表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青空と海と大地 ーそらとうみとだいちー  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第3章 それぞれの過去

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/72

014 つぶやき

 


 ベッドに寝転び壁を向いた大地。その背中を海が抱きしめた。


「一緒に寝ろって、こういうことか」


「顔を見ながらだと、話せそうにないから……」


「まあ、向き合って話すのは戦いみたいなもんだからな」


「そうなの?」


「何かで読んだことがあるんだ。相手の顔を見据えて話すのは、歓談というより交渉に近い。リラックスして話すには、隣同士に座ってとかの方がいいらしい。車の運転席と助手席、なんてのが理想の形だそうだ」


「確かに……面と向かってると、お互い自分の主張を通そうとしてるって感じがする。大地って、色々博識なんだね」


「ただの雑学だ。それよりほら、聞く準備は出来てるぞ」


「……そういうところは本当、デリカシーに欠けるんだけど」


「俺に多くを求めるな。これでも精一杯なんだ」


「他人に興味を持つ。そのことから逃げてるから?」


 核心を突かれた、そう思った。


「……青空姉(そらねえ)から聞いたのか」


「うん。でも聞いてなくても、何となくそんな気はしてた」


「……そうか」


「私が死にたいのは裕司(ゆうじ)に会う為。そう言ったよね」


「ああ」


「まあ、話の着地点がそこなのは間違いないの。だからこれからする話は、大地にとっては聞いても仕方のないこと。聞いたところで、どうすることも出来ない訳だし」


「さっきも言った通り、俺はただ聞くだけだ。まあ、合いの手ぐらいは入れてやるが」


「そうだったね、ふふっ……私の両親は、本当に優しい人だったの。たくさんの愛情を注いでくれて、いつも温かく見守ってくれた」


「……」


「でもだからと言って、叱らないってことはないんだよ? 悪いことをした時には、それはもう怖かったんだから」


「親としての責務を、立派に果たしてたんだな」


「うん、そう。叱る時にはちゃんと叱る、褒める時には全力で褒める。私が社会で生きていけるよう、愛情深く接してくれた。だから私、お父さんのこともお母さんのことも大好きだった。嫌いだなんて思ったこと、一度もなかった」


「そうか」


「私は周りと比べても、幸せ度数が抜きんでたと思う。手を上げられたこともないし、能力以上の結果を期待されることもなかった。ありのままでいい、そう言ってくれた。

 でもね、人って本当、平等に出来てるの。過度な幸せには必ず調整が入るんだ」


「……」


「中学2年の時だった。二人共、旅行先で事故にあって」


 大地を抱く手に力が入る。


「その日から私は、親戚の叔父さんのところで暮らすことになった。叔父さんたちは私を温かく迎えてくれて、そこでも私は何不自由のない生活をすることが出来たの。でもね……

 私の心は、そこで一度壊れたの」


「……そうか」


「そんな私のことを、叔父さんたちは本当に心配してくれた。カウンセリングなんかも用意してくれた。私、悪いなって思った。こんな私を引き取って、実の子供のように接してくれていたのに。私は心を閉ざしていた。たくさんの好意を踏みにじって、なるべく関わらないようにしてた。

 多分私、怖かったんだと思う。このまま好意に甘えて、叔父さん叔母さんを本当の親のように思ってしまったら。好きになってしまったら。お父さんたちの時のように、別れる時辛い思いをすることになってしまう。それを受け止められる気がしなかったの。

 誰も好きになりたくない。友達もいらない。大切になればなるほど、失った時に辛いから。だから……高校に入ってすぐ、引きこもりになった」


 背中が海の涙で濡れた。


「そんなある日、クラスメイトが家にやってきたの。クラス委員で、行事予定のプリントとかを持って来て」


「それが」


「うん、そう。裕司(ゆうじ)


「そうか。ところで海、それはそれとして、なんで背中に頬ずりするんだ」


「駄目……かな」


「駄目ってことはないんだが。好きな男の話の時に、違う男に頬ずりする。その意図がつかめなくてな」


「意味なんてないよ。でも言ったでしょ? 私はもう、温もりがないと駄目なの。大好きだった裕司(ゆうじ)はいない。でもまだ、裕司(ゆうじ)の元に行く覚悟が出来ない。

 大地には悪いと思ってる。でも……ごめんなさい、もう少し私の我儘、付き合ってください」


「俺は別に構わない。元々高めだし、体温ぐらい分けてやる」


「ありがとう……それでね、私は勿論会わなかった。ほっといてほしい、大体何で男子なの? こういう時は担任か、女子が来るものじゃないの? そう思った。

 玄関先で、叔母さんが謝ってる声が聞こえた。その時初めて裕司(ゆうじ)の声を聞いたんだけど、なんかこう、今時の男子って感じだった。弱々しくて、愛想笑いばっかりして。それを聞いてね、会わなくて正解だって思ったの」


「最初の印象は最低だったってことか」


「そうね。元気だった頃に出会ってたら、絶対話なんかしないタイプね。

 でも彼、それから毎日来るようになったの。その度に授業で使われたプリントとかを持ってきた。最初は叔母さんも申し訳なさそうにしてたんだけど、会ってる内に気が合ったんだろうね、リビングに通してお茶を出したりしだしたの」


「拒絶されてるというのに、中々に肝の座ったやつだな」


「そう! そうなのよ! だから私、段々腹が立ってきてね、裕司(ゆうじ)が来るとイライラするようになったの。

 リビングから、叔母さんと裕司(ゆうじ)の笑い声が聞こえる。あんた、何しに来てるのよって思った。肝心の私に会えてないのに、何呑気にお茶飲んで笑ってるのよ。私がどれだけ悩んでるかも知らない癖に、物見遊山で来てるんじゃないわよって思った」


「面白いやつだな」


「そんな言葉で片付けられるものじゃないから。毎日毎日、クラスメイトの家でお茶飲んでるんだよ? しかも叔母さん、日を追うごとに彼のことを気に入ってくし」


「ははっ、やっぱり面白い」


「今は笑い話だけど、その時は本当、腹が立って仕方なかったんだから。学校もやめてしまおうか、そこまで考えたんだから」


「それで? そいつと初めて会ったのはいつなんだ」


「彼が通い出して4か月が過ぎた頃」


「4か月も通ってたのか。我慢強いやつだな」


「それも夏休みもだよ? 休みだってのに毎日来てたんだよ? おかしいでしょ、怖いでしょ」


「確かにな。どれだけ暇なやつでも、そこまで続けるのは無理だろうな。心が折れそうだ」


「でね、夏休みも終わりって時にね、裕司(ゆうじ)と対面したの」


「部屋に入れたのか」


「まさか。このままじゃ(らち)があかない。こうなったら直接言ってやる、そう思ってリビングに突撃したの」


「……中々に熱い展開だな」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ