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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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裏道

「ルミア、着いたよ」


ルミアはハッと目を覚ました。昨夜も魔道具を作っていたため、疲れていたのかぐっすり眠りこけていた。ルミアを起こしたレオの顔を見て違和感があった。睨んでいるような、悪いことをした子供のような表情。


「すっかり眠ってしまいました。もう着いたんですね」


「…うん」


ルミアはそっと横にピッタリとくっついた白いウサギ姿のエデンに目をやった。ノックスはいつの間にかルミアの膝の上にいた。


「何かありましたか?」

(敬語とか殿下とか、注意しないんだ?)


「ううん。さ、降りよう」


「はい」

(エデンに聞いた話、やりすぎたとでも思ってるのかな)



二人はジオルドが開けた馬車の扉から出て、周囲を見渡した。屋敷の敷地内に停められて、入り口の前に着いたことがわかると、その扉の前に立ってこちらを待っている人に視線を向けた。周囲は街道沿いなのでざわざわと人通りがあることが音で分かった。


「ようこそいらっしゃいました。お疲れでしょう。どうぞ、ご案内させていただきます」


初老の紳士で名を名乗らない。見た目は黒を基調とした紺色のスーツ姿の紳士。胸につけているハンカチが黒い。


通された屋敷内は赤い絨毯がくすんで黒くなっていた。掃除は行き届いているのにどこか古びた装飾で時代遅れの蝋燭のシャンデリアが暗く照らしていた。それを補うように後で設置されたであろう魔石灯が足元の赤い絨毯に描かれた金の装飾の飾り模様を照らしていた。



「訳あって、名乗れませんが、裏山につながる道にご案内します」


「アディはそこに?」


「はい。ここからはできるだけ音を立ててはいけません」


「わかった」


レオは移動しながら初老の紳士と小声で短く会話した。ルミアには聞こえなかったが、各部屋に案内され、食事をとり、入浴を済ませ使用人と宮仕がさがった夜8時過ぎに動き始めた。


ユナたち使用人と宮仕は、ジャベリン公爵の言われた通り、7日かけて中継地点を明日から馬車で移動する。その間にルミアたちは迷宮へと空を移動する予定だった。


ルミアはことの詳細をユナから聞きながら軍服に着替えて、ユナと別れの抱擁を済ませた。何度も「ご無事で」「気をつけてください」「帰ってきてください」と繰り返し言われ、長い抱擁を受けた。



計画通り、認識阻害のマントを頭まで被りレオの部屋へ入る。そしてそこにいたレオとジオルドにマントを渡してスフィラの元へと向かった。スフィラと合流したルミアたちは初老の紳士がレオに伝えた秘密の通路への扉を潜った。階段が地下へと続いており、皆マントから顔だけ出してお互いの存在を確かめた。


「いいかい、音を立てるなと言われた。ここからは静かに進むんだ。道の順路は教えてもらった僕とルドが先頭と最後尾に分かれる。いいね?」


レオは小声で注意事項を伝えると、一人一人確認するように目を合わせた。


「待ってください。この魔道具を」


そう言ってルミアは昨夜作った金色の魔石が着いたネックレスをレオたちに渡した。それはジャベリン家でもらった黄色だった魔石。皆、言われた通りに首にネックレスをつけた。


「これをつけていれば精霊が見えて、会話ができると思う。でも精霊は気まぐれだから…ユナで試したから…たぶん大丈夫」

(エデンがユナを好きだから話すけど、アディは嫌って言ってたっけ…)


『私はルミアを愛してるだけよ。ね、王子?』


「うわっ」


「しーッ」


いきなりエデンの姿が見えるようになったジオルドが、驚いて階段を踏み外しそうになった。現れた純白の妖艶な女性に、目を見開いて観察していたスフィラは、眠気が吹き飛んだ。そんな中、皆の頭だけ見えることに、ルミアは変な感じがした。


「王子って呼ばないでよ。僕がエデンって呼んでもいいの?」


『えぇ、いいわよ。愛する主がつけてくれた相応しい名前だもの。許すわ』


エデンはレオを馬鹿にするように見下して話した。レオは眉間に力を入れ、怪訝な顔をエデンに向けていた。

なぜレオとエデンがいがみ合っているのかわからなかった一同。ただレオがこれほど誰かに敵意を見せているのが意外すぎて、ジオルドたちは見て見ないふりをした。ルミアだけ思い当たることがあったので、レオに向かって意味深な言葉を放った。


「レオ、エデンに触らないで」


「…何を言われたのか知らないけど—」


『さぁ!行きましょう。照らしてあげるわ。ノックス?』


『ルミアに言われるならわかるけどさ…まぁいいや』


足元に喋る黒猫が現れ、ルミアはノックスを抱き上げた。レオの言葉はエデンに遮られて自然に流されてしまった。そんなレオは半目でエデンをずっと睨んでいた。


先頭をジオルド。その後ろにレオ、ルミア、最後尾はスフィラとなった。レオが最後尾に行こうとしたがスフィラがそれを許さなかった。


細い階段をノックスの出した青白い光を頼りに下っていく。ルミアはノックスを抱き抱えていたが、なぜか嫌がって黒猫はルミアの肩に乗った。エデンは周囲を浮遊していた。


階段を降りた先は、町の地下を通る水路だった。淀んだ水が地下を流れ、生活用水や雨水を運んでいた。水路には鉄格子が等間隔に設置されており、鍵がないと通行できなかった。そこで誰でも入れるわけでもない、とわかったルミアは、その鉄格子を鑑定した。錆防止の薬が塗られているのが分かり、その薬はオルグの開発したものとわかると静かに微笑んだ。


鍵は先頭のジオルドが持っていたため、最後尾のスフィラが鍵を閉めつつ、迷路のような通路を進んだ。流れてくる水路の穴から人の話し声や食器のぶつかる音が時折聞こえた。地上の建物と繋がっているから音を立ててはいけないんだな、とルミアはわかった。


水路は暗く、臭い。けれど、ルミアの渡した金色の魔石には、ルミアがたっぷりマナを貯蓄したので匂いはせず、ノックスの青白い光で水路は明るい。ジオルドたちはそれだけで不安や緊張を感じなかった。それよりもワクワクとした高揚感が増していた。それがマナの影響なのか誰もわからなかった。


目的地に近づくと、全身黒い人影がこちらに近づいてきた。ジオルドは警戒して剣を抜こうと構えたが、それがアディだとわかりマントに剣を収めた。髪色と瞳の色、背丈と手を上げる仕草は、アディしかいない。


「こっちだ」


アディは黒い異国の服装だった。見たことないアディの制服に、ルミアは眉間に皺を寄せて鑑定した。上下の服は防護結界が施されている『黒影装』という魔道具だった。その魔道具にはしっかりと母フィオナの名前が現れ、ルミアはすっと目を逸らした。もちろん彼の母が嫌いだからではない。ルミアは関連する複雑な感情を思い出してしまうだけ。


アディはジオルドたちを小声で先導し、上につながる階段へと向かった。何枚か扉があり、魔法で施錠されていたので、アディでないと開けれない仕様になっていた。


ジオルドたちの顔だけが宙に浮かんで、青白い光に照らされていたので、アディから見れば恐ろしい光景だった。けれどアディは余計なことは言わなかった。


「ルミア、俺にもマントくれ」


「あぁ、うん。これも首につけて」


階段を上がりながらアディがルミアの横に来て小声で話しかけてきた。普段通り、昨日温室で何が起きていたか、お互い聞かず、普段通りだった。すぐにアディはマントを羽織ると、先頭まで軽やかに飛んだ。


(え、重力魔法!?)


『あ?なんだ?』


「なんでもない」

(ノックス、思念で会話できるのは私だけだから反応しないで。みんなにはノックスたちの声が聞こえるんだから!エデンも!)


ルミアの心の声に反応したノックスに、ルミアはすぐに釘を刺した。けれど、ノックスはまだ赤ちゃんだからか、元気に反応した。


『わかった!俺の主はルミアだからな。エデン、精霊としては先輩でも俺の方が先にルミアと繋がったんだ!だから俺もエデンも…』


「ノックス!」


「しーっ!」


ルミアに静かにするよう、怒ったスフィラの後ろでエデンがクスクスと笑っていた。



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