10.幸せとはこんな感じかな
私は、誰が鳴らしてくれているのか緩やかなフルートみたいな音色を聴きながら、緊張していた。
「はい、じゃあ誓いの口づけね!」
金髪お兄さん、シャートさんの進行の元夕暮れのなか、レイリアさんとジャスミンさんだけではなく騎士の皆さんまでいる。いえ、訓練を邪魔したのは私ですが。
……キスってやっぱり口だよね。さっきなんかされたけど、こう注目の中では辛いよ。
「あれ、それもやるの?」
「ああ」
どよんとしていたら頭上で何やらやり取りがされている。
「チドリさん、手を貸してもらえますか?」
真っ白な手袋の手が差し出された。その手の上には楕円形の透明感のある空色の石がのっている。
「これは、宝石ですか?」
「価値はあまりないですが鉱物だそうです。私達ヒトは生を受けた時、一つの石を持っています。婚姻の際に相手の方と力を混ぜると変化する場合があるそうです」
なんか後半が。
「変化しない場合もあるんですか?」
「はい。力の加減やその時の気温、相性など言われていますが不明です」
ルモンドさんは、私の右手をとり石を被せるように置きながらゆっくり説明してくれる。
「もし変化したら、それは生涯なんらかの助けになってくれると言われていますのでやってみようかなと。重たいと感じられますか? 無理にさせるつもりはありません」
改めて見るカッチリと制服を着たルモンドさんは、近寄りがたさとなんか強さというかカッコイイ。
いえ、いつもだけど。
「私の世界では石も魔法もなくて。それでも大丈夫ですか?」
「どうなんでしょう。チドリさんの力も特殊ですし私の石は大きめなので。まあ、やってみないとわかりません」
そっか。二つ石があっても成功するか分からないって言ってたし。
「全部、言葉にして下さってよいですよ」
私が、違う事が気になっているのはお見通しだったのかな。
「えっと、今更ですけど私でいいんですか?」
クスリと声がした。
「わ、私、かなり真剣にっ」
なんで真面目なのに!
「はい。チドリさんがいいです」
そんなアッサリと。
理想を言葉にしたようなセリフに夢なんじゃないかなと疑う。
「私、肩書きしかないし。か、顔もルモンドさんの隣にいていいような奴じゃないし。中身だってどろどろで」
またクスクス笑われ、なんか情けない。
「すみません。可愛らしいなと」
「なっ」
思わず上げた顔の先には、とても穏やかな顔をした人がいた。
「貴方がどろどろなら、私は、酷すぎてどうしたらよいんでしょう。殿下達に、隣国の若造に奪われたくなくて自ら陛下に褒美が欲しいと願い出て」
手袋ごしに頬に添えられた手は、いつも優しい。
「貴方にとって、あの場は地獄だった。我々にとっても。でも、あの場の貴方に私は惹かれた」
私は、いつからルモンドさんが気になっていたんだろう。いつから嫌われてないかな? 平凡な奴と暮らして楽しいのかなって考えていたのかな。
「私こそ、こんなオジサンですが一緒に暮らして頂けますか?」
信じていいのかな?
駄目なとこばかりの私でいいのかな?
「はい。ルモンドさんがいいです」
「あ~~いいかな君達。締めを頼むよ!独り身は、この空気辛すぎなんでね!」
「お前なら選び放題だろう? 遊びすぎだからだ」
シャートさんは、プリプリだ。確かにモテモテな感じがします。
「オッサンは煩いよ!」
「意外と響くからやめてくれ。じゃあ、手に力を集めるようにしてみて下さい」
「はい」
柔らかい金色と水色の光が重ねた手の中から溢れてくる。それはどんどん強くなって。
──手が熱い。
「おっ成功かなって、ブブッ」
シャートさんの声に眩しさに瞑っていた目を開けた。重ねていた手をそっと放せば。
「石がない?」
手の中は空っぽ。
「チドリ様、腕ですわ!」
「あっ」
レイリアさんに言われて見ると、右手首にいままでなかった物が。濃い紫の腕輪だ。ルモンドさんも左手首に同じ物。あ、なんか一ヶ所光った。
「これ結晶の形」
金色の飾りが埋め込まれた形は、助けてくれた時の梅の結晶の柄だ。
「こんな素敵なのに何でシャートさんが爆笑しているんですか?」
ヒーヒー笑うほど楽しいの?
「ルモンドさん、顔、真っ赤ですよ?」
私のはるか上にある顔は夕焼けだけど、それとは違った色になっている。耳まで赤くなってますよ?
「チドリちゃん、さっき瞳の色の説明したじゃん。俺が何て言ったか覚えてる?」
先に笑いから復活したシャトーさんがヒントをくれた。
「えっと、嫉妬とよく…欲情手前…?!」
「正解~! 誓いの物にまででちゃうって凄いよ!」
「そういう方だったなんて、見かけによらないですわね~」
「ふふっ」
私は、もう一度腕輪を見て、そしてルモンドさんに伝えた。
「とても綺麗で素敵な腕輪ですよ」
「優しい奥さんでよかったね! 俺は、重たくて引くけどね。おーい! いいの打ち上げられたらルードの店で飲み放題にしてやるってルモンド指揮官が言ってるよー!」
「本当ですか!」
騎士さん達がシャートさんの言葉により一気に騒ぎ始めた。
「あそこの酒うまいんだよな!」
「食事も出して下さいー!」
「いいよー!イテッ」
「シャートお前も半分出せ」
「なんでよ!」
あ、ルモンドさんが怒りで復活し、シャートさんの頭をグリグリしている。
「綺麗!」
空に光る花や鳥の形が現れた。どうやら騎士さんが作り出してくれているみたい。シュッやシャランという音がうち上がる度に鳴る。魔法なんだろうけど花火みたい。
「あ、大丈夫ですか?」
肩にずっしりとした重みが。ルモンドさんの頭がのっかっている。
「いえ、恥ずかしすぎて。慰めて下さい」
重みがなくなくなった瞬間、影ができて唇に柔らかい感覚が。
「暗いですけど、見られるのが嫌かと思いまして」
どうやら被っていた帽子で視界を遮断しキスしてくれたらしい。
「でも、さっきはいきなりでした。初めてだったんですが」
私の言葉に一気に挙動不審になるルモンドさん。
「あれは、ちょっと」
「ちょっとなんですか?」
「振り向いてくれないのが」
じっと見続けていると。
「…すみません」
弱いですよ。
「ならば許可を頂きつつ進めましょうか」
訂正します。なかなか強い。
「ゆっくりお願いします」
「…畏まりました」
わあっ
一際大きな花が夜空に広がり歓声が上がる。
「綺麗だなぁ」
「はい。力をこういうものに使えるような日を送れるように護ります」
「私も護りますよ」
「それは頼もしい」
カチン
再び柔らかいキスとどちらからともなく絡ませた手元から腕輪が鳴った。
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