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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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厨房のマッシュ

翌朝、自室で昨夜と同じ薄味スープを食べた後、着替えて屋敷の厨房へ向かった。1ヶ月も体を動かしてないルミアはユナの手を借りてやっと歩ける。


屋敷の玄関にある中央階段、その横から隣接している別棟へとつながる渡り廊下を通り、装飾の少ない建物へ。


扉を開けると、厨房の机に椅子を並べて使用人たちが食事をしていた。


「お嬢様!?」


皆一斉にルミアに視線を向けて驚いて咽せたり、口を抑えたりと様々な慌て方だった。


「お邪魔してすみません。どうぞ食事を続けてください。ちょっと…聞きたいことがあってきたの」


厨房の奥から料理長らしき灰色の髪に焦茶色の瞳の男がルミアに近づいてきた。筋肉質の大柄な男で、袖を捲った腕には古い傷の跡が多く残っていた。


「お嬢様、私がこの厨房の責任者です。何かございましたでしょうか?」


料理長が強面過ぎて意外だったルミアは、一歩下がった。


「えっと…」


ルミアは彼を、その目の力でじっと視た。


『マッシュ・ノウベル30歳(男) 魔力:B  アヴァロフ家の料理長 

                     冒険者ギルド・シルバーランク』


「今朝の食事がお気に召しませんでしたか?ですが、奥様に胃の負担にならないような食事をと言われまして…」


「違うの。スープに不満があるわけじゃなくて……その逆よ!!感謝を伝えたくて!!わざわざ私だけに別の料理を作ってくれてありがとう。ぜひ名前を教えてください!」

(私の目には彼がマッシュ・ノウベルだって見えるけど…確かめなきゃ!)


「え?…えぇ…私はマッシュ・ノウベルと申します…」


料理長マッシュ・ノウベルは全身を震わせながら答えた。


「マッシュさん!いつも美味しい食事をありがとう!また来てもいいですか?」

(間違いない情報が現れてる…ユナに年齢聞いても無駄だし。てか何で震えてるの?怯えてる?)


「え!?えぇ、もちろんです。お嬢様、お元気になられて本当に良かったです」


マッシュは怯えて震えていたのではなく、感動で打ち震えていたのだった。


「確か…シンニンとオニルが使われてた?ツノウモのミルク…も入ってたわ!」


「そんな……ミルクの種類までお分かりに?」


震えが止まり、表情が強張って殺気にも似た雰囲気を醸し出すマッシュ。


「…え?」

(ミルクの種類?わかるわけないよ!!)


「すごいです!凄すぎます!!さすがルミアお嬢様です!!!」


マッシュは大きく手を強く叩き、拍手し始めた。周りの使用人も驚きながら拍手しだす。厨房は破裂音に近い、拍手喝采の音で湧き上がった。ミルクの種類の区別がわかるのは、王宮料理人くらいだということをルミアが知ったのは後のことだった。


ルミアは使用人たちの予想外の反応で困惑したものの、不審に思われてなさそうで安心した。そして逃げるように笑いながら厨房から去り、自室へと戻った。その日は部屋で大人しく体のストレッチをして過ごした。





翌朝、昼前にダニエル・ヘイレストとその息子ノエルが来た。ルミアは少しでも体力を取り戻そうと応接間で体を診てもらうことにした。いつまでもベッドに寝巻き姿を晒すほど弱っていないからだ。


『ダニエル・ヘイレスト38歳(男) 魔力S ヘイレスト家当主 王都魔導学園学長 治癒師』

『ノエル・ヘイレスト18歳(男) 魔力SS ダニエル・ヘイレストの息子 王都魔導学園教師 治癒師 薬剤師』


(あれ?父様と母様よりも情報量が多い…?)


「Sってなんだろう…」


「ん?なんだい?」


「あ、いやなんでもないです」

(また声に出してた…気をつけなきゃ)


ダニエルはルミアの腕から注射器を使って血液を採取した。ルミアはそれをじーっと見つめ、終わるまで黙って観察した。後ろに立っていた彼の息子のノエルは、父ダニエルの補佐として大きなカバンを持って、器具を渡すだけで一言も喋らない。髪は金髪で瞳の色はよく見えなかった。終始、俯いていて影が薄い。


「体はどうかな?頭痛はまだするかい?」


「いいえ、もう痛くありません」


「そうか、もし痛みを感じたら周りに言うんだよ?」


「はい、ありがとうございます」


「それと、倒れた時の状況を教えて欲しいんだ」


「……えっと……あまりよく覚えてないです…」

(覚えてるけど…言えない…)


「君の侍女から聞いたよ。最後にルミアちゃんを見たのは、考え事をするから一人にして欲しい、と言ってたそうだね?」


「あー…そうですね…オルグ様の素晴らしさを考えていました…」


「うん、それで?」


ダニエルは威圧的ではないが、ルミアは質問に身構える。


「突然頭が痛くなって…覚えているのはそこまでです」


「うーん…その後異変はないかい?前に言ってた黒いモヤモヤとかは?」


「…いえ、今のところ特に変化はないですし、黒いのは見てません」


「そうかぁ…もし何かあったら、すぐに周りに言うんだよ?いいね?」


ダニエルはルミアの手を両手で握り、優しく微笑みかけた。


だが、自分に起きている異変をルミアは言うつもりなどなかった。自分でもよくわかっていない現象をどう説明すればいいのかわからない。それにまた王宮に連れて行かれるのは嫌だったから。


「はい、ありがとうございます」

(禁書の落書きの魔法陣なんて言えない……)



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