

 だが、自分が機関室に乗り込み、焔玉機関に火を入れ、迫り来る脅威と戦ったと云う出来事が夢でも幻でもない、紛れもない現実であることは、訓練では感じられなかった、座席の下から、断熱材に囲まれているにも拘わらず伝わってくる熱を通して実感することが出来たのだ。

 天蓋を開け、上半身を乗りだし、周りを見渡す。

 サクラブライの機関室からナランが姿を現わすと、人々が英雄となった少年を歓呼で迎える。その声は、ナランにもう一つの事実を実感させる。

 ――この街を、僕が守ったんだ!

 守れなかった街……失った命……それらによってもたらされた絶望感が、ようやく晴れたような気がした。

 見渡すと、バイソールの肩の上からイバン大隊長が敬礼をしてくれた。

 塔の上からは、目を覚ましたシディカ副隊長がいつものとぼけた笑みを見せている。

 他にも、騎兵隊や自警団がナランとサクラブライを讃え、鉄甲騎隊も武器を高々と掲げて英雄に敬意を表している。

 そして……城門の塔の上から、プロイとセレイが手を振り、ナランの名前を呼んでいた。

 ――今度こそ、僕が守り抜いたんだ!!

 それは、この少年に確固たる自信を与えた。

 思わずサクラブライの背中に立つ。

 ただ、プロイの横で、後ろを向いて頭を掻いているドルージの――最も喜んで欲しい機関士長の、時折見せる厳しくも寂しそうな横顔が気になった。



 ――ナランが鉄甲騎を動かした……

 プロイとセレイが抱き合って喜ぶ傍で、ドルージは複雑な心境だった。

 ――俺は、あいつを機関士として育てた……

 それは、偽りのない事実である。

 ――だが……

 そんなドルージが秘めた感傷に浸っている時、

「今頃来やがって……」

 たまたまナランから目を背け、砦から街を見つめていたドルージは、東の――ウライバの方角から、鉄甲騎と騎馬の軍団を発見し、毒つきながらも、口元を綻ばせる。

 それは、王城からの援軍だった。

 騎馬の軍勢を先頭に、王城配備仕様のバイソール二騎とリストール四騎が、月夜に照らされ、はっきりと見えたのだ。

 遅すぎた援軍であったが、それでも勝利に沸く人々は王城から派兵された軍勢を歓迎する。

 そして、騎馬五十騎の先頭で軍旗を掲げ、馬を駆る武装した少女の姿を見たセレイは、満面の笑みで翼を振る。

「姫さまぁ―――――!」

 馬上には、ミレイ王女殿下の姿があった。



 そんな中、サクラブライと同様に歓声を受けながらも、大隊長イバンは今後のことを考えていた。

「今後の立て直しが大変だ……今回の損害は相当なものだろうからな……」

「鉄甲騎を一騎失い、操縦士と機関士も戦死しました……城壁もかなりの被害を受けています。負傷、戦死者も相当数に及ぶかと……」

 機関士ヘルヘイの言葉に頷きつつ、イバンは考えを巡らす。

「クメーラへの急使を立てる、か……」

「急使……ですか?」

「どっちみち、将軍を捕らえたことを報告して、引き取りに来てもらにゃならないし……いい加減、私とシディカだけじゃ、対処しきれん。そろそろ、藩王陛下にお戻り願いたいものだ……

 だがその前に、将軍閣下には訊かねばならないことがある……」

「それは、一体……」

「ドルトフとゼットスが、どうして知り合えたのか、気にならないか?」



 砦の中は、勝利に沸き立つ中、負傷者の治療と遺体の回収と云った、可能な限りの後始末が続いていた。

 特に、爆破された第四砲台と第二砲台、城門右舷外殻塔の銃座の二ヶ所は、甚大な被害を受けていた。この爆発の中で生き残ったものは、ほんのわずかであった。

 後に記された戦記によると、砦側の死者は二十八名、重傷者を含む負傷も、五十余名と伝えられている。ちなみに、戦記にはヘオズズによる市街への被害は別記とされている。


 負傷者の一人として担架で運ばれていくシディカも、王城の事変解決の報告に安堵しつつ、今後のことを考えていた。

「さすがに、ウーゴは砦も街も、古い作りなのは否めませんねえ……もう、付け焼き刃な近代化改修では、追いつきません。街の再整備や、部隊の再編成など、色々やらなければならないことが多いですが、まず、最優先しなければならないのは……」

「最優先……それは一体……?」

 顔を補佐官に向けていたシディカは、再び頭を担架に沈めながら呟く。

「……兄上、私やみんなに、休暇下さらないかなぁ」

 アガルは、呆れながらも同意した。



「良かった……ナランが無事で……」

 勝利と援軍に人々が喜ぶ中、ナランの無事を実感したプロイは、涙をぽろぽろ流し、顔をくしゃくしゃにして泣いた。

「おー、よしよし……」

 と、そんなプロイを翼で包むセレイもまた、涙ぐんでいた。

「ホント、無事で良かったよ、ナラン……ナラン?」

 セレイがサクラブライの背中に立つナランに目を向けると、ナランは不意に倒れていた。緊張感が解けたことで、忘れていた痛みと疲労感に襲われ、気を失ったのだ。

「……ナラン!?」

 セレイ、そしてプロイが見ている前で、意識を失ったナランが機体から落下する。このままでは、頭から地面に叩きつけられることは間違いない。

 思わず顔を伏せてしまうプロイだが……


 ゴトリ……


 地面に落ちたのは、サクラブライの兜であった。

「……あれ、僕は……?」

 気を失い、落下したはずのナランが目を覚ますと、そこは巨人――サクラブライの手の上だった。

 咄嗟に、モミジが両手で受け止めたのだ。

 それは、共に激闘をくぐり抜け、勝利を手にした相棒同士でありながら、二人が初めて顔を合わせた瞬間だった。

「……ホントに、男の子だったんだ……」

 声を聞いたときには何となくわかっていたつもりだった。

 だが、モミジは、文字通り自分の〈背中を預けた〉ものが、どこか幼さの残る少年だったことに改めて驚き、思わず顔に近づけ、まじまじと見つめる。

 一方のナランも、改めてモミジの存在に驚いていた。

 初めて乗り込む自分の[乗機]が巨人の甲冑であることは聞かされていたものの、まさか、本当に巨人……しかも、それが女の人であり、そして……


「……綺麗だ」


「……へ?」 

 近づけられる巨大な顔を目の当たりにして、思わず呟いてしまったナランであったが、その言葉を聞いたモミジが抜けた返事の直後、言葉の意味に気付き、顔を真っ赤にしたことで、自らが何を口走ったのかを知り、慌てふためきながらも、一瞬誤魔化すように、それでいて満面の笑みを浮かべて拳を突き出す。

「……か、勝ったよ!……僕たちが、この街を守ったんだ‼」

 そんなナランをしばし呆然と見つめたモミジは、改めて周りを見渡す。

 城壁の上ではモミジを呼ぶアリームと、そしてダンジュウが親指を立てて笑っている。

 外殻塔では、山で救ったツバサビトの少女と、街で助けた少女が泣きながら手を振っている。


 ――誰と戦ったのかはわからないけど……


 モミジは、もう一度ナランを見る。

 手の中の少年は、どこか人懐っこい、屈託のない笑みでモミジを見ている。

 その笑みは、モミジをどこか安心させ、そして、実感させる。

 手の中の少年を、自分の顔へと更に近づけ、見つめる。


 ――誰を守ったのか、はっきりわかる……!


 モミジは、ようやくナランに微笑みかけることが出来た。


 ――今は、それだけでいいかもしれない――


 巨人の少女に間近で笑みを投げかけられ、「近いっ近いっ!!」と、顔を真っ赤にして慌てふためくナランを見ながら、モミジはそう思った。



 ナランとモミジ――

 ゴンドアの歴史に刻まれた、数ある英雄譚の一つとして語られることとなる〈鉄甲騎モミジブライ〉に登場する二人の主人公は、この時、まだ、出会ったばかりである……        




 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

 世界の命運とか、主人公の覚醒とか、そんな派手なお話にはなりませんが、今後もまったりと書いていきますので、お時間が取れるときにでも、お付き合いいただければ幸いです。

 それでは

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