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青空と海と大地 ーそらとうみとだいちー  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第6章 未来への選択

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042 三者尋問

 


「それで? 告白の返事、いつになったらくれるのよ」


 とまりぎ忘年会。居酒屋にて。

 海の一言に大地がビールを吹いた。

 青空(そら)はテーブルを叩いて笑っている。


「げほっ、げほっ……ど、どうした海、藪から棒に」


「薮も棒ももういらないの! そんなことよりどうなのよ!」


「お前……もう限界だろ。頼んでやるから水飲んどけ」


「限界じゃありませーん。酔ってなんかいませーん」


 そう言ってジョッキを持つのを大地が遮る。


「いやいや、どう見ても酔ってるから。今日はこの辺でやめとけって」


「うっさいなー。あんたは私のお母さんか」


「せめて父親って言えよ。って、んなことどうでもいいわ。すいませーん、お冷やひとつくださーい」


 個室から顔を出し、大地が店員に声をかける。その隙に海はジョッキを手に、残ったビールを一気に流し込んだ。


「ぷはぁーっ! 生きてるって最高―っ!」


「ったく……青空姉(そらねえ)も笑ってないで止めろよな。誰のせいだと思ってんだよ」


「にゃははははっ、悪い悪い」


「全く……」





 行きつけの居酒屋で始まった忘年会。一年の思い出や来年の抱負など、鍋を囲み和やかな時間が続いた。

 そして話題が、青空(そら)浩正(ひろまさ)の結婚式になった。青空(そら)が大地の肩を抱き、「大好きなお姉ちゃんを取られて寂しいか? どうなんだよ、このシスコン野郎」と絡むのを見て、海も楽しそうに笑っていた。


「それで青空(そら)さん、ウエディングドレスはもう決めたんですか?」


「この前レンタルの衣装屋に行ってきてね、浩正(ひろまさ)くんと一緒に決めたよ」


「そうなんだー。楽しみだなー、青空(そら)さんのウエディングドレス姿」


「私は海ちゃんのも見てみたいけどね」


「私の……ですか?」


「うん。だって海ちゃん可愛いし、絶対似合うと思う」


「そんなこと……そう思います?」


「うん、思う」


「えへへへっ、ありがとうございます」


「でもその前に、どっかの馬鹿から言質(げんち)とらないとね」


 その言葉が発端となり、海の飲むペースが速くなったのだった。

 そして現在に至る。





「大地ってばほんと、ヘタレだよねー」


「誰がヘタレだよ、誰が」


「だって大地、女の私が告白してるのにさ、受け入れるでも断るでもなくずっと逃げて。返事は今日かな、明日かな。そう思ってドキドキしてる私の気持ちなんて、これっぽっちも考えてないでしょ」


 追加のジョッキを手に、一気に流し込む。


「どうせあれでしょ。そうやって有耶無耶になるのを待ってるんでしょ」


「そんなことねえよ。俺だって考えてるんだ」


「……私だってね、無理なお願いだってことぐらい分かってる。青空(そら)さん以外誰も信じられない、そんな大地に好きって言っても、困るだけだって分かってる……

 でもしょうがないじゃない! 好きになっちゃったんだから! 自分の気持ちに気付いちゃったんだから、しょうがないじゃない!」


「とにかく落ち着けって。熱くなりすぎだ……ああすいません、ありがとうございます。ほら海、お冷やだぞ」


「ふんっ、馬鹿」


 大地から荒々しくコップを奪い、お冷やを飲み干す。


「……で、どうなのよ。それともほんとに、ずっと誤魔化すつもりなの」


「いや、だから……何も青空姉(そらねえ)たちの前で聞くことないだろ」


「証人よ証人。でないと大地、後になってから『そんなこと言ってない』とか言いそうだもん」


「んなこと言わねえよ。俺を何だと思ってるんだよ」


「私の可愛い想い人だよ」


 そう言って大地に抱き着いた。


「ふふっ、大地……好きー、だーい好きー」


「ちょ、ちょっと待てって……いくらなんでも人前で」


「別にいいじゃない。毎晩こうして寝てる訳だし」


「誤解を招く言い方すんな。あれはただの添い寝だ」


「でも大地だって、まんざらでもないって思ってるじゃない」


「いやいやお前、ちょっと黙れ」


「こうやっててさ、たまにあるんだよね。大地が興奮してる時が」


「それ本当?」


「そうなんですよ青空(そら)さん。だから私、そんな大地が可愛くて。意地悪したくなって、もっと抱き着いてるんです」


「なるほどなるほど……確かに海ちゃんのささやかな胸は、大地にとっては楽園の果実だからね」


「があああああっ! 青空姉(そらねえ)、変なところで乱入してんじゃねーよ!」


「それでどうなのよ! いい加減逃げないで、男らしく答えなさいよ!」


「こんな状況で答えられるか!」


「へえええっ、そんなこと言うんだー。じゃあ何、ちゃんとセッティングしたら答えられるんだー」


「そ、そうだ。決まってるだろ」


「はい嘘―っ! それが本当だったら、とっくに返事されてると思いまーす」


「私もそう思いまーす」


 海と青空(そら)が肩を組んでうなずきあう。


「なんなんだよこいつら……浩正(ひろまさ)さん、助けてくださいよ」


「こうなってしまった青空(そら)さん、僕にどうにか出来るとでも?」


「いや、それは……そうですね、無理だと思います」


「それに僕も、別に止めなくていいと思ってます」


浩正(ひろまさ)さんまで……勘弁してくださいよ」


「確かにお酒がこんなに入って、こんな場所でお姉さんの前で。彼女からの告白に答えるのは大変だと思います。ですが、いいきっかけだとは思いますよ」


「……そうでしょうか」


「ええ。時にはこうして強引に、なし崩し的に動いていく運命もあるんです」


「……」


「勿論、決めるのは大地くんです。ですが大地くん、そろそろいいんじゃないでしょうか」


「それって、どういう意味ですか」


「大地くんの中で何がブレーキになっているのか、それは僕にも分かります。至極単純なことですから」


「……単純ですいません」


「ですが、それが大地くんという人間の根幹なんだと思います。でもそれが、海さんによって揺らいでしまった」


「……」


「誰も信じられない、信じたくない。そんな自分は、世界のバグでしかない」


「おおっ、流石浩正(ひろまさ)くん。新しい表現だ」


青空(そら)さん青空(そら)さん、バグって何ですか」


「夢を食べる獣のことだよ」


「それは(ばく)だ。て言うか、変なところで乱入してんじゃねーよ」


「あはははははっ、ごめんこめん。気にせず続けて」


「ったく……」


 浩正(ひろまさ)が日本酒に口をつけ、微笑む。


「幸い大地くんの戸惑いの中に、海さんが相手だから悩んでる、そういうのは感じられません。海さんにとって、これは大きなアドバンテージだと思います」


「そうなんですか?」


 浩正(ひろまさ)の方を向き、海が意外そうに尋ねる。


「ええ。だって海さんと出会ってからの大地くん、すごく楽しそうですから」


「そうなんだ……嬉しいな、大地」


「……うっせえよ」


 三人の視線を一身に受けて。

 もう逃げられないのか。そう思い、大地がため息をついた。




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