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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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ジャベリンの母子

食堂に着くと、ちょうど入り口の前で父と鉢合わせした。こちらに気づいた父はルミアを手で合図して近くに来るよう呼んだ。


「入らないのですか?」


「スフィラの部屋に行ったんだろう?どうだった?」


父は屈んでルミアに小声で尋ねた。


「元気に本を読んでらっしゃいましたよ」


「そうか…何か言ってなかったか?」


「何をですか?」


「…学園でのこととか悩んでなかったか?」


「…いえ、特には」

(学園のことじゃなくて好きな人のことで悩んでた…かな)


「そうか…」


父は立ち上がって食堂へ入って行った。ルミアもその後ろに付いて中に入ると、母がすでに席に着いていた。若干機嫌が悪そうな母をチラリとルミアが見ると、母の目つきが鋭くなった。


「ルミア、やっと食堂に顔を出したわね」


「へへ…」

(すごい怒ってる…)


「ジオルドにしてもアズールにしても…」


母はブツブツと小言を呟きながら不機嫌に食事を始めた。父は横で静かに大人しくしていたが、頑張ってルミアに話題を振る。


「そういえば、ルミアは学園に見学に行くんだったな。明後日ヘイレスト家が迎えに来るとあったが…」


「見学の案内には誰を遣すのかしらね!ルミア、気を引き締めなさいね。9歳とはいえ、あなたは三公爵の令嬢なのですから態度には気をつけなさい」


「…はい」


スフィラのこともあって余計にピリピリとしている母に、余計なことは言えなかった。なのでルミアは素直に返事をした。父はそれ以降何も言わなかった。


食事を終えたルミアは、談話室でのお茶は遠慮して温室に逃げ帰った。ユナが用意してくれたお茶の香りを肺いっぱいに鼻で吸い込むと、やっと心が安らげた。


「ねぇユナ。アディはどうしてるの?」


「アディウス様ですか?すみません、こちらからは報告するだけでわかりかねます。ですが基本的にお忙しい方です」


「そうなんだ」

(またどこか外国でも行ったのかな?)


3月の大会後の翌日を最後に、ルミアはアディと会っていなかった。ルミアは自分の加護について全てを打ち明けた彼に裏切られたのかも、とも思ったが王宮に呼び出されることもなかったのでそれはないか、とも思っていた。



***



アディはルミアの願いを叶えるのに激務と戦っていた。


「母上、報告書の通りルミアは迷宮に行きたがってます。このまま放置しておけば勝手に一人で行ってしまいそうです」


「えぇ?それはまずいわね。変装用の魔道具持ってっていいわよ」


アディの母、フィオナ・ジャベリンは積み上げられた魔道具の山からぽいぽいと息子に魔道具を投げた。


「ありがとうございます。それと兄上にこのことは…」


「はいはい、わかってますって。あの子ね、今国外にいるから大丈夫よ」


「それから加護については陛下に報告済みです」


「…あんたそれでいいの?ルミアちゃん言わないでって言ったんでしょ?」


「今後のことも含めてヘイレスト公爵と話した上で、一部だけを陛下に報告しました。もちろん、彼女の意向が一番大事だからこそ、話したんです」


薄情な息子にため息をつく母。


「ルミアちゃんが知ったら悲しむわよ?」


「あいつにバレなければいいんです。それにこれはあいつを守るためでもあるんですから」


「守るったって、あんた、何から守るのよ?王族に付き従うのが三公爵でしょう?」


「母上、ルミアはオルグ・メイデンのようになると思ってます。外国での商会を大きくするチャンスです。だから俺はあいつに協力して恩を売れるだけ売るつもりです」


「父さんより酷いこと言ってるのわかってる?」


息子は息を吐くように笑い、自信に満ちた声で答えた。


「俺は父上を超えます。それに、ルミアを必要としているのはこの国だけじゃない」


「そうですか、でもねアディ。女ってのはそう簡単じゃないわ。年下だからと侮っていたら痛い目を見るわよ?」


母は息子に凄んできかせた。けれど息子はまた笑った。


「覚悟の上ですよ。それに痛い目ならもう合ってます」


目の下にクマをつくり、寄れたシャツに裾が破れたズボン姿の息子。顔には擦り傷を作り、不健康そうな13歳の男の子。誰が見ても三公爵の令息とは思えない格好。


「…なん層までいけたの?」


「11階層です…」


「明日からは学園なんだから、しっかり休みなさいね」


「はい」


くたびれた息子の背中を見送った母は、今までで一番深いため息をついた。


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